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後編
レオン陛下視点②
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「言っておくがな、さっき言った事はすべて本心だからな。しっかり反省しろ。ただ、お前だけが悪い訳ではない事も分かっている。ティアナにも責任はある。本当に、お前らはいったい何をやっているんだ」
侯爵の手を借り、立ち上がった俺は、促されるまま椅子へと腰掛けた。
「いいえ、ティアナは悪くありません。彼女の立場を落としてしまったのは全て俺の責任です」
「はは、確かに。レオンお前の責任も大いにあるな。ただ、何の行動も起こさなかったティアナの責任も大きい。レオン、俺たちルザンヌ侯爵領の皆は、お前の功績に感謝しているんだ。あの時、お前自ら、隣国との停戦交渉に心血を注いでくれたからこそ、今のルザンヌ侯爵領がある。でなければ、今頃この土地は焼け野原だった。その結果、ティアナとの関係が蔑ろになったのは、致し方あるまい」
隣国との軍事力の差が明らかだった当時、あのタイミングで行動を起こさなかったら、ルザンヌ侯爵領は隣国に蹂躙され、我が国もただでは済まなかった。しかし、それは言い訳に過ぎない。停戦協定後、時間はあったのだ。いくらでも、ティアナと話す機会はあった。彼女の『愛』に甘え、驕った。愛想を尽かされて、当然か。
「今さら、ティアナとの関係を修復しようだなんて、都合が良過ぎますね」
「まぁ、そうだな。親としては、思うところもある。ティアナが、本気でレオン、お前と離縁するため動くのであれば、反対はしない」
「ティアナは、俺と離縁したいと言ったのですか?」
「いいや。ただ、今後アイツがどう動くかはわからない」
「そうですか……」
わからない。ティアナは、離縁の意思を伝えるため、此処へ来たのではないのか?
離縁を伝えるためで無いのであれば、何の目的でルザンヌ侯爵領に戻ったのだ? しかも、メイシン公爵家の手を借り、俺の目を誤魔化す細工までして。
「――まさか……ここに来ていない?」
「ティアナの事か?」
「えっ? あ、そうです」
「突然、レオン自ら侯爵領へ来るなど、何事かと肝を冷やしたが、ティアナ絡みだったか」
「はい。お恥ずかしい話ですが、数週間前から行方不明でして」
「――っ! あの……バカ……。行方不明というと、何も言わずに王宮を出たのか、アイツは」
侯爵の言葉に違和感を覚える。
「なぜ、行方不明と聞いて、ティアナ自ら、王宮を出たとわかるのですか? 誘拐や事件に巻き込まれたと、考えるのが普通でしょうに」
「そうだな。行方不明と聞けば、事件に巻き込まれたと考えるのが妥当か。レオン、お前は昔から洞察力が鋭かったな。ティアナなら、数日前にルザンヌ侯爵領に来たぞ。ただ、お前との離縁の話ではなかったとだけ伝えておく」
ティアナは、やはり此処を訪れていた。俺の勘は当たっていたようだ。ただ、離縁の話でないのなら、いったい何のために、ルザンヌ侯爵領に来たのだ? しかもメイシン公爵家のタッカーと行動を共にしている理由もわからない。あの男が、護衛目的のみで、行動を共にしているとは、到底思えない。
会うたびに、辛辣な嫌味を投げかけてくる側近の顔が脳裏に浮かび、嫌な気分になる。あんなヒョロ男が護衛になるとも考えられないな。
「ティアナは、何のためにこちらへ? しかも、メイシン公爵家の長男も一緒ですよね?」
「ははは、だいぶアイツらに振り回されているようだな」
「アイツらと言うことは……。ティアナは、タッカーと共に行動している?」
ティアナの側に、他の男がいるなど許せるものではない。奥底から湧き出る嫉妬心に臓腑が燃え上がる。
「だとしたら、お前はどうする? 今まで、ティアナを蔑ろにしてきたレオンお前が、アイツらの行動をどうこう言える立場でもないと思うがな」
