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前編(ミレイユ視点)
⑧
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「ミレイユ、目を覚ましたようですね。気分は悪くありませんか?」
黒い靄が突然現れ、大きく渦を巻いたかと思った次の瞬間、黒い靄は姿を変え、その場には柔和な笑みを浮かべたディーク様が立っていた。一瞬の出来事に言葉も発せず唖然としている私へとディーク様が近づいてくる。そして、白く美しい指さきで、頬を撫でられた時、己の身体にビリッと電流が走った。
「――――っひぃ!?」
「あぁ、すみません、ミレイユ。貴方にかけた魔力のせいですね。手荒な真似をしました。でも……、ミレイユ、貴方が悪いのですよ。私の元から突然消えるから、また逃げられても困るでしょ。だから、拘束させてもらいました」
ふふふっと、笑みを浮かべ、私の両手首を拘束する枷を撫でるディーク様の恍惚とした表情に、得体の知れない恐怖が喉元を迫り上がる。決して、先ほどのような怒りを向けられている訳ではない。ディーク様の態度は、この上なく優しく甘い。それなのに感じる恐怖感は、命の危機に瀕した時によく似ていた。まさしく、敵に己の命を握られている時に感じる絶望的なまでの敗北感と、死に直面した時の逃れられない恐怖心。本能的な部分で、それを感じ取った私は、強者に睨まれた獲物の如く、身動ぎすら出来なくなる。
「あぁ、貴方を怖がらせるつもりはないのですよ。そんな怯えた目をして私を見ないでください。貴方を拘束しましたが、傷つけるのは本意ではありません」
スッと黒いオーラを消したディーク様に、やっと身体の力が抜ける。どうやら、まだ殺されはしないらしい。
「ミレイユ、どうやら貴方の意思は固いようです。何しろ『未来永劫の誓い』を持ち出すくらいですから」
そう言って笑みを浮かべるディーク様が一瞬黒いオーラを解放する。その笑みを見て、私は悟った。
やはり、あの誓いを引き合いに出したのは、不味かったのだと。きっと、今拘束されている理由も、あの誓いを持ち出し怒りを買ったからだろう。
いくら、あの場を切り抜けるために最終手段を取ったとはいえ、冷静になり考えれば、やり過ぎたと思う。
「ディーク様、申し訳ありませんでした。確かに、あの場面で『未来永劫の誓い』を引き合いに出したのは、やり過ぎだったと反省しております」
「そうですね。あんな誓い立てられたら、貴方を手放す他ない。未来永劫の誓いを引き合いに出すほど、私の側は苦痛でしたか? あの誓いは、死んでも構わないから、願いを叶えろと言っているのと同じですよ」
「いいえ! 滅相もございません。ディーク様の護衛騎士になり過ごした日々は、私にとってかけがえのない想い出となっております。ディーク様に仕える事が苦痛なはずありません!」
「では、なぜ私の前から消えたのですか?」
「ですから、それは――――」
「ミレイユより力の強い魔族の方が適任だとか、このまま護衛を続ければ他の魔族との間に禍根を生むだとか、そんなくだらない理由は聞きませんよ」
「しかし、今ディーク様が言われた事は事実でございます。私がこのまま護衛騎士を続ければ、いらぬ火種を生みかねないのです。だから、――――」
「――――、でしたらミレイユ。貴方が護衛騎士を辞めた今、そんなくだらない悩みも消え去りましたよね。私は、貴方が護衛騎士だろうと、無かろうと関係ないのです。ミレイユが私の側にいてくれれば、それでいい。だから、『うん』と言ってください。私の側にいると」
ディーク様の言葉が心を満たし、胸が熱くなる。しかし、喜びと共に感じる虚しさ。熱くなった心が急速に冷めていく。
この言葉に隠された真実は、母への恋しさ。亡き母に代わり、ずっと側に居た母親代わりへの執着に過ぎないのだ。
