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爆発
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――なぜ、こうなってしまったのか。
窓の外に広がるビル群の夜景も、ビロードのソファ席から見上げたシャンデリアの光さえ色あせて見える。
社長と二人なら、全てが輝いて見えたのだろうか。きっと、高級ホテルのラウンジの個室に案内されただけで舞い上がっていた。そう考えでもしなければ、目の前で繰り広げられる美春と社長の会話に耐えられない。それほどまでに、私の精神状態は瀕死の状態だった。
美春に見つかった時から、こんな事になるのではないかと想像はしていた。過去、妹へと靡いて行った者達の姿が脳裏をかすめ、心の淀みが増していく。
きっと、社長も妹へと靡く。かつて、離れていった者達と同じように、社長もまた私の前から消えるのだろう。
そもそも、そう思う事自体、おこがましいのかもしれない。
「それにしても驚いたよ。清瀬さんが、鏡レンナの姉だったとは。どうして教えてくれなかったの?」
「えっ……、はぁぁ、まぁ……」
急に社長に話を振られ、返答に困る。教えなかったのではない、教えられなかったのだ。
「やだぁ、社長ったら。そんなの決まってますよ! レンナ、人気者でしょ。過激なファンもいるし、防犯上ね。知ってますぅ? 家族の発言から、アイドルの家が特定される事もあるんですよぉ。レンナ、怖いぃ♡」
怖いと言いながら、社長の腕に身体を寄せ、抱きつく妹の姿に、嫌悪感が増していく。
ただの嫉妬だ。自分とは違い、社交的で相手の懐に入るのが上手い妹に対する嫉妬。自分も彼女と同じように社長に甘えられたなら、こんな想いしなくて済んだのだろうか。
そんな事出来ないくせにと嘲るもう一人の自分が心の中で笑っている。
目の前のテーブルに置かれた赤ワインのボトルが目に入る。
お酒は強くない。居酒屋で提供される薄いカクテルでさえ、一杯で酔ってしまう程度には弱い。一杯のグラスワインで足元がおぼつかなくなる自信がある。ただ、もう我慢できなかった。
酔いが、全てを忘れさせてくれるなら……
ボトルを掴むと、空のグラスにドボドボと注ぎ、一気に飲み干した。焼け付くような刺激が喉を通り、胃がカッと熱くなる。初めて飲んだ赤ワインの味は、不味かった。口一杯に広がる渋みと苦味が、自分の心の中を表しているようで、虚しい笑いが込み上げる。
こんな高級ワイン、やけ酒する女なんて私くらいか。
手に持ったワインボトルのラベルには、金縁の装飾がされており、いかにも高そうだ。どれくらい高価なものか知らないが、どうせ社長の奢り。『鏡レンナ』との出会いをお膳立てしてやったと思えば、高級ワインのガブ飲みだって許されるはず。
酔っていなければ、そんな大それた行動など取りはしない。ただ、急速に酔いが回った私の頭は、思考力を放棄した。
空になったグラスに再度赤ワインを注ぎ、一気に煽る。
「おいっ! 穂花飲み過ぎだ。お前、お酒強くないだろうが」
「うるさいわね! 外野は黙ってなさいよ」
隣に座っていた律季が私の異変に気づき静止を促すが、時すでに遅かった。
頭の中がふわふわする。
酔いが回った脳は理性というストッパーをすでに停止させていた。後に残されたのは、凶暴なまでの本能をむき出しにした人間が残るのみ。
徐々に目がすわっていく。
「穂花! いい加減にしろ。ここにいたら迷惑だ。帰るぞ」
握っていたボトルを律季に奪われ、手をつかまれる。
「離してよ! なんで私が帰らなきゃいけないのよ。それとも何? 私が邪魔だって言いたいの!」
「そんな事、言ってないだろう。一色さんに迷惑がかかるって思わないのか!」
「迷惑? 迷惑かけられているのは、こっちよ! ファンだか何だか知らないけど、レンナ、レンナってうるさい。私の存在って、何なのよ……。もう、ほっといて……」
