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エピローグ
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遠くから聴こえてくるワルツの音に耳を傾け、奥底から湧き上がる喜びのまま、笑みをこぼす。神にとって、魂の喜怒哀楽ほど愉快な娯楽はない。
「本当におもしろい。確か、あのウサギ獣人の名はユリアスと言ったか?」
マリアが、時の狭間で小細工をした魂か……
今は地上へと降りているため、時の狭間で起こったことに関しては何も干渉できないが、何が起こったかは感じ取ることが出来る。どうやら、あのウサギ獣人の魂が、時の狭間に飛んだらしい。そして、そのことにマリアが気づかないはずがないのだ。
勝ち気な目をして、我に啖呵を切った女の事を思い出し、笑みが深まる。
マリア……。我の花嫁……だった、女と言うべきか。
神の花嫁となることを拒否し、ただの器に過ぎぬ男に嫁いだ女。それだけではなく、我の神使となってなお、歯向かう。
飽きぬ女よの。ただ、そろそろあの女で遊ぶのも飽きてきた。
「――殿下。レオンハルト様の婚約披露、無事に済みましてございます」
ノックの音と共に入ってきた猫獣人の女を認め、軽く頷く。
「よろしかったのでしょうか? アルフレッド殿下ですら出席されましたのに、第二王子である貴方様が出席されないとなると禍根を残すのでは」
「大丈夫だよ、エミリア。アルスター王国の第二王子は病弱だろう。誰も気にしないさ」
手を前で組み俯くエミリアの側へと歩み寄り、耳元でささやいてやる。
「エミリア……。君と我は共犯者であろう。大切な第二王子の命を望んだのは其方よ。我に指図するでない」
「申し訳ありません」
つまらぬ……
その場へと跪き、頭を下げる彼女を見て、興味をなくす。
マリアのように、我に歯向かう気概のある者はいないのかのぉ。悠久の時を生きる我は、神の中でも最上位に位置する神の一人である。そのため、天上界であろうと我に歯向かう同族はいない。だからこそ、マリアの存在は貴重なのだ。あの者が、我を憎めば憎むほど、憎しみという快楽を我に与えてくれる。
しかし、我の目を盗み、あの男に前世の記憶を残していたとは、実におもしろい。そして、あのウサギ獣人もまた、我に歯向かうのか……
欲しい……欲しい……
あのウサギ獣人をマリアの子から奪ったらどうなるだろうか?
考えるだけで、笑いが止まらない。
天上界での日々にも飽きてきた。我が居ようと居まいと、時の番人の仕事に支障はなかろう。下々の者がつつがなく、事を進めるであろうしな。それよりも、感情の起伏を直に味わえる地上は、なんて面白いのだ。
「殿下……。いいえ、神よ。貴方様の望みが叶った暁には、殿下の命は本当に助かるのでございましょうか?」
「我は時の神よ。全ての魂の番人であることを忘れるな。生も死も、思いのままよのぉ」
魂の生死は、神であろうと変えることは出来ぬ。そんな事も知らぬ愚かな女よ。
神の器にされた者の魂は、すでにこの世にはいないと言うのにな……
「ありがとうございます。ありがとうございます……」
エミリアが、涙を流し床に平伏す。歓喜に打ち震える彼女の心が、我の感情を揺さぶる。
この者に真実を伝えた時に発せられる絶望は、どんな感情を我に与えてくれるのだろうか?
「エミリアよ。計画を進めようではないか。絶望と言う名の楽しい計画を――」
「本当におもしろい。確か、あのウサギ獣人の名はユリアスと言ったか?」
マリアが、時の狭間で小細工をした魂か……
今は地上へと降りているため、時の狭間で起こったことに関しては何も干渉できないが、何が起こったかは感じ取ることが出来る。どうやら、あのウサギ獣人の魂が、時の狭間に飛んだらしい。そして、そのことにマリアが気づかないはずがないのだ。
勝ち気な目をして、我に啖呵を切った女の事を思い出し、笑みが深まる。
マリア……。我の花嫁……だった、女と言うべきか。
神の花嫁となることを拒否し、ただの器に過ぎぬ男に嫁いだ女。それだけではなく、我の神使となってなお、歯向かう。
飽きぬ女よの。ただ、そろそろあの女で遊ぶのも飽きてきた。
「――殿下。レオンハルト様の婚約披露、無事に済みましてございます」
ノックの音と共に入ってきた猫獣人の女を認め、軽く頷く。
「よろしかったのでしょうか? アルフレッド殿下ですら出席されましたのに、第二王子である貴方様が出席されないとなると禍根を残すのでは」
「大丈夫だよ、エミリア。アルスター王国の第二王子は病弱だろう。誰も気にしないさ」
手を前で組み俯くエミリアの側へと歩み寄り、耳元でささやいてやる。
「エミリア……。君と我は共犯者であろう。大切な第二王子の命を望んだのは其方よ。我に指図するでない」
「申し訳ありません」
つまらぬ……
その場へと跪き、頭を下げる彼女を見て、興味をなくす。
マリアのように、我に歯向かう気概のある者はいないのかのぉ。悠久の時を生きる我は、神の中でも最上位に位置する神の一人である。そのため、天上界であろうと我に歯向かう同族はいない。だからこそ、マリアの存在は貴重なのだ。あの者が、我を憎めば憎むほど、憎しみという快楽を我に与えてくれる。
しかし、我の目を盗み、あの男に前世の記憶を残していたとは、実におもしろい。そして、あのウサギ獣人もまた、我に歯向かうのか……
欲しい……欲しい……
あのウサギ獣人をマリアの子から奪ったらどうなるだろうか?
考えるだけで、笑いが止まらない。
天上界での日々にも飽きてきた。我が居ようと居まいと、時の番人の仕事に支障はなかろう。下々の者がつつがなく、事を進めるであろうしな。それよりも、感情の起伏を直に味わえる地上は、なんて面白いのだ。
「殿下……。いいえ、神よ。貴方様の望みが叶った暁には、殿下の命は本当に助かるのでございましょうか?」
「我は時の神よ。全ての魂の番人であることを忘れるな。生も死も、思いのままよのぉ」
魂の生死は、神であろうと変えることは出来ぬ。そんな事も知らぬ愚かな女よ。
神の器にされた者の魂は、すでにこの世にはいないと言うのにな……
「ありがとうございます。ありがとうございます……」
エミリアが、涙を流し床に平伏す。歓喜に打ち震える彼女の心が、我の感情を揺さぶる。
この者に真実を伝えた時に発せられる絶望は、どんな感情を我に与えてくれるのだろうか?
「エミリアよ。計画を進めようではないか。絶望と言う名の楽しい計画を――」
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