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最高の友
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鳴り止まない拍手と会場を埋めつくした観客の『アンコール』の声に、ステージ袖で待機している私の気持ちも昂る。
『花音』最後のライブから三年。
紆余曲折を経て、私は新人Vチューバー『奏音』として再出発を果たした。
全くの無名の新人として再出発した『奏音』は、三年の時を経て、数十万人のファンを持つVチューバーへと大きく成長した。
無名の頃から歌い続けた歌が、有名な若手音楽プロデューサーの目に留まり、コラボ曲が大ヒットを生んだのだ。そして遡ること数ヶ月前、歌手『カノン』としてのデビューが正式に決定した。
約束のステージで、もう一度『miracle』を歌いたい。その想いだけで、今日まで走り続けた。
スタッフの合図で、ステージの中央へと向かい歩き出す。
あの日と同じ、白の生地に青のスパンコールが胸元から裾にかけてグラデーションに広がるドレス。まるで、ウェディングドレスのような衣装。少し大人びたドレスも三年の時を経て、少しは似合うようになった。
颯真さん、どこかで観てくれていますか?
あなたと別れてから三年。必死に頑張ってきました。
『奏音』として初めてとった配信。閲覧数ゼロの数字に現実を思い知った一瞬、目に飛び込んできた言葉に救われた。
――――もう一度、あなたと出逢えた奇跡に
user name『ファン一号』さん、あなたの言葉に折れそうになる心を何度も救われました。そして、『奏音』を知り、愛してくれたファンがいたからこそ、私はこのステージに帰って来ることが出来た。
ありったけの感謝の気持ちを込めて、この歌を歌いたい。
「みんな、本当にありがとう。ラストソング聴いてください。『――――miracle』」
ずっと封印していた『miracle』が、あの日と同じように会場中に響き渡る。そして、『奏音』のイメージーカラー水色のペンライトの光が、『花音』の色、青色へと変わっていく。
『花音』から『奏音』へ、そして『カノン』へ
地道に続けてきた活動が交わり、今ひとつになる。水色と青色のペンライトの光が混ざり、ゆっくりと揺れる会場を眺め、あふれ出しそうになる涙を堪え、思いの丈を『miracle』に込め歌う。
どうか、この歌が私を支えてくれた多くの人たちへ届きますように……
そして、あの日と同じようにエンディングのメロディーが流れ、曲が終わりを告げる。鳴り止まない拍手の音とファンから湧きおこった『――カノン、おかえり』のコールに、心が震える。
誰かの代わりとして、影のように生きた人生から、本当の意味で、穂花が解放された瞬間だった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「穂花、お疲れさま! ステージ、とってもよかった」
デビューライブを終え、楽屋へと戻ってきた私は、猛ダッシュで飛びついてきた友人にギュウギュウと抱きしめられていた。
「ま、待って、待って、心菜。転んじゃうから」
「あっ、ごめん、ごめん。つい嬉しくなっちゃって。あらためて、デビューおめでとう」
慌てて距離をとった友人の満面の笑みを見て、心が熱くなる。まさか、心菜とこんな形で再会できることになるとは想像もしていなかった。
二年前、一色コーポレーションを退職した心菜との最後のやり取りを思い出す。あの時は、あまりに急な退職に、理由も聞けず、お別れの言葉もまともに言えず、苦い後悔だけが残った。
愛想もなく、どちらかというとコミュ障だった当時の私と根気強く接し続けてくれた大切な友人。『花音』としての活動もあり、プライベートで会うことはほとんど出来なかったが、何度も外へ連れ出そうと誘ってくれたのも彼女だった。