律季に捕まれた手を振り払い、扉へと向かう。静止を叫ぶ声を最後に、扉の外へと出た私は、早足で店内を抜けると、雑多な街へと飛び出した。
窓の外に広がるビル群の夜景も、ビロードのソファ席から見上げたシャンデリアの光さえ色あせて見える。
社長と二人なら、全てが輝いて見えたのだろうか。きっと、高級ホテルのラウンジの個室に案内されただけで舞い上がっていた。そう考えでもしなければ、目の前で繰り広げられる美春と社長の会話に耐えられない。それほどまでに、私の精神状態は瀕死の状態だった。
美春に見つかった時から、こんな事になるのではないかと想像はしていた。過去、妹へと靡いて行った者達の姿が脳裏をかすめ、心の淀みが増していく。
きっと、社長も妹へと靡く。かつて、離れていった者達と同じように、社長もまた私の前から消えるのだろう。
そもそも、そう思う事自体、おこがましいのかもしれない。
「それにしても驚いたよ。清瀬さんが、鏡レンナの姉だったとは。どうして教えてくれなかったの?」
「えっ……、はぁぁ、まぁ……」
急に社長に話を振られ、返答に困る。教えなかったのではない、教えられなかったのだ。
「やだぁ、社長ったら。そんなの決まってますよ! レンナ、人気者でしょ。過激なファンもいるし、防犯上ね。知ってますぅ? 家族の発言から、アイドルの家が特定される事もあるんですよぉ。レンナ、怖いぃ♡」
怖いと言いながら、社長の腕に身体を寄せ、抱きつく妹の姿に、嫌悪感が増していく。
ただの嫉妬だ。自分とは違い、社交的で相手の懐に入るのが上手い妹に対する嫉妬。自分も彼女と同じように社長に甘えられたなら、こんな想いしなくて済んだのだろうか。
そんな事出来ないくせにと嘲るもう一人の自分が心の中で笑っている。
目の前のテーブルに置かれた赤ワインのボトルが目に入る。
お酒は強くない。居酒屋で提供される薄いカクテルでさえ、一杯で酔ってしまう程度には弱い。一杯のグラスワインで足元がおぼつかなくなる自信がある。ただ、もう我慢できなかった。
酔いが、全てを忘れさせてくれるなら……
ボトルを掴むと、空のグラスにドボドボと注ぎ、一気に飲み干した。焼け付くような刺激が喉を通り、胃がカッと熱くなる。初めて飲んだ赤ワインの味は、不味かった。口一杯に広がる渋みと苦味が、自分の心の中を表しているようで、虚しい笑いが込み上げる。
こんな高級ワイン、やけ酒する女なんて私くらいか。
手に持ったワインボトルのラベルには、金縁の装飾がされており、いかにも高そうだ。どれくらい高価なものか知らないが、どうせ社長の奢り。『鏡レンナ』との出会いをお膳立てしてやったと思えば、高級ワインのガブ飲みだって許されるはず。
酔っていなければ、そんな大それた行動など取りはしない。ただ、急速に酔いが回った私の頭は、思考力を放棄した。
空になったグラスに再度赤ワインを注ぎ、一気に煽る。
「おいっ! 穂花飲み過ぎだ。お前、お酒強くないだろうが」
「うるさいわね! 外野は黙ってなさいよ」
隣に座っていた律季が私の異変に気づき静止を促すが、時すでに遅かった。
頭の中がふわふわする。
酔いが回った脳は理性というストッパーをすでに停止させていた。後に残されたのは、凶暴なまでの本能をむき出しにした人間が残るのみ。
徐々に目がすわっていく。
「穂花! いい加減にしろ。ここにいたら迷惑だ。帰るぞ」
握っていたボトルを律季に奪われ、手をつかまれる。
「離してよ! なんで私が帰らなきゃいけないのよ。それとも何? 私が邪魔だって言いたいの!」
「そんな事、言ってないだろう。一色さんに迷惑がかかるって思わないのか!」
「迷惑? 迷惑かけられているのは、こっちよ! ファンだか何だか知らないけど、レンナ、レンナってうるさい。私の存在って、何なのよ……。もう、ほっといて……」
律季に捕まれた手を振り払い、扉へと向かう。静止を叫ぶ声を最後に、扉の外へと出た私は、早足で店内を抜けると、雑多な街へと飛び出した。
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