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第1章 男爵令嬢困惑編
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しおりを挟むリドル様にキスされた………それも間違えで………
寝ぼけていたとはいえ信じられない。
リドル様の部屋を泣きながら飛び出した私は、自室に閉じこもっていた。
………リドル様に泣き顔を見られたのも最低だが、間違えてキスされた事にショックを受けている自分が一番最低だ。
昔、心の奥底にしまいこんだ想いが気づかないふりをしていても溢れてきてしまう。
リドル様とは、身分が違い過ぎると諦めた想いが………
私にとってリドル様は昔から特別な存在だった。あちらが、私の事を生意気な妹くらいにしか思ってないのは知っていたが、それでも良かった。近過ぎる位置にいる自分の存在がただ嬉しかった。
いつからだろう………
淡い初恋が恋に変わったのは………
そして現実を知ったのは………
私がエリザベス様付き侍女になり、エリザベス様が感情を取り戻すと同時に、リドル様との距離はどんどん離れていった。
私は侍女に………
リドル様は王太子様付き側近に………
あんなに近かった距離が今では身分と言う名の見えない溝ですごく遠くになった。
いつしか、リドル様への想いも心の奥底へ閉じ込めた。
しかし、気づかない内に遠くで見かける度に目で追っていた。
どんどん、精悍になり立派になるリドル様………公爵様に似た栗色の髪に公爵夫人の瞳の色と同じエメラルド色の瞳………
小さな頃は可愛らしかった顔立ちが、精悍で男らしい貴公子へ成長していく。
それと同時に、一介の侍女である私ですら知る事になる社交界でのプレイボーイぶり。
数多の令嬢に卒なく対応する姿と公爵家令息の肩書き………
何人もの令嬢と浮名を流しながら、誰からも恨まれないプレイボーイぶりは称賛すらされていた。
私と同じ侍女がいつだったか言っていた。
『リドル様になら遊ばれてもいいと。』
そんな話を聞いてバカみたいと思っていたが………
………他の人と間違えられてキスされた私は遊び以前なのね………
女としてすら認識されていないなんて………
あんまりだわ………
私はリドル様への想いを再度封じ込めることを決意した。
………あの方は主人………
しばらく自室で泣き崩れていたが、不思議なもので、時間が経つと冷静になってくる………
全ての仕事を放り出し、自室にこもってしまった。
しかも、主人を引っ叩いて………
私………解雇になるわ………
絶望に打ちひしがれて放心状態になっているところに、執事のアーサーから呼び出しがかかった。
「お呼びでしょうか?」
「リドル様からの伝言です。
今日の仕事は特にないので、残りの時間は休暇とする。明日また朝起こしてくれ。
との事です。」
「………あの………私、解雇ではないのですか?」
「私は特にそのような話は聞いていないが………何か解雇されるような事をしたのか?」
「………いえ………特には………」
私は何とか平静を装い、素知らぬ顔をした。
「かしこまりました………」
私は、明日の朝は問答無用で布団を剥いでやる覚悟を決めた。
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