私という存在を理解し、手を差し伸べてくれた親友とも呼べる存在との突然の別れは、正直つらかったが、彼女が最後に言った『また、絶対会えるから』の言葉を胸に、あの時は寂しさをやり過ごしていたように思う。
あれから二年。私も『カノン』としてのデビューが決まり、数日前に『デビュー祝いだ』と律季に呼び出された高級イタリアンで心菜を紹介されたときは、あまりの驚きに数分は固まっていたと思う。しかも『カノン』の新しいマネージャーとして紹介されたのだ。驚かない方が無理である。
「それにしても、穂花すごいよ。副社長に、一万人収容できる大ホールを抑えろと言われた時は、この男バカなのかって思ったけど、今日の穂花のステージ観て理解出来た。ファンとの一体感、そして『おかえり』のコール。穂花、ずっと一人で頑張って来たんだね」
心菜の言葉に胸が熱くなり、目に涙がにじむ。
「ありがと、心菜。本当に、ありがとう。私、一人じゃなかった。たくさんの人に支えられて、ここまで来れたの。その中には、心菜の存在もあるの。殻に閉じこもって前に進めなかった私に、ずっと寄り添ってくれてありがとう」
「もう、泣かせないでよ。穂花なら大丈夫だって、ずっと思っていた。一色コーポレーションで同僚やっている時も、事情を抱えて生きているのは何となく気づいていたんだ。極端に人目を気にしているんだもん、言えない事情があるなってね。でも、私には心を開いてくれたじゃん。それが嬉しかったんだ」
そう言って、歯にかむように笑った心菜を見つめ、私こそ彼女の存在にずっと救われていたと思う。引っ込み思案で、人付き合いが下手な私をいつも気にかけ、上手くリードしてくれる大切な友。彼女の存在があったからこそ、総務課で居心地良く働くことが出来ていたのだと、今ならわかる。
「――だけど、ずっと後悔してた。穂花が苦しんでいるの、知ってたのに何も助けてあげられなかった。本当……、あの当時は自分の無力さに何度も泣いたっけ。だから、私も大きな決断をしたの。穂花と共に、歩めるようにね」
心菜が突然、会社を辞めた理由を知り、涙が込み上げる。
「穂花、良い顔してる。やっと解放されたんだね」
「うん!!」
言葉に出来ない想いを胸に、心菜の腕へと飛び込む。
彼女は、私の事情をどれだけ知っていたのだろうか? もしかしたら『花音』として活動していた当時も、私の抱える複雑な事情に気づいていたのかもしれない。そして、私のために大きな決断をしてくれた心菜。
彼女の熱い想いに涙があふれ出す。
私はひとりじゃなかった。ずっと、ひとりじゃなかったのに、当時はそのことに気づきもしなかった。
そのことに気づくきっかけをくれたのも、今はそばにいない『彼』の存在があったから……
心に去来した切ない想いを打ち消すように、心菜の元気な声が落ち込みそうになった私の心を勇気づけてくれる。
「穂花! もう遠慮はしないからね! 今後は、公私共にガツガツ行くからね。まずは、『カノン』のマネージャーとして、あなたをドームへ連れていくんだから!」
握りこぶしを天へと突き上げ気合を入れる心菜を見て、笑みがこぼれる。
「これからもよろしくね! 心菜マネージャー!!」
『花音』最後のライブから三年。
紆余曲折を経て、私は新人Vチューバー『奏音』として再出発を果たした。
全くの無名の新人として再出発した『奏音』は、三年の時を経て、数十万人のファンを持つVチューバーへと大きく成長した。
無名の頃から歌い続けた歌が、有名な若手音楽プロデューサーの目に留まり、コラボ曲が大ヒットを生んだのだ。そして遡ること数ヶ月前、歌手『カノン』としてのデビューが正式に決定した。
約束のステージで、もう一度『miracle』を歌いたい。その想いだけで、今日まで走り続けた。
スタッフの合図で、ステージの中央へと向かい歩き出す。
あの日と同じ、白の生地に青のスパンコールが胸元から裾にかけてグラデーションに広がるドレス。まるで、ウェディングドレスのような衣装。少し大人びたドレスも三年の時を経て、少しは似合うようになった。
颯真さん、どこかで観てくれていますか?
