売れ残り男爵令嬢は、うたた寝王女の愛ある策略に花ひらく

湊未来

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第1章 男爵令嬢困惑編

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…結局………お嬢様は、ハインツ様との婚礼の儀が終わると、私を置いてシュバイン公爵家へ嫁いで行かれた………

………お嬢様との15年に渡る主従関係が唐突に終わりを迎えてしまった………
お嬢様という生き甲斐を失った私は、公爵家でも仕事に身が入らず、失敗ばかり。見兼ねて執事から、しばらく実家で静養するように言われる始末だ。



………私はいったい何をすればいいのだろう………

実家へ帰って来た私だったが、何をするでもなくボーッと日々を過ごす………訳がなかった。

私の実家は貧乏男爵家だ。もちろんメイドがいる訳もなく、下働きさえいない。
両親と歳の離れた弟の4人家族。
父は、小さな領地の領主をしているが、領地はあまり作物が育たない土地で、山岳地帯に面している為、新しく土地を開墾することも難しい。領民思いの父は、領民から取る税を極力抑えているため、ほとんどお金は入ってこない。

母は、そんな父を助け以前は、ベイカー公爵家子息のリドル様の乳母をしていたが、今は引退して家の切り盛りをしている。

弟は、今年王都の寄宿学校を卒業し、実家を手伝うことになっている。学校では、経営学を学んでいたので、将来は上手に領地経営をしてくれることを期待しているが、まだ学生である。

今、男爵家の家系を支えているのは、私の給金のみ。

こんなところで、ウジウジしていてもお金は入ってこない‼︎

私が、ベイカー公爵家で働かなければ、男爵家は潰れてしまう………

変なスイッチが入った私は、男爵家の台所でジャガイモに包丁を突き刺していた。

………働かざる者、食うべからずだ………





「ミリア、貴方大丈夫なの?ベイカー公爵家から突然帰ってくるなんて………
まさか、追い出されたの⁈」

一緒に台所で、夕飯の準備をしていた母に痛いところをつかれた。

「………別に何でもないわよ。しばらくお休みをもらってなかったから、まとめてお休みをもらっただけよ!」

「あら………そうなの。あまり無理しないのよ。貴方ひとりくらい何とかなるんだからね。」

………母はそれ以上、何も聞かなかったが気づいていたのかもしれない。エリザベスお嬢様とのことを………

「ところでミリア、貴方小さな時に一緒に遊んだルカの事覚えている?」

「………ルカって………まさか………領地に1ヶ月くらい居た劇団の⁈」

「そうよ………最近ね挨拶に来てくれたのよ。なんでも、王都で異国の品物を扱う商会を多数所有しているとのことよ。」

ルカとは、私が5歳の時に会った。あちらの方が私より2、3歳上だったんじゃないかしら………?

近隣諸国を回る劇団の子役だった彼は、大人達に囲まれて、子供らしくない子供だった。私の実家近辺では珍しいサラサラの銀髪に紫色の瞳の美少年。

そんな見た目の彼は、よく舞台で女の子役をやっていた。

それに目をつけた村の悪ガキがルカを虐め始めた。

ルカは、女の子のように可愛らしく女の私より弱かった。

よく虐められていたルカを助けてあげたっけ………

それが、今では商会をいくつも持つやり手実業家ですかぁ~

「貴方に会いたかったそうよ。」

「えっ⁈………そうなの?」

「貴方が、ベイカー公爵家で働いている事教えておいたから近々会いに行くかもね~」

「はっ⁈何勝手に教えてるのよ‼︎」

「だっていいじゃない~とっても素敵な貴公子に成長してたわよ。
独身だって言うし~チャンスは潰さないのよぉ~」

「………」

母のお節介が炸裂した模様………はぁ………



確かに、25歳崖っぷち………どちらかというと片足突っ込んでるし………

商会をいくつも所有していて独身なら、超優良物件、お金も持ってて、美男子………女が放っておかないでしょ!

25歳のオバさんに興味ある訳ないわぁ………

幼少期に助けられたお礼言いに来ただけでしょうね~。




それから数日後、ベイカー公爵家より一通の手紙が届いた。



『至急、ベイカー公爵家へ戻られるよう願いたい。』



私の短い休日は、突如終わりを告げた。
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