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アイドルの姉
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「わざわざ、呼ばなくてもいいのに……」
キラキラと輝く光の粒に、立ち上る熱気。目の前で繰り広げられるパフォーマンスに、それぞれの想いをのせ声援を贈る観客達と、それに応え手を振る妹。そんな様子を冷めた目でしか見ることが出来ない清瀬穂花は、今朝妹と交わした会話を思い出し小さくため息をついた。
『お姉ちゃん、今日のステージ絶対見にきてよ!』
私に配信されるとマズイとでも思ったのかな。そんなことしないのに……
そんな勇気、私にはない。妹の影武者としての自分の立場など分かりすぎるくらい分かっている。その立場を望んだのは他でもない自分自身だ。
大きな歓声と拍手の音に、煌びやかなステージの幕が降りる。それを、横目に立ち上がると、スタッフの案内で、地下へと続くエレベーターへと乗り込む。
「お姉ちゃん!」
扉を開くと同時に飛びついてきた美女を抱き止める。
「もう、美春。飛びついたら転んじゃうってば」
「ごめん、ごめん。お姉ちゃんが来てくれて嬉しくって。今日のステージどうだった?」
少し頬を染め、慌てて距離をとる妹は女の私から見ても可愛い。明るめのブラウンの髪の毛は綺麗にカールされ、華やかな髪飾りでポニーテールにまとめられ、肩の上あたりで彼女の動きに合わせ右に左に跳ねている。しかも、今夜はフリフリのステージ衣装に身を包み、普段の数倍は輝いて見える。あの溢れそうなほど大きな瞳で見つめられたファンは、歓喜の雄叫びをあげる事だろう。
そんな妹とは対象的に、ストレートの黒髪を一つにまとめ帽子をかぶった私に華やかさはない。しかも、パーカーにジーパン姿だ。そして極め付けは、この黒縁メガネ。自分でも終わっていると思う。誰も、私をアイドルの姉だとは思わないだろう。
「今日もとってもよかったよ。とっても輝いてた」
心にも無いことを言う自分は、性格までブスなのだろう。
「本当、嬉しい。それで、お姉ちゃん、今日の打ち上げなんだけど……」
「大丈夫よ。きちんとやっておくから。フォロー配信」
「ありがとう。お姉ちゃん、大好き」
そう言って抱きついた妹が、次の瞬間には背を向け離れていく。ライブの関係者と肩を並べ、部屋を出ていく妹を見送り何度目かのため息をこぼす。この後する事は決まっている。ライブが終わった後に、美春のフリをして配信を取るだけだ。
フォロー配信の約束を取り付けるためだけに、私をライブに呼んだのだ。
虚しい気持ちを殺し、誰もいなくなった部屋を後にする。外へと出れば、会場を埋め尽くしていたファンがライブの余韻を胸に、駅へと向かい列を成す。被っていた帽子を深く被り直し、列へと紛れようと考えていた自分に苦笑がもれる。
誰も私を知らない。帽子を目深に被る必要なんてないのにね。
寒空の下、被っていた帽子を外し、ひとり列へと紛れる。
ほらっ……。誰も見ていない。
自嘲的な笑みを浮かべ列から離れると、駅とは反対方向へと歩き出した。
キラキラと輝く光の粒に、立ち上る熱気。目の前で繰り広げられるパフォーマンスに、それぞれの想いをのせ声援を贈る観客達と、それに応え手を振る妹。そんな様子を冷めた目でしか見ることが出来ない清瀬穂花は、今朝妹と交わした会話を思い出し小さくため息をついた。
『お姉ちゃん、今日のステージ絶対見にきてよ!』
私に配信されるとマズイとでも思ったのかな。そんなことしないのに……
そんな勇気、私にはない。妹の影武者としての自分の立場など分かりすぎるくらい分かっている。その立場を望んだのは他でもない自分自身だ。
大きな歓声と拍手の音に、煌びやかなステージの幕が降りる。それを、横目に立ち上がると、スタッフの案内で、地下へと続くエレベーターへと乗り込む。
「お姉ちゃん!」
扉を開くと同時に飛びついてきた美女を抱き止める。
「もう、美春。飛びついたら転んじゃうってば」
「ごめん、ごめん。お姉ちゃんが来てくれて嬉しくって。今日のステージどうだった?」
少し頬を染め、慌てて距離をとる妹は女の私から見ても可愛い。明るめのブラウンの髪の毛は綺麗にカールされ、華やかな髪飾りでポニーテールにまとめられ、肩の上あたりで彼女の動きに合わせ右に左に跳ねている。しかも、今夜はフリフリのステージ衣装に身を包み、普段の数倍は輝いて見える。あの溢れそうなほど大きな瞳で見つめられたファンは、歓喜の雄叫びをあげる事だろう。
そんな妹とは対象的に、ストレートの黒髪を一つにまとめ帽子をかぶった私に華やかさはない。しかも、パーカーにジーパン姿だ。そして極め付けは、この黒縁メガネ。自分でも終わっていると思う。誰も、私をアイドルの姉だとは思わないだろう。
「今日もとってもよかったよ。とっても輝いてた」
心にも無いことを言う自分は、性格までブスなのだろう。
「本当、嬉しい。それで、お姉ちゃん、今日の打ち上げなんだけど……」
「大丈夫よ。きちんとやっておくから。フォロー配信」
「ありがとう。お姉ちゃん、大好き」
そう言って抱きついた妹が、次の瞬間には背を向け離れていく。ライブの関係者と肩を並べ、部屋を出ていく妹を見送り何度目かのため息をこぼす。この後する事は決まっている。ライブが終わった後に、美春のフリをして配信を取るだけだ。
フォロー配信の約束を取り付けるためだけに、私をライブに呼んだのだ。
虚しい気持ちを殺し、誰もいなくなった部屋を後にする。外へと出れば、会場を埋め尽くしていたファンがライブの余韻を胸に、駅へと向かい列を成す。被っていた帽子を深く被り直し、列へと紛れようと考えていた自分に苦笑がもれる。
誰も私を知らない。帽子を目深に被る必要なんてないのにね。
寒空の下、被っていた帽子を外し、ひとり列へと紛れる。
ほらっ……。誰も見ていない。
自嘲的な笑みを浮かべ列から離れると、駅とは反対方向へと歩き出した。
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