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第2章 うたた寝王女絶叫編
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しおりを挟むとうとう歓迎の夜会当日となった。
私は朝からレッシュ公爵家のメイド総出で体を磨かれ、艶々のピカピカに仕上げられていた。
夜会で着るドレスも、始め既製品を用意しようと準備していたのをマリアンヌ様に見咎められ、レッシュ公爵家お抱えのドレスショップにて特注することになった。
デザイナーが来て、私に似合うドレスのデザインを数点提案された時は、何が何だかわからず、結局全てマリアンヌ様にお任せすることになり、出来上がったドレスは私の瞳の色と同じ淡い紫色の生地に胸元はレースが幾重にも重なった花のデザインとなっていて、ドレスの裾にも同じレースの刺繍が施された豪華なものとなっていた。
Aラインのドレスを着て、髪をアップにし、リザンヌ王国から唯一持ってきた王女の証のティアラをつけると、平々凡々な顔立ちの私でも、僅かばかり華やかになる。
胸元を飾るネックレスとイヤリングは、小粒ながら貴重なブルーダイヤモンドがあしらわれたものだった………
これは、イアンからの贈り物なのよね………
………イアンの瞳の色と一緒………
先ほどイアンからこれを渡された時のことを思い出していた。
『ルティ………今日はエスコート出来ないけど、僕のかわりに連れて行って。
僕の瞳の色と同じブルーダイヤモンドのネックレスとイヤリング………
これでいつでも一緒だよ。
………心配しないで僕がついているから』
イアンがつけてくれたネックレスを触ると不思議と気持ちが落ち着く気がした。
『トントン』
「ベイカー公爵家のリドル様がエントランスでお待ちです。」
………とうとう時間が来てしまったようだ。
私は侍女のアンナに別れを告げ、エントランスに向かう。
「お初にお目にかかります。リザンヌ王国から参りました第二王女のルティアと申します。この度は、エスコートお引受け頂きありがとうございます。」
私は丁寧にカーテシーをとり挨拶をする。
「リザンヌ王国のルティア王女様ですね。わたくし、ベイカー公爵家のリドルと申します。今夜ルティア様のエスコート出来る事、とても光栄に感じております。」
私の前には、優雅に微笑む甘いマスクの美丈夫が立っていた。
………これは夢みる令嬢が好みそうな方だわ………
ひとつひとつの所作が優雅で完璧………
惹きつけられるわね………
現実的なルティアは、リドルをただ観察しているだけで全く無感動であったが。
「ルティア様…お手をどうぞ………」
さりげなく出された手に、自身の手を重ねる。
ここで普通の令嬢なら頬でも染めているのかしらね………
私は、どうでもいいことをツラツラ考えながらベイカー公爵家の馬車に乗り込んだ。
私達が王城へ着くと、今日の主役が私と言うこともあり豪華な一室に通される。
どうも、後ほど王族の皆様と一緒に舞踏場へ入るようだ。
「ルティア様、時間になりましたらまたお迎えにあがります。」
婚約者候補といえども正式に発表されていない今、部屋にふたり切りはないのね………
部屋を退室するリドル様を見送りながら妙な安堵感を感じていた。
それから数刻後、迎えに来たリドル様と共に王族の皆様と会場入りした私は、大きな響めきに包まれる事となった。
『………あぁ…あの方がリザンヌ王国の王女様ですか。何とも平凡な顔立ちの方ですなぁ~』
『例の正妃に虐げられた王女様でしょう………もっと儚げな方だと思っておりましたが………何とも普通のご令嬢よ。』
『………見て…隣でエスコートされている方………ベイカー公爵家のリドル様ではありませんの⁈やはりあの噂は本当なのかしら………
我が国の公爵家へ嫁がれるという………』
『わたくし達のリドル様が………口惜しい………
我が国と同盟を結びたいリザンヌ王国が押しつけたのだわ‼︎助けてあげたのに何て厚かましいの‼︎‼︎』
私は会場のあちらこちらから聴こえてくる囁き声を聞きながら平然と前を向いていた。
………まぁ、大方予想していた通りの反応だわ………
「ルティア様、あまり周りは気にしなくて大丈夫ですよ。貴族という者は、相手を蔑めて自分が優位と思いたいだけの生き物ですから………」
隣に立つリドル様が、周囲の反応に萎縮していると思われたのかフォローしてくださる。
「リドル様お気遣いありがとうございます。
………少し気が楽になりましたわ。」
「それなら良かった。」
その後、陛下から私の紹介があり王族のファーストダンスの後、とうとう私の番となってしまった。
リドル様に手をひかれホールの中央に立つ………
リドル様に腰を抱かれ見つめ合うと静かに曲が流れ出した。
………クルクル………クルクル………
ステップも間違えずに踏めている………
リドル様の巧みなリードに身を任せ、お互いに見つめ合いながら踊る………
「ルティア様は、ダンスがお上手ですね………
リザンヌ王国とはステップが少々違いますので心配しておりましたが………
とても踊りやすい………
流石、一国の王女様ですね。」
「リドル様…ありがとうございます。
練習した甲斐がありましたわ………」
私は、リドル様にリードされ踊り続ける………
自身の心が全く動かないことを感じながら………
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