そんな真実が言葉の裏に透けて見え、胸を痛ませる。
傷は浅い方がいい。お互いに……
黒い靄が突然現れ、大きく渦を巻いたかと思った次の瞬間、黒い靄は姿を変え、その場には柔和な笑みを浮かべたディーク様が立っていた。一瞬の出来事に言葉も発せず唖然としている私へとディーク様が近づいてくる。そして、白く美しい指さきで、頬を撫でられた時、己の身体にビリッと電流が走った。
「――――っひぃ!?」
「あぁ、すみません、ミレイユ。貴方にかけた魔力のせいですね。手荒な真似をしました。でも……、ミレイユ、貴方が悪いのですよ。私の元から突然消えるから、また逃げられても困るでしょ。だから、拘束させてもらいました」
ふふふっと、笑みを浮かべ、私の両手首を拘束する枷を撫でるディーク様の恍惚とした表情に、得体の知れない恐怖が喉元を迫り上がる。決して、先ほどのような怒りを向けられている訳ではない。ディーク様の態度は、この上なく優しく甘い。それなのに感じる恐怖感は、命の危機に瀕した時によく似ていた。まさしく、敵に己の命を握られている時に感じる絶望的なまでの敗北感と、死に直面した時の逃れられない恐怖心。本能的な部分で、それを感じ取った私は、強者に睨まれた獲物の如く、身動ぎすら出来なくなる。
「あぁ、貴方を怖がらせるつもりはないのですよ。そんな怯えた目をして私を見ないでください。貴方を拘束しましたが、傷つけるのは本意ではありません」
スッと黒いオーラを消したディーク様に、やっと身体の力が抜ける。どうやら、まだ殺されはしないらしい。
「ミレイユ、どうやら貴方の意思は固いようです。何しろ『未来永劫の誓い』を持ち出すくらいですから」
そう言って笑みを浮かべるディーク様が一瞬黒いオーラを解放する。その笑みを見て、私は悟った。
やはり、あの誓いを引き合いに出したのは、不味かったのだと。きっと、今拘束されている理由も、あの誓いを持ち出し怒りを買ったからだろう。
いくら、あの場を切り抜けるために最終手段を取ったとはいえ、冷静になり考えれば、やり過ぎたと思う。
「ディーク様、申し訳ありませんでした。確かに、あの場面で『未来永劫の誓い』を引き合いに出したのは、やり過ぎだったと反省しております」
「そうですね。あんな誓い立てられたら、貴方を手放す他ない。未来永劫の誓いを引き合いに出すほど、私の側は苦痛でしたか? あの誓いは、死んでも構わないから、願いを叶えろと言っているのと同じですよ」
「いいえ! 滅相もございません。ディーク様の護衛騎士になり過ごした日々は、私にとってかけがえのない想い出となっております。ディーク様に仕える事が苦痛なはずありません!」
「では、なぜ私の前から消えたのですか?」
「ですから、それは――――」
「ミレイユより力の強い魔族の方が適任だとか、このまま護衛を続ければ他の魔族との間に禍根を生むだとか、そんなくだらない理由は聞きませんよ」
「しかし、今ディーク様が言われた事は事実でございます。私がこのまま護衛騎士を続ければ、いらぬ火種を生みかねないのです。だから、――――」
「――――、でしたらミレイユ。貴方が護衛騎士を辞めた今、そんなくだらない悩みも消え去りましたよね。私は、貴方が護衛騎士だろうと、無かろうと関係ないのです。ミレイユが私の側にいてくれれば、それでいい。だから、『うん』と言ってください。私の側にいると」
ディーク様の言葉が心を満たし、胸が熱くなる。しかし、喜びと共に感じる虚しさ。熱くなった心が急速に冷めていく。
この言葉に隠された真実は、母への恋しさ。亡き母に代わり、ずっと側に居た母親代わりへの執着に過ぎないのだ。
そんな真実が言葉の裏に透けて見え、胸を痛ませる。
傷は浅い方がいい。お互いに……
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