売れ残り男爵令嬢は、うたた寝王女の愛ある策略に花ひらく

湊未来

文字の大きさ
上 下
6 / 92
第1章 男爵令嬢困惑編

6

しおりを挟む

リドル様にキスされた………それも間違えで………

寝ぼけていたとはいえ信じられない。

リドル様の部屋を泣きながら飛び出した私は、自室に閉じこもっていた。

………リドル様に泣き顔を見られたのも最低だが、間違えてキスされた事にショックを受けている自分が一番最低だ。

昔、心の奥底にしまいこんだ想いが気づかないふりをしていても溢れてきてしまう。

リドル様とは、身分が違い過ぎると諦めた想いが………

私にとってリドル様は昔から特別な存在だった。あちらが、私の事を生意気な妹くらいにしか思ってないのは知っていたが、それでも良かった。近過ぎる位置にいる自分の存在がただ嬉しかった。

いつからだろう………
淡い初恋が恋に変わったのは………
そして現実を知ったのは………


私がエリザベス様付き侍女になり、エリザベス様が感情を取り戻すと同時に、リドル様との距離はどんどん離れていった。

私は侍女に………
リドル様は王太子様付き側近に………

あんなに近かった距離が今では身分と言う名の見えない溝ですごく遠くになった。

いつしか、リドル様への想いも心の奥底へ閉じ込めた。


しかし、気づかない内に遠くで見かける度に目で追っていた。

どんどん、精悍になり立派になるリドル様………公爵様に似た栗色の髪に公爵夫人の瞳の色と同じエメラルド色の瞳………
小さな頃は可愛らしかった顔立ちが、精悍で男らしい貴公子へ成長していく。

それと同時に、一介の侍女である私ですら知る事になる社交界でのプレイボーイぶり。

数多の令嬢に卒なく対応する姿と公爵家令息の肩書き………

何人もの令嬢と浮名を流しながら、誰からも恨まれないプレイボーイぶりは称賛すらされていた。

私と同じ侍女がいつだったか言っていた。

『リドル様になら遊ばれてもいいと。』

そんな話を聞いてバカみたいと思っていたが………


………他の人と間違えられてキスされた私は遊び以前なのね………

女としてすら認識されていないなんて………
あんまりだわ………



私はリドル様への想いを再度封じ込めることを決意した。


………あの方は主人………








しばらく自室で泣き崩れていたが、不思議なもので、時間が経つと冷静になってくる………

全ての仕事を放り出し、自室にこもってしまった。

しかも、主人を引っ叩いて………

私………解雇になるわ………


絶望に打ちひしがれて放心状態になっているところに、執事のアーサーから呼び出しがかかった。




「お呼びでしょうか?」

「リドル様からの伝言です。
今日の仕事は特にないので、残りの時間は休暇とする。明日また朝起こしてくれ。
との事です。」

「………あの………私、解雇ではないのですか?」

「私は特にそのような話は聞いていないが………何か解雇されるような事をしたのか?」

「………いえ………特には………」

私は何とか平静を装い、素知らぬ顔をした。

「かしこまりました………」


私は、明日の朝は問答無用で布団を剥いでやる覚悟を決めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!

しずもり
恋愛
 ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。 お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?  突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。 そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。 よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。 *なんちゃって異世界モノの緩い設定です。 *登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。 *ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。

秋月一花
恋愛
「すまないね、レディ。僕には愛しい婚約者がいるんだ。そんなに見つめられても、君とデートすることすら出来ないんだ」 「え? 私、あなたのことを見つめていませんけれど……?」 「なにを言っているんだい、さっきから熱い視線をむけていたじゃないかっ」 「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」  あなたの護衛を見つめていました。だって好きなのだもの。見つめるくらいは許して欲しい。恋人になりたいなんて身分違いのことを考えないから、それだけはどうか。 「……やっぱり今日も格好いいわ、ライナルト様」  うっとりと呟く私に、ライナルト様はぎょっとしたような表情を浮かべて――それから、 「――俺のことが怖くないのか?」  と話し掛けられちゃった! これはライナルト様とお話しするチャンスなのでは?  よーし、せめてお友達になれるようにがんばろう!

処理中です...