「――その……通りです」
ティアナの行動を、非難する権利は俺にない。そのことが、重く心にのし掛かる。もっと早く、彼女との関係修復を図っていたらと、後悔したところで今さらである。
侍女ティナに扮した彼女と過ごす時間が、あまりにも温かく、自分の過ちを忘れ、王妃ティアナとしての彼女との関係まで良い方向へと向かっていると感違いしていた。そのことに、彼女が居なくなるまで気づくことすらなかったなど、愚かでしかない。
本当に、俺は馬鹿だ。彼女を俺に縛る事自体が、罪なのではないだろうか。
「俺は……。ティアナの幸せとは、俺と離縁する事なのでしょうね」
「本当、お前は馬鹿だな。そんな事、直接ティアナに聞きやがれ! お前の本心を聞いて、決めるのはアイツだ。離縁するのか、お前と添い遂げるのか。結果が、どうなろうとも受け止めてこそ男だろ‼︎」
立ち上がった侯爵に肩を叩かれる。
『結果がどうなろうとも、ティアナの気持ちを受け止めろ』か……。
ティアナの笑顔を思い浮かべるだけで、こんなにも心が温かい。
木から降ってきた幼き日のティアナも、結婚式の時の緊張に頬を紅潮させたティアナも、悲し気にこちらを見つめるティアナも、怒って頬を膨らませた侍女姿のティアナも、そして嬉しそうに甘い笑みを見せてくれたティアナも、次から次へと愛しい彼女の姿が脳裏に浮かぶ。
『愛している』
この気持ちを素直に伝えよう。これが、俺に出来る精一杯だ。
「――当たって砕けろか」
「当たって、砕けんでもいいと思うが、まぁ、気持ちを素直に伝えるのは大切な事だ。お互いにな」
「はい。ティアナが、応えてくれるかはわかりませんが、もう過去の過ちは繰り返しません」
「そうだな。お互いに腹を割って話して来なかったから、今の状況になっている。レオン、お前もティアナもしっかり反省しろ。わかったか!」
急に、大きな声を出した侯爵に、ピンっとくる。
――この部屋のどこかにティアナがいるのか?
ただ、それを追求するつもりはない。
「侯爵……いいえ、義父上。不甲斐ない失態を見せまして申し訳ありませんでした。今後、どのような結果になろうとも、俺はティアナを愛しています。もし、彼女が俺の気持ちに応え、支えてくれるのであれば、今度こそ全力で彼女を幸せにすることを約束します」
「はは、そうか。まぁ、あまり気負うなよ」
朗らかに笑う侯爵を見つめ、ありし日の『誓い』を思い出す。
ティアナとの結婚を渋る侯爵に、啖呵を切った日の事を――
侯爵の手を借り、立ち上がった俺は、促されるまま椅子へと腰掛けた。
「いいえ、ティアナは悪くありません。彼女の立場を落としてしまったのは全て俺の責任です」
「はは、確かに。レオンお前の責任も大いにあるな。ただ、何の行動も起こさなかったティアナの責任も大きい。レオン、俺たちルザンヌ侯爵領の皆は、お前の功績に感謝しているんだ。あの時、お前自ら、隣国との停戦交渉に心血を注いでくれたからこそ、今のルザンヌ侯爵領がある。でなければ、今頃この土地は焼け野原だった。その結果、ティアナとの関係が蔑ろになったのは、致し方あるまい」
隣国との軍事力の差が明らかだった当時、あのタイミングで行動を起こさなかったら、ルザンヌ侯爵領は隣国に蹂躙され、我が国もただでは済まなかった。しかし、それは言い訳に過ぎない。停戦協定後、時間はあったのだ。いくらでも、ティアナと話す機会はあった。彼女の『愛』に甘え、驕った。愛想を尽かされて、当然か。
「今さら、ティアナとの関係を修復しようだなんて、都合が良過ぎますね」
「まぁ、そうだな。親としては、思うところもある。ティアナが、本気でレオン、お前と離縁するため動くのであれば、反対はしない」
「ティアナは、俺と離縁したいと言ったのですか?」
「いいや。ただ、今後アイツがどう動くかはわからない」
「そうですか……」
わからない。ティアナは、離縁の意思を伝えるため、此処へ来たのではないのか?
