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前編

告白

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「お会いくださりありがとうございます。アリシア・バレンシアでございます」

「アリシア様、わたくしは一介の侍女です。身分は、アリシア様の方が格段に上なのでございます。お察し頂けると助かります」

「わかりました。では、この場では身分関係なくお話しすることと致しましょう」

 町外れにある小さなお屋敷の一室。庭に面した一角に配置されたサンルームにて、アリシア様と侍女ティナに扮した王妃の初対面が果たされた。

 今頃、ルアンナは王妃の間で発狂している事だろう。

 安全面を考え、最後まで王宮内での密会を提案していたルアンナを押し切る形で、この町外れにある屋敷に決めたのは陛下の存在があったからだ。

 万が一、アリシア様との密会が陛下にバレた場合の影響は計り知れない。

 アリシア様との密会内容を追求されるだけなら、どうとでも誤魔化しは出来るが、彼女には他に想い人がいると感づいた場合、どう出るか分からない。

 愛と憎しみは紙一重という。

 陛下の愛が憎しみに変わった時、想い人共々アリシア様を粛正する可能性だってある。あの無表情鉄仮面なら有り得る話だ。

 念には念をいれ、出来る限り危険は排除すべきなのだ。

「では、お伺いしてもよろしいでしょうか?お手紙には、側妃候補になった事に関してのご相談だとか。陛下と結婚するにあたり、王妃様の存在が相談事と関係しておられると考えてよろしいですか?」

「わたくしの相談事と王妃様が関係あるかと言われると最終的には、あると言えますでしょう。ただ、侍女様が、懸念しているような内容ではありません。結婚するにあたり、王妃様の動向やお考えを知りたいと言う訳ではありません」

「ではなぜ、私に接触なさったのですか?青い封筒で、手紙を書かれたという事は、私への相談は恋に関する事。陛下との婚約も決まり、バレンシア公爵家もこのお話には乗り気だとか。一介の侍女如きに相談を持ちかけるような心配事はないように思われます。ただ、陛下との婚約が貴方様にとって不本意な物であるなら話は別ですが」

 目の前に座る美女の表情が一瞬曇る。やはり、私の考えは間違っていなかった。

「お察しの通りです。わたくしは、陛下との婚約は望んではおりません」

「それは、他に好きな方、もしくは恋人がいると考えてよろしいのですね?」

「恋人ではありません。わたくしが勝手に想いを寄せているだけです」

「失礼だとは思いますが、少々自分勝手ではございませんか?高位貴族の令嬢であるなら、政略結婚はごく普通のことです。好きな男性がいるからと言って、陛下との結婚は嫌だなんて子供じみています。そんなワガママ通らないことくらいアリシア様なら理解しておりますでしょうに」

「わたくしも高位貴族の端くれとして、家のための政略結婚は致し方ないと思っております。ただ、陛下との結婚だけは出来ないのです。わたくしが輿入れすれば、バレンシア公爵家はどうなるかわかりません。亡き母が愛した公爵家は跡形もなく崩壊するでしょう。そして、わたくしの愛する方の命もどうなるかわかりません。わたくしは、バレンシア公爵家を離れる訳にはいかないのです」

 俯き震える声で話すアリシア様は涙声だった。

 今の彼女の言葉だけでは、アリシア様が陛下との結婚を拒む真の理由が見えない。

 疑問点ばかりが頭に浮かぶ。

 なぜ、アリシア様が陛下と結婚するとバレンシア公爵家は崩壊することになるのだろうか?

 ある噂が脳裏をよぎる。

『アリシア様は、バレンシア公爵の実子ではない。亡くなった前妻が、外で作った子供だと』

 この噂が関係しているにしても、陛下との結婚を拒む理由にはならない。

 もし仮に、この噂が真実だとしても、バレンシア公爵家にはルドラ様がいらっしゃる。正式に発表された訳ではないが、跡継ぎは長男のルドラ様で間違いないだろう。たとえアリシア様が、陛下と結婚したところでバレンシア公爵家の力が増すことはあっても、衰退するなんて考えられない。アリシア様が、バレンシア公爵と血が繋がっていないにしても、正式な長女として認知されている現状、それを隠して結婚しても何ら影響はない。

 あの執着心の強い陛下が、そんな噂ごときで愛する女性を手放すとも思えないし。

 では、なぜアリシア様は陛下との結婚を拒むのだろうか?

 ただ、彼女の様子からは、踏み込んだ話を一介の侍女にする気はないようだ。

「アリシア様、率直にお伺いします。貴方様は私に何をお望みで呼び出したのでしょうか?」

 意を決したように顔を上げたアリシア様の決意に満ちた瞳とかち合う。

「お願いがあります。王妃様と内密に会わせて頂きたいのです」

 やはり、それが目的だったか。






 王妃の間に続く扉を開き、中へ入ると開口一番ルアンナの怒声が響き渡った。

「ティアナ様!一体全体どういうことですか⁈ 私を身代わりに仕立て抜け出すなんて、ひどすぎます」

「ご、ご、ごめんなさい。貴方が適任だったのよ。ほら、背格好も私と似ているでしょ。それに、一番側にいて、私の事を理解しているのもルアンナじゃない」

「そうは申されましても、ティアナ様に変装して、王妃の間で待機だなんて。もし、バレたらと生きた心地がしませんでした‼︎」

 豪奢ごうしゃなドレスを着て、銀髪のカツラをかぶったルアンナが、侍女姿の私に抱きつきワンワンと泣く。

――参ったなぁ……

 ルアンナに何も告げず抜け出したのはまずかった。当分は、ネチネチと責められそうだ。

「本当ごめんなさい。これからは、きちんとルアンナに言って王妃に変装してもらうから」

「なっ、なっ、なっ、そのような事を言っているのではありません‼︎ 当分の間、外出禁止に致しますよ‼︎!!」

「ははは…………」

――まずった。

「あぁぁぁ、ルアンナ違うの!どう言えばいいのかしら、そうそうアリシア様の相談の件よね」

 ジト目でこちらを睨むルアンナの視線をかわし、話の矛先を逸らす。

「どうやら、アリシア様は王妃との謁見を希望されているみたいよ。内密に」

「はっ⁈ どういう事ですか?」

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