【完結】転生じぃちゃん助けた子犬に喰われる!?

湊未来

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神の花嫁

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 誰か嘘だと言ってくれ……

 目の前でにこやかに笑う女性が、アルフレッド殿下の母親だなんて、誰が想像出来ただろうか。

 つまりは、私が死んだ理由も、もちろん知っていると言う事になる。

 恥ずかしい。恥ずかし過ぎる。

 男二人に取り合いされた挙句、その喧嘩に巻き込まれて死んだなど、恥でしかない。しかも、それを当事者の母親に見られていたなんて、穴があったら入りたい。

 あぁ、この場から消え去りたい。今すぐに!

 いや、待てよ。アルフレッド殿下の気持ちは分からないな。正義感から、あの場に駆けつけたのかもしれないじゃないか。

 きっとそうだ!

 そんな私の希望的観測も、殿下の母親の爆弾発言で木っ端微塵に吹き飛んだ。

「アルフレッドも執着心が強いというか、何というか。誰に似たのかしら? 貴方も大変ね。あの子、体力馬鹿だから、夜伽が大変ではなくって?」

「よ、よ、よ、夜伽!?」

「……あら? まだなの、貴方達」

「まだもなにも、殿下と私はそんな関係ではありません!!」

「えー、まさかぁ? だってあの子、貴方を手に入れたくて、色々裏でえげつない事やっているわよ」

 くつくつと笑いながら告げられる殿下の暴挙の数々に、怒りを通り越し、消えて無くなりたくなる。それを母親から告げられるだなんて、どんな罰ゲームだよ。

 あの過酷を極める森での訓練の裏事情が、自分に邪な想いを抱く者共への制裁だなんて、本当意味がわからない。

「貴方も大変ね。あんな執着心の強い男二人の板挟みにあって」

「母親なら、どうにかしてくださいよ!」

「それは無理よ。だって私死んでいるもの」

 ヤケ糞混じりの八つ当たりですら一蹴され、もう項垂れるしかない。

「それにしても、本当狼獣人の執着心というか執念深さには恐れ入るわ。アルフレッドも、狼獣人だったと言うことね。……本当、あの人そっくり」

 目を細め遠くを見つめる彼女は、とても寂しそうに見える。

「あの人と言うのは、陛下の事ですか?」

「えっ? あっ……そうよ。ユリアスは、アルフレッドの出自に関して、どこまで知っているのかしら?」 

「殿下の出自ですか……。狼獣人と鹿獣人との間に生まれた子で、母親は殿下を産んですぐに亡くなられたと言う事くらいです」

「そう……。あの子は、私の事をどう思っていたのかしら? きっと、赤毛の狼姿に産んだ私の事を恨んでいるのでしょうね。しかも、青銀の狼だらけの王族の中に一人残して死ぬなんて、本当母親失格ね」

 そう言って、弱々しく笑う彼女は、見ているコチラが苦しくなる程、辛そうに見えた。

 彼女が悪い訳ではないのに……

 強い子孫を残すためだけに、鹿獣人である彼女をめとった陛下が全て悪い。

「アルフレッド殿下は、貴方の事を恨んでなどいませんよ。それどころか、自分の存在が貴方を死に至らしめたと、ずっと苦しんでいました。殿下のせいでもないのにね」

「あの子が責任を感じることなんて何もない。禁忌の恋に落ちてしまった私が全て悪い」

 ハラハラと涙を流し、震えながら両手で顔を覆う彼女の言葉が引っかかる。

「禁忌の恋? ちょっと待ってくだい。マリアさんの嫁入りは政略的なものではなかったのですか?」

「えっ? えぇ、そうよ。私は自らの意志で、陛下に嫁ぎ、彼の子を身籠った。決して、強制された訳ではないわ」

 そんな事ってあり得るのか? 

 だって、鹿獣人は神官だぞ。しかも、マリアさんは女性だ。つまりは、巫女にあたる。神と婚姻すると言われている巫女が、自分の意志で神以外と結婚など出来ない。

「マリアさんは、巫女ではなかったと言う事ですか?」

「いいえ。私は、巫女だったわ。しかも、神の花嫁と呼ばれる特別な力を持った存在だった。私はね……神の声を聞く事が出来たの」

「嘘だろう……」

 前世も今世も信心深い方では無いが、唯一存在を信じていたのが、神の声を聞く事が出来るという巫女の存在だ。その者達は、『神の花嫁』と呼ばれ神聖視されている。

 マリアさんの話が本当であるなら、王といえども、『神の花嫁』と結婚など出来ない。神の怒りをかい、災厄を生み出す事になるからだ。

「マリアさんの話が真実な訳がない。だってアルスター王国に災厄なんて起きてないし、何より陛下は健在です。陛下が神から花嫁を奪ったのであれば、真っ先に罰を受けるはずです」

「本来であればね。でも、神は、そうはしなかった。一番苦しむ罰を私に与えるためにね」

 そう言って微笑みを浮かべたマリアさんの姿は、今にも消えて無くなってしまうのではと思えるほどはかなげに見えた。
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