離縁を伝えるためで無いのであれば、何の目的でルザンヌ侯爵領に戻ったのだ? しかも、メイシン公爵家の手を借り、俺の目を誤魔化す細工までして。
「――まさか……ここに来ていない?」
「ティアナの事か?」
「えっ? あ、そうです」
「突然、レオン自ら侯爵領へ来るなど、何事かと肝を冷やしたが、ティアナ絡みだったか」
「はい。お恥ずかしい話ですが、数週間前から行方不明でして」
「――っ! あの……バカ……。行方不明というと、何も言わずに王宮を出たのか、アイツは」
侯爵の言葉に違和感を覚える。
「なぜ、行方不明と聞いて、ティアナ自ら、王宮を出たとわかるのですか? 誘拐や事件に巻き込まれたと、考えるのが普通でしょうに」
「そうだな。行方不明と聞けば、事件に巻き込まれたと考えるのが妥当か。レオン、お前は昔から洞察力が鋭かったな。ティアナなら、数日前にルザンヌ侯爵領に来たぞ。ただ、お前との離縁の話ではなかったとだけ伝えておく」
ティアナは、やはり此処を訪れていた。俺の勘は当たっていたようだ。ただ、離縁の話でないのなら、いったい何のために、ルザンヌ侯爵領に来たのだ? しかもメイシン公爵家のタッカーと行動を共にしている理由もわからない。あの男が、護衛目的のみで、行動を共にしているとは、到底思えない。
会うたびに、辛辣な嫌味を投げかけてくる側近の顔が脳裏に浮かび、嫌な気分になる。あんなヒョロ男が護衛になるとも考えられないな。
「ティアナは、何のためにこちらへ? しかも、メイシン公爵家の長男も一緒ですよね?」
「ははは、だいぶアイツらに振り回されているようだな」
「アイツらと言うことは……。ティアナは、タッカーと共に行動している?」
ティアナの側に、他の男がいるなど許せるものではない。奥底から湧き出る嫉妬心に臓腑が燃え上がる。
「だとしたら、お前はどうする? 今まで、ティアナを蔑ろにしてきたレオンお前が、アイツらの行動をどうこう言える立場でもないと思うがな」
「――その……通りです」
ティアナの行動を、非難する権利は俺にない。そのことが、重く心にのし掛かる。もっと早く、彼女との関係修復を図っていたらと、後悔したところで今さらである。
侍女ティナに扮した彼女と過ごす時間が、あまりにも温かく、自分の過ちを忘れ、王妃ティアナとしての彼女との関係まで良い方向へと向かっていると感違いしていた。そのことに、彼女が居なくなるまで気づくことすらなかったなど、愚かでしかない。
本当に、俺は馬鹿だ。彼女を俺に縛る事自体が、罪なのではないだろうか。
「俺は……。ティアナの幸せとは、俺と離縁する事なのでしょうね」
「本当、お前は馬鹿だな。そんな事、直接ティアナに聞きやがれ! お前の本心を聞いて、決めるのはアイツだ。離縁するのか、お前と添い遂げるのか。結果が、どうなろうとも受け止めてこそ男だろ‼︎」
立ち上がった侯爵に肩を叩かれる。
『結果がどうなろうとも、ティアナの気持ちを受け止めろ』か……。
ティアナの笑顔を思い浮かべるだけで、こんなにも心が温かい。
木から降ってきた幼き日のティアナも、結婚式の時の緊張に頬を紅潮させたティアナも、悲し気にこちらを見つめるティアナも、怒って頬を膨らませた侍女姿のティアナも、そして嬉しそうに甘い笑みを見せてくれたティアナも、次から次へと愛しい彼女の姿が脳裏に浮かぶ。
『愛している』
この気持ちを素直に伝えよう。これが、俺に出来る精一杯だ。
「――当たって砕けろか」
「当たって、砕けんでもいいと思うが、まぁ、気持ちを素直に伝えるのは大切な事だ。お互いにな」
「はい。ティアナが、応えてくれるかはわかりませんが、もう過去の過ちは繰り返しません」
「そうだな。お互いに腹を割って話して来なかったから、今の状況になっている。レオン、お前もティアナもしっかり反省しろ。わかったか!」
急に、大きな声を出した侯爵に、ピンっとくる。
――この部屋のどこかにティアナがいるのか?
ただ、それを追求するつもりはない。
「侯爵……いいえ、義父上。不甲斐ない失態を見せまして申し訳ありませんでした。今後、どのような結果になろうとも、俺はティアナを愛しています。もし、彼女が俺の気持ちに応え、支えてくれるのであれば、今度こそ全力で彼女を幸せにすることを約束します」
「はは、そうか。まぁ、あまり気負うなよ」
朗らかに笑う侯爵を見つめ、ありし日の『誓い』を思い出す。
ティアナとの結婚を渋る侯爵に、啖呵を切った日の事を――
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