18 / 20
夜の帳にみる夢は
しおりを挟む妻と再開してから、複写で今までの出来事や行った場所を見せたり、魔法の練習をしたり、皆でワイワイやったりで、10日ほど経ちました。
「ジョニー達は職業【冒険者】なのよね」
夕食後ののんびりくつろぎタイムに、妻が編み物をしながら話しかけて来ました。
「そうですね、他にも色々やっていますけど、一番最初に冒険者ギルドで登録したから、冒険者ですね」
「でもジョニーの場合は、冒険者と言うより【商人】だよね」
コニーが言うと、ブルースも続けます。
「色々な物を開発する【発明家】でもあるな」
「僕は【料理人】を推すよ!
父ちゃんのご飯美味しいもん!
あ、母ちゃんのご飯も美味しいよ」
シナトラがアワアワしています。
妻の料理が美味しいのは当然ですよ。
「町長でもありますしね」
珍しくアインも乗って来ます。
「要するに【何でも屋】じゃないの?」
チャックの突っ込みに、皆が大きく頷きます。
確かに、冒険者活動は殆どしていないような……。
発明と言うより、前の世界の物を再現しているだけなのですから、パクリ屋でしょう。
町長は、国王と呼ばれるよりは全然マシです。
やはりここは、何でも屋が一番しっくりきますよね。
「兼業されている方は多いですから、一番初めに登録した職業を名乗る方が殆どですよ。
冒険者として登録したけれど、事情により引退されて、ギルドカードを返却されたら、流石に名乗れませんけど」
へー、そうなのですね。
ん?それならば、
「ギルドで登録していない方…例えば農家の方や漁業の方は、どうなるのです?」
「え?農業ギルドと漁業ギルドが有るに決まってるじゃん。
ジョニー知らなかったの?」
「父ちゃん、僕でも知ってるよ」
チャックとシナトラに可哀想な子を見る目で見られてしまいました。
冒険者ギルド、商業ギルド、薬師ギルド、生産ギルドの四つだけなんじゃあ無いんですね。
「あー、四つって、提携している四つの事?
あれは協賛と言うか、お互いのメリットで手を組んでるんだよ。
農業と漁業は全国津々浦々とはいかないからね。
農業の盛んな土地、海辺の街などにしか無いから、冒険者ギルドとかとは提携していないの」
「支店数が大幅に違いますからね。
提携している四つのギルドは、殆どの町にありますから、持ちつ持たれつの関係なんですよ」
コニーの説明に、アインが捕捉してくれました。
「だからそろそろこの町にも、生産ギルドを誘致した方が良いと思いますよ」
なんとか安定生産出来そうなガラスやコルク、シルク(擬き)、ボタン(それを使用した服)などを、商標登録?特許?
とにかく登録した方が良いそうです。
「皆さん冒険者なのですか?」
「いえ、私とコニーは冒険者登録していませんので、違いますね。
私達の職業は【魔王】になります。
因みにヨルゼルや、コニーの片割れの職業は【国王】です」
魔王は種族名ではなく、職業なのですね、知りませんでした。
「白雪は流石に空欄ですね。
リリーさん、職を探しているのですか?)
アインに問われ、頷く妻。
「まだこの世界に来たばかりなのですから、のんびりしていればいいじゃ無いですか。
家の事をやってくれているのですし、こちらの世界では、私そこそこ稼ぎは有りますよ」
妻の一人や二人……いえ、一人だけですけど、養うのに全く問題有りません。
「収入だけの事じゃなくて、何か仕事をしていないと落ち着かないんですよ」
これは【日本人あるある】ですかねえ、貧乏性と言いますか、【仕事】をしていないと、何か落ち着かないと言いますか、不安になってくると言いますか。
「気持ちはわかります。
なら、何かやりたい事をゆっくり探してみますか?
それとも、得意な分野で、食堂でも開きますか?」
そうねぇ…と言いつつ、手元は編み物を続けています。
「お料理も良いけど、私、薬の調合をやってみたいですね」
薬の調合…確か妻の姉が薬剤師で、妻もその道に進むはずが、受験に失敗して……。
「ジョニー、そんな顔しないで。
この世界では薬草と綺麗な水と、調合のスキルが有れば、体力回復の薬が作れるのでしょう?
私にもそのスキルが有りますし」
確かに、自分で作ったことはありませんが、すり潰した薬草を綺麗な水…魔法で出した水で煮出して濾すと、ポーションが出来る事は知っています。
すり潰すコツとか、煮出しのタイミングやなんかは、調合のスキルが無いと上手くいかないそうです。
ほかの薬も、材料が有って、スキルさえ持っていれば、一通り作れるそうです。
しかも妻の調合スキルの熟練度は【中】ですから、そこそこの品質の薬が出来るはずです。
「実は昼間にね、薬師ギルドへ相談に行って、一つ作ってみたの」
と言って妻は、毛糸の入っているカゴから、陶器の小瓶を取り出し、目の前のテーブルに乗せます。
妻に断り鑑定してみましたら、高品質のポーションでした。
「昼に出掛けていたのはギルドだったのですね。
普通に買い物へ出掛けていたと思っていました」
「隠す気は無かったのですけど…、ごめんなさい」
妻が頭を下げるので、慌ててしまいました。
「別に謝る必要はありませんよ。
やりたい事をやれば良いのですから」
魔法のあるこの世界では、やりたいと思った事は、ほぼ実現可能です。
他人に迷惑をかける事でないのなら、好きな事をすれば良いと思います。
「ええ、やりたい事を仕事にしたいと思ったの。
だから、前には出来なかった事を……人の助けになる事をしたいの」
前世では、妻は一度の受験の失敗で、全ての夢を諦めなければいけませんでした。
この世界で、その夢を叶える事が出来るのなら、やれば良いと思います。
私も全面的に協力をしましょう。
「リリーさんは、薬師になりたいの?」
「そうね、チャックくん。
私は以前薬剤師……薬の専門家になりたかったの。
でも、頭が悪かったからなれなかったのよね」
塾も通わず、家庭教師もつけて貰えず、独学で医大に一発合格なんて、結構無茶な条件を出したもんだよな、あのクソ親………思い出しムカつきはやめておきましょう。
「この世界ならその夢、叶えられるの?」
ニッコリ微笑んで頷く妻。
「母ちゃんがお薬作るなら、僕が薬草取って来てやるよ!」
「白雪もお手伝いする~」
「まあ、薬草ダンジョンもあるしな、薬師になるには都合の良い町だと思うぞ」
シナトラ達に肯定され、妻は私に視線を向けて来ます。
「作業部屋を作らなければなりませんね」
頷きながら言うと、妻は嬉しそうに微笑みした。
11
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる