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恋人編(後編)

第49話

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 セレーナにかけた防御魔法が壊れたことを感じ取った俺はすぐさま彼女の元へ転移をする。そして素早く結界魔法を展開させた。

 火の玉が目の前で呆気なく散る。
 後ろを振り向けば、セレーナは座り込んだまま俺を驚いたように見上げていた。

「フェル!」

「セレーナ。気をつけてくれとあれほど···!」

 嬉しそうに俺の名を呼ぶ彼女を可愛いと思いながらも、セレーナにイライラと苛立ちが募った。

 君は危うく死ぬところだったんだだぞ、とか、
 あの魔物にかかれば君なんて直ぐに殺されてしまうだろう、とか、
 本当はそうやって怒鳴ってしまいたかった。

 もう彼女をこんな危ないところに置いておけないとも思った。
 いくら頑固にここにいたいと言っても、もう我慢の限界だったのだ。

 セレーナが死んでしまっては意味が無いではないか。
 俺がこの魔物達と戦う理由も
 この街を守る理由も

「ごめんなさい」

 セレーナのしょんぼりとした謝罪に、苛立ちが激減し慌てて俺は弁解する。

「いや、怒っている訳では無いんだ。ただ心配で···」

 言ったことは嘘ではない。
 セレーナに怒ってしまいたい自分もいた。

 しかし、やはり心配のほうが勝った。

 俺が苦く笑えば、セレーナは泣きそうな顔をした。

「ありがとうフェル」

 セレーナの言葉を耳にした後、ふと、彼女が何かを守るように抱きしめていることに気がつく。
 それはもぞりと動くと、「おねえちゃん」とか細い声を漏らした。

 どうやらセレーナが魔物から救助したらしい。
 この子も避難させてあげたいと言う彼女に同意する。酷く衰弱しているようだ。

 子どもを抱えるセレーナを支えながら立ち上がるのを手伝えば、ぐにゃりとセレーナの可愛い顔が歪む。

 はっと足元に視線を向ければ、腫れ上がった足首と膝元からドクドクと流れ出る血が見えた。
 慌てて自分のシャツを裂き、セレーナの細い足に止血の為に巻き付ける。
 足首にもグルグルと固定させる為に布を巻き付けた。

 セレーナが慌てたような声を出したが、今は出血を止めることの方が大事だ。
 細く白い足が傷だらけで、巻いてる最中だというのに泣きたくなる。

「治癒魔法···使えなくてごめんな」

 治癒の魔法を使える者は珍しい。
 俺もS級というランクについてはいるが、治癒魔法は残念ながら使えない。
 治癒魔法は誰でも使える訳では無いものなのだ。
 その代わりに回復薬や傷薬のようなポーションが世の中には出回っている。しかし生憎、この魔物の襲撃は緊急すぎて家にはあるものの、手元にはないのだ。

 ぎゅっと布を固く縛り、大丈夫かとセレーナの顔を覗き込めば、彼女はふわりと笑った。

「ありがとう。なんだか楽になったような気がする」

 彼女の返答にほっとしたのも束の間、先程の魔物とは違う、もう2体の魔物がこちらに近づいてきた。
 紫がかった唾を吐き出しながら、大きな唸り声を上げている魔物たち。
 不快に思い、すぐさま奴らを魔法で捻り潰せば、セレーナが驚嘆の声をあげた。

 彼女にすごいと言われるのは、悪くなかった。

 避難場所にセレーナとセレーナの傍らにいた子どもを転移させる。
 子どもの母親はすぐに見つかり、何度もこちらに頭を下げていた。
 嬉しそうに手を振り笑うセレーナは、とても可愛らしかったのは言うまでもない。

 足を怪我したセレーナをそっと岩の近くに下ろし、岩にもたれかけさせる。

 しっかりと防護魔法を彼女の周りに掛ければその直後、セレーナの唇が俺のに重なった。
 突然のことに顔が真っ赤になってしまった自分はかっこ悪いと思う。

 悪戯が成功したとばかりに笑うセレーナにお返しと唇を重ねて抱き締めれば、彼女の華奢な背中は少し震えていた。

「行ってらっしゃい、フェルディナンド」

 そう言ってセレーナの強く寂しげな瞳が俺を捉えた。


 *****


「······やっと終わったのね!」

 大量の魔物を狩り終え、避難場所に行けば俺を見つけたセレーナが嬉しそうに抱きついてきた。

「ああ」

 ようやく消滅した魔物たちの群れ。
 暗かった辺りは、日の光で明るくなってきていた。
 避難場所にはチラホラ再開を喜ぶ人々や、疲労でぐったりとした冒険者たちが見える。
 しかし、魔物の襲撃によって街は壊滅。
 立て直すのにも少し時間がかかるだろう。まあ家ぐらいなら魔法でなんとかなりそうだが。

「無事でよかった」

 愛しい恋人が無事なこと、
 魔物の襲撃をなんとか全滅させたこと、

 ぎゅっと力を込めたセレーナの抱擁に、俺も安堵で彼女を抱きしめ返した。

 もう、終わりだ。
 ようやく安心して暮らすことが出来る。
 そう思ってセレーナを抱きしめていたはずなのに、

 なのに─────

 いきなり地面に叩きつけられる体、
 それは、え?と声を発することも出来ない一瞬の出来事で、
 
「かはっ···!」

 目の前で起こったことに俺の理解は追いついてはくれなかった。

────────────

 やば、もうそろ完結だ(汗)
 続きは夜にまた更新します。
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