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今日は厄日なのか!? ②
しおりを挟む慌てて壁の影に隠れ、様子を伺う。
覆面をした黒装束の男二人と対峙する銀色の髪の青年。白シャツに、タイトなパンツを履いた青年は、明らかに騎士ではない。しかし、引き締まった身体つきを見れば、銀髪の男がそれなりに鍛えているのはわかる。
(不味いわね)
確かに銀髪の男は剣の腕があるのだろう。しかし、対峙する黒装束の男は二人。多勢に無勢、危機的状況であることに変わりはない。しかも、銀髪の男は肩で息をし、明らかにスタミナ切れだ。
(一人で二人を相手にしている時点で超人的ではあるのよね。でも、このままじゃ、彼、死ぬわ)
躊躇している時間はない。
レベッカは、侍女服の裾を掴むと縦に切り裂く。上脚の半ばまで肌が晒されるが、今はそんな些末なことを気にしている場合ではない。
(これで、少しは動けるかしら。あと、武器になりそうな物は……)
カートにのっていた銀製の盆の持ち手を左腕にはめ、そして右手に熱々の湯入りポットを持ち、黒装束の男めがけ渾身の力を込めカートを蹴り出した。
ガラガラと派手な音を立て突進していくカートに、黒装束の男が一瞬の隙を見せる。それを見て取り、レベッカは全速力で走り出した。
ガラガラと派手な音を立て突き進むカートへと男達の視線が逸れる。その一瞬の隙をつき、右手に持ったポットを黒装束の男めがけ投げつけた。
宙を舞うポットの口から熱湯が弧を描き黒装束の男へと浴びせられた。突然の襲来に黒装束の男がよろめく。その隙を逃さずレベッカは、身体を滑り込ませ、男の足を払った。
地面へと倒れ込む男だったが、どうやら黒装束の男の身体能力も並外れていたようだ。地面に手をつくと、身体を反転させ、すぐさま体勢を整える。
次の瞬間には、右手に短剣を持った男がレベッカ目掛け突進してきた。
振り上げられるナイフにレベッカは躊躇することなく左手を掲げる。宙を切り裂き迫るナイフだったが、それがレベッカの肌を切り裂くことはなかった。
キーンッと耳障りな音をあげ、レベッカの掲げ持った銀製の盆にナイフの刃先が当たり弾け飛ぶ。それと同時に繰り出した回し蹴りが、男の顔面にクリーンヒットし、その衝撃で黒装束の男が地面へと叩きつけられた。
回し蹴りを繰り出した瞬間に外れたメイドキャップからこぼれ落ちた艶やかな赤髪が、陽の光を浴びキラキラと輝く。
(女だと思って、油断したわね)
明らかに、最後の斬撃は手加減していた。流石に、たかがメイドの女を殺すのは偲びなかったのだろう。
地面へと倒れた男を眺めながら、そんなことを考えていたレベッカだったが、事態はまだ終わってはいなかった。背後で響いた剣と剣がぶつかる斬撃の音にハッとする。一瞬の間の後、身体を反転させたレベッカは駆け出す。
二人の男の剣と剣がぶつかり、その反動で二人の身体がわずかに離れた瞬間を見逃さず、取っ手に腕を通し盾にしていた盆を手に掴み、回転をかけ飛ばした。勢いよく飛んでいく盆は、黒装束の男に打撃を与えることはできなくとも、勝利のキッカケにはなる。
突然飛び込んできた銀の盆に、銀髪の男との距離を詰めようとしていた黒装束の男が瞬時に反応し、距離を取る。その間に、銀髪の男を庇うように前へと立ったレベッカへと黒装束の男が問いかけた。
「貴さま、何者だ?」
「見ての通り、通りすがりの侍女ですが」
「侍女が、暗殺者並みの強さであるわけがない。赤髪……、赤髪の女。まさか!? ……これ以上の深入りは、こちらの首を絞めるな」
「私は構いませんわよ。あなたと戦って、勝つ自信はありますもの」
口から出まかせだ。
目の前に対峙する男が、この暗殺集団のボスだということはわかる。纏うオーラが違う。
それなりのスピードで放った盆を的確な判断で、完璧に回避し、なおかつレベッカの攻撃が当たらないギリギリの距離を取った男の技量は、先ほど地面へとノシタ男とは違う。
しかし、ハッタリというものは、時として己の実力を見誤らせる効果をもつ。
「くくく、そうか。面白い女だ。では、交換条件だ。私たちを見逃す代わりに、その銀髪の男の命は助けてやろう」
「命を助ける? いったい、どういう意味な――――」
その時、背後でドサっと音が響く。反射的に背後を振り返り、驚きに息を呑んだ。地面へと倒れ込んだ男の顔が真っ青に染まり、苦しそうなうめき声が上がる。慌ててしゃがみ込んだレベッカは、瞬時に理解した。
「毒ね……」
「ご名答。この小刀には、毒が塗ってある。少量の毒でも、全身に回れば死に至らしめることの出来る猛毒だよ。交換条件は、その毒の種類を君に教えることだ。シャロン家の娘なら、毒の成分が分かれば解毒も可能だろう。その男が毒を受けてから数分。もう時間はないぞ」
対峙する男が、なぜ自分の正体を知っているのか疑問が浮かぶが、今はそんなことを考えている余裕はない。
解毒は一分、一秒を争う。銀髪の男が毒を受けて数分。もって、あと数十分というところだ。
(迷っている暇はないわ!)
「さっさと、毒の成分を教えて、ここを立ち去りなさい!」
「くくく、話のわかるお嬢さんでよかったよ。その毒の成分は『毒虫』さ。しかし、その毒虫は、『毒消草』を食べると、無毒化される。お嬢さんの作った万能薬。ははは、私たちもよくお世話になっているよ。――さて、退散しようか。レベッカ嬢、またどこかで会おう。あぁ、そうそう、もう一つ。その男に使った毒は毒虫だけではないよ。では、また」
「えっ!? ちょっと、待ちなさい!」
レベッカの静止の声を無視し、のされた仲間をヒョイっと抱えた男が消える。
「厄介な奴に、好かれてしまったようね」
レベッカの呟きは、シーンと静まり返った回廊に響き消えていった。
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