売れ残り男爵令嬢は、うたた寝王女の愛ある策略に花ひらく

湊未来

文字の大きさ
上 下
9 / 92
第1章 男爵令嬢困惑編

8

しおりを挟む

~リドル視点~

毎朝の寝起き攻防が、功を奏したのかミリアとの関係は良くなっていた。

初日の最悪な出来事のせいかはわからないが、次の日俺を起こしに来たミリアは、何も言わず布団をはぎ取った。

裸で寝る事が多い俺は、寒さで目が覚め起き上がると部屋の隅で真っ赤になってしゃがみ込んでいるミリアを発見した。

しゃがみ込んで震えているものだから心配になり声をかけると………

『さっさと服を着てくださいませ‼︎』

と叫ばれ、着替えを投げつけられやっと裸であった事に気づいた。

真っ赤になって叫ぶミリア………可愛いかったなぁ~

思いのほか、男に免疫がないミリアに心がふわふわと浮き足立つ………

しかし次の日に、シーツ毎床に落とされて起こされたのにはビックリした。

今では、2、3度の声かけで目が覚めるようになった俺だが、最近のお気に入りは寝室に入ってきたミリアがカーテンを開け日差しが差し込む中、ベット横から俺を覗き込み声をかけるのを薄目で観ているのが好きだ。

日の光を背に、優しく声をかけられ、近くでミリアの匂いに包まれる瞬間が何よりも幸せだ。



徐々に、俺の専属侍女として仕事にも俺にも慣れ、昔のような気安さで接してくれるようにはなってきたが、ふたり切りの時も、決して侍女としてのスタンスを崩すことはなかった。

部屋で執務をしていれば、静かに退室し、頃合いを見てお茶を出す。
お茶に誘っても、侍女だからと断り静かに壁の花となる。
気分転換に散歩に出ても、数歩後ろを静かについてきて、決して隣は歩かない。

主人と侍女という距離を崩さないミリアに、少々焦っていた。


自室にて執務をしていたある日、休憩時間に無理やりミリアをお茶に誘い、ゆっくり話す事が出来た。

一緒にお茶出来るチャンスなんてそうそうない俺は、思い切ってミリアをデートに誘うことにした。

他の令嬢にはスラスラ出る誘い文句もミリアの前では、何も浮かばない………
市井でデートする適当な理由しか言えない俺に、ミリアは一緒に着いていってくれるという………
嬉しくて天にも上る心地だった。


デート前日はソワソワして、ほとんど寝られなかった俺だが、当日のデートプランだけはしっかり頭に入っていた。

女性の好みそうな店ならいくらでもわかる………
菓子店、ジュエリーショップ、帽子屋、ドレスショップ………
美味しいスイーツがあるカフェレストラン………

あわよくば、ミリアの好きな物がわかれば良いと期待しながら、街に繰り出した。



人混みの中、いつもより近い距離にミリアがいる………
それが嬉しかった………

しばらくふたりで歩いていると、何人かの男がミリアを見て振り返る………

ミリアは、自分を平凡な女性だと思っているがそんな事はない。

艶やかな赤毛に、漆黒の瞳。少しつり上がった目元はキツ目に見えるが、すっと通った鼻筋に、ぷっくりとした唇が絶妙な色気を醸し出し魅力的に映る。

ハッキリいって美人なのだ。

これでウブだなんて………たまらない………

人目を引く容姿のミリアに男達の視線が絡みつく………

思わず抱き寄せようと思い、手を伸ばしかけたが………徐々にミリアが離れようとする………


「ミリア………人も多いし、逸れると困るから。」

俺はミリアの手を握っていた………



始めは手を離そうとしていたミリアも観念したのか大人しく手を繋がれている。

これ幸いとずっと手を繋いでデートを楽しんだ。
お茶に入ったカフェレストランでも、わざわざ隣に座り、手を繋いでいたが………
真っ赤になって俯くミリアが可愛いくて可愛くて仕方なかった。


