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第2章 うたた寝王女絶叫編
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しおりを挟む~イアン視点~
………くくっ………はははっ………
まさか僕の気持ちに全く気づいてなかったとは………
しかも、寝顔を見たくてついてきただって………可笑しくて悲しくなるね………
3年も一緒にいて、ほぼ毎日寝顔をみて、言葉を交わして誰よりも親しくなったと思ったのに………
男としてすら見て貰えてなかった………
あの鈍感王女め………誰がどうでもいい女の寝顔を3年間も見続けるかっていうんだ………
ルティの部屋から戻って来たイアンは、リザンヌ王国での日々を思い出していた。
3年前………僕は、シュバイン公爵家のハインツ様の指示でリザンヌ王国入りをした。
もともと、ハインツ様の元で各国の諜報活動をしていた僕は、いち早くリザンヌ王国のキナ臭い噂を仕入れていた。
リザンヌ王国の王弟殿下がクーデターを企てているらしいと………
その時はまだ噂の段階で真実の程は不明………万が一クーデターが起こった際にグルテンブルク王国が王側に付くか王弟側に付くか見極めるため、ハインツ様は僕を遊学の為の留学という名目で、リザンヌ王国の王宮に送り込んだ。
王宮では、図書館司書という隠れ蓑の元簡単に王宮内の情勢を探ることが出来た。
王宮図書館は何故か、人がほとんど来ない諜報活動をするには持ってこいの場所だった。
その後、ルティに出会い、何故王宮図書館に誰も来ないのか知ることになるのだが………
王女がうたた寝している図書館においそれと入れる図太い神経の者は、そうそういないか………
僕が、王宮での諜報活動をし出し、すぐにルティア王女の噂を耳にするようになった。
ルティア王女は、側妃の子供で幼少期から正妃や正妃に近しい使用人から虐げれている話は隣国でも有名な話だった。
後宮でも居場所がなく、実の母親は陛下に囲われ滅多に会うことも出来ない。
さぞかし、儚げで寂しそうな女性をイメージしていた僕だったが、王宮でうたた寝王女と呼ばれているルティア王女の噂を知った。
噂では、ルティア王女は毎日王宮図書館に入り浸り、昼の時間になると特定の机に突っ伏してうたた寝をしているというものだ。
………儚げで寂しそうな王女がうたた寝………
自分の想像を覆す噂………確かめずにはいられなかった。
昼の時間になると、王宮図書館へ行き館内を歩き回る。
奥まった場所にある窓の近くの机に突っ伏して寝入っている女性を見つけた。
ここからではよく見えず、徐々に近づき王女らしき女性が寝入っている椅子の向かいの椅子に腰掛けた。
顔を隠して寝ている為、様子はわからないが無防備に寝息を立てて眠る女性を見ていると、そこだけ隔絶された世界のように穏やかだった。
時間を忘れ、見入ってしまう………
その時、寝入っていた女性がムクリと起き上がり、僕と目が合う………
焦げ茶色の緩くウェーブがかかった髪に、紫色の瞳………
平凡な顔立ちなのに、暖かな光に照らされて何故か魅力的に見える………
「貴方、誰?………私が王女と知っての狼藉ですか?女性の寝顔を観察するなんて最低です。」
………やっぱりルティア王女でしたか………
ヨダレを垂らして幸せそうに寝ていた王女………想像以上に逞しい女性のようだ。
ルティア王女に興味を持った僕は、図書館司書という立場を利用して度々、ルティア王女のうたた寝に付き合うようになった。
ただの顔見知りから友人の位置に昇格するのは早かった。
ルティア王女は、図書館に入り浸っている為、信じられないくらい博識だった。それだけでなく、状況をきちんと把握し、自分の立ち位置も理解して行動する賢さも併せ持っていた。
たかだか15歳の女性が持つ賢さのレベルではない。
誰もいない図書館で、リザンヌ王国の情勢、王女から見たグルテンブルク王国の立ち位置、他国との関係………
色々な議論を闘わせたこともあった。
その議論が尽く今後起こるであろう情勢の変化を言い当てていた時には、感嘆の声を漏らしていた。
そんな賢く、でも無防備なルティア王女に恋するようになるのに時間はかからなかった。
………リザンヌ王国は、逸材をグルテンブルク王国に放出することになる。
世の中の情勢を読む力は、どんな貢ぎ物より貴重だ。
ルティア自身が、グルテンブルク王国への貢ぎ物だなんて、本人も知らないんだろうなぁ………
さて………あの鈍感王女を、これからどう落とそうか………
まさか、僕の恋心すら気づいていなかったとは………
イアンの自室に深いため息が響いた。
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