あなたと別れてから三年。必死に頑張ってきました。
『奏音』として初めてとった配信。閲覧数ゼロの数字に現実を思い知った一瞬、目に飛び込んできた言葉に救われた。
――――もう一度、あなたと出逢えた奇跡に
user name『ファン一号』さん、あなたの言葉に折れそうになる心を何度も救われました。そして、『奏音』を知り、愛してくれたファンがいたからこそ、私はこのステージに帰って来ることが出来た。
ありったけの感謝の気持ちを込めて、この歌を歌いたい。
「みんな、本当にありがとう。ラストソング聴いてください。『――――miracle』」
ずっと封印していた『miracle』が、あの日と同じように会場中に響き渡る。そして、『奏音』のイメージーカラー水色のペンライトの光が、『花音』の色、青色へと変わっていく。
『花音』から『奏音』へ、そして『カノン』へ
地道に続けてきた活動が交わり、今ひとつになる。水色と青色のペンライトの光が混ざり、ゆっくりと揺れる会場を眺め、あふれ出しそうになる涙を堪え、思いの丈を『miracle』に込め歌う。
どうか、この歌が私を支えてくれた多くの人たちへ届きますように……
そして、あの日と同じようにエンディングのメロディーが流れ、曲が終わりを告げる。鳴り止まない拍手の音とファンから湧きおこった『――カノン、おかえり』のコールに、心が震える。
誰かの代わりとして、影のように生きた人生から、本当の意味で、穂花が解放された瞬間だった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「穂花、お疲れさま! ステージ、とってもよかった」
デビューライブを終え、楽屋へと戻ってきた私は、猛ダッシュで飛びついてきた友人にギュウギュウと抱きしめられていた。
「ま、待って、待って、心菜。転んじゃうから」
「あっ、ごめん、ごめん。つい嬉しくなっちゃって。あらためて、デビューおめでとう」
慌てて距離をとった友人の満面の笑みを見て、心が熱くなる。まさか、心菜とこんな形で再会できることになるとは想像もしていなかった。
二年前、一色コーポレーションを退職した心菜との最後のやり取りを思い出す。あの時は、あまりに急な退職に、理由も聞けず、お別れの言葉もまともに言えず、苦い後悔だけが残った。
愛想もなく、どちらかというとコミュ障だった当時の私と根気強く接し続けてくれた大切な友人。『花音』としての活動もあり、プライベートで会うことはほとんど出来なかったが、何度も外へ連れ出そうと誘ってくれたのも彼女だった。
私という存在を理解し、手を差し伸べてくれた親友とも呼べる存在との突然の別れは、正直つらかったが、彼女が最後に言った『また、絶対会えるから』の言葉を胸に、あの時は寂しさをやり過ごしていたように思う。
あれから二年。私も『カノン』としてのデビューが決まり、数日前に『デビュー祝いだ』と律季に呼び出された高級イタリアンで心菜を紹介されたときは、あまりの驚きに数分は固まっていたと思う。しかも『カノン』の新しいマネージャーとして紹介されたのだ。驚かない方が無理である。
「それにしても、穂花すごいよ。副社長に、一万人収容できる大ホールを抑えろと言われた時は、この男バカなのかって思ったけど、今日の穂花のステージ観て理解出来た。ファンとの一体感、そして『おかえり』のコール。穂花、ずっと一人で頑張って来たんだね」
心菜の言葉に胸が熱くなり、目に涙がにじむ。
「ありがと、心菜。本当に、ありがとう。私、一人じゃなかった。たくさんの人に支えられて、ここまで来れたの。その中には、心菜の存在もあるの。殻に閉じこもって前に進めなかった私に、ずっと寄り添ってくれてありがとう」
「もう、泣かせないでよ。穂花なら大丈夫だって、ずっと思っていた。一色コーポレーションで同僚やっている時も、事情を抱えて生きているのは何となく気づいていたんだ。極端に人目を気にしているんだもん、言えない事情があるなってね。でも、私には心を開いてくれたじゃん。それが嬉しかったんだ」
そう言って、歯にかむように笑った心菜を見つめ、私こそ彼女の存在にずっと救われていたと思う。引っ込み思案で、人付き合いが下手な私をいつも気にかけ、上手くリードしてくれる大切な友。彼女の存在があったからこそ、総務課で居心地良く働くことが出来ていたのだと、今ならわかる。
「――だけど、ずっと後悔してた。穂花が苦しんでいるの、知ってたのに何も助けてあげられなかった。本当……、あの当時は自分の無力さに何度も泣いたっけ。だから、私も大きな決断をしたの。穂花と共に、歩めるようにね」
心菜が突然、会社を辞めた理由を知り、涙が込み上げる。
「穂花、良い顔してる。やっと解放されたんだね」
「うん!!」
言葉に出来ない想いを胸に、心菜の腕へと飛び込む。
彼女は、私の事情をどれだけ知っていたのだろうか? もしかしたら『花音』として活動していた当時も、私の抱える複雑な事情に気づいていたのかもしれない。そして、私のために大きな決断をしてくれた心菜。
彼女の熱い想いに涙があふれ出す。
私はひとりじゃなかった。ずっと、ひとりじゃなかったのに、当時はそのことに気づきもしなかった。
そのことに気づくきっかけをくれたのも、今はそばにいない『彼』の存在があったから……
心に去来した切ない想いを打ち消すように、心菜の元気な声が落ち込みそうになった私の心を勇気づけてくれる。
「穂花! もう遠慮はしないからね! 今後は、公私共にガツガツ行くからね。まずは、『カノン』のマネージャーとして、あなたをドームへ連れていくんだから!」
握りこぶしを天へと突き上げ気合を入れる心菜を見て、笑みがこぼれる。
「これからもよろしくね! 心菜マネージャー!!」
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