最後に立ち寄ったジュエリーショップは、夜会用のカフスボタンを注文していた店だった。

ちょうど仕上がりの連絡をもらっていたのでついでに立ち寄ったが思わぬ収穫があった。

デート中、ミリアはあまり女性が好む物に興味を示さなかったのだ。
何か思い出に残るものを渡したかった俺は焦っていた。

カフスボタンを受け取り、ミリアを探し店内に戻ると、何やら真剣にショーケースの中を見ている。

近くにいた店員に、何を見ているのか尋ねると、先程から小花と真珠をあしらったゴールドのネックレスを見ているとのこと。

このジュエリーショップは、貴族御用達で質が良く、繊細なデザインの1点もののジュエリーを扱っているので有名だ。


ミリアがショーケースから離れると、店員に見ていたものを包むよう指示し、ミリアと合流した。



帰りの馬車の中、先程買ったネックレスの小箱をミリアに渡す。

小箱の中のネックレスを見たミリアに驚愕の表情が浮かぶ………

「リドル様…これって………」

「ずっと見てたでしょ。今日のお礼………
付けてあげる………」

俺は、ミリアからネックレスを受け取り首につけてあげた。

「よく似合う………素敵だ………」

俺の言葉にミリアは、はにかんだ笑顔をむけ………

「リドル様………ありがとうございます………
大切にしますね………」

あんな可愛い笑顔を向けてくれるならいくらでも貢げそうだ………

俺が、さらにミリアに落とされたのは言うまでもない………





「………リドルお兄様………ニタニタと気持ち悪いです………」

………エリザベスの存在を忘れていた。

シュバイン公爵家へ嫁いだエリザベスは、久々にベイカー公爵家にてリドルとお茶を楽しんでいた。

「まぁ………どうせミリアの事でも考えていらっしゃったのでしょうけど………」

「お兄様!ミリアとは順調に進んでますの?」

「まぁ………それなりに。」

「なんですの!その言い草。
わたくしは、泣く泣くミリアをベイカー公爵家へ置いて行きましたのよ‼︎
お兄様とミリアの幸せを思って………」

「お兄様が本気でミリアと恋仲にならないなら、直ぐにシュバイン公爵家へ連れて行きますからね。」

「待て………エリザベス。はやまるな。
ミリアとは、徐々に距離を詰めているところだ。あまりがっついても怖がるだけだろう。」

「………お兄様が、本気でミリアを手に入れる気ならよいのです。」



「それよりも………今度、隣国の王女様が我が国に来られるそうですわ。
何やら、我が国の有力貴族に嫁がれる準備のためだとか………
お兄様は、何かご存知ではありませんの?」

隣国といえば、数年前に王弟によるクーデターが起こり、最近までゴタゴタしていたが………
確か、現王と近隣諸国に身を隠していた王太子が協力して王弟派を鎮圧したのではなかったか………


「特には何も聞いていないが………」


内政がゴタゴタしている隣国は、我が国との同盟を強化したいが為に、王女を送り込んでくるか………


リドルの預かり知らぬところで、事態が動き出そうとしていた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!

しずもり
恋愛
 ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。 お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?  突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。 そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。 よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。 *なんちゃって異世界モノの緩い設定です。 *登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。 *ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。

秋月一花
恋愛
「すまないね、レディ。僕には愛しい婚約者がいるんだ。そんなに見つめられても、君とデートすることすら出来ないんだ」 「え? 私、あなたのことを見つめていませんけれど……?」 「なにを言っているんだい、さっきから熱い視線をむけていたじゃないかっ」 「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」  あなたの護衛を見つめていました。だって好きなのだもの。見つめるくらいは許して欲しい。恋人になりたいなんて身分違いのことを考えないから、それだけはどうか。 「……やっぱり今日も格好いいわ、ライナルト様」  うっとりと呟く私に、ライナルト様はぎょっとしたような表情を浮かべて――それから、 「――俺のことが怖くないのか?」  と話し掛けられちゃった! これはライナルト様とお話しするチャンスなのでは?  よーし、せめてお友達になれるようにがんばろう!

処理中です...