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出会い編

第13話

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 「すまない。」

 彼が一言そう言う。
 その言葉によって私は理解した。

 振られ···たんだ。

 心の中からぶわっと何かが溢れる。

 最初に彼を好きになったのは顔だったかもしれない。 
 けれど色んなフェルさんを知る中で、その中身も素晴らしい人だと思った。

 この世界では嫌悪されてしまう顔を持っていても、自分を見失ってなどいなかったフェルさん。
 一つ一つにお礼を言ってくれる律儀さも、私の自分勝手な行動にも苦笑しながら相手してくれるところも。

 全部、全部好きなのに。

 自分自身、こんなにも彼が好きだなんて知らなかった。
 なのに、

 ーーーー振られちゃったなあ。

 ボロボロと瞳から涙が零れる。

 「何がッ···何が駄目だったんですかあ。」

 私はわんわん泣きながらフェルさんに聞いた。
 フェルさんに振り向いてもらおうと沢山話し掛けた。
 たくさん笑いかけた。
 自意識過剰すぎだのか。
 しかし、フェルさんも私に好意的だと思っていた。

 フェルさんが困ったように私を見ながら答える。

 「─────わからない。」

 たった一言、それだけ。

 それはとても曖昧な答えで、

 私を諦めさせるのには不十分で、

 拒絶されている訳では無いのかもしれない。
 何故か私の中で、そんな考えが浮かんだ。

 悪足掻きかもしれない。
 ただ現実から顔をそむけたいだけなのかもしれない。

 だけど私の中で何かがムクムクと大きくなるような気がした。
 私、まだ努力していなかった。

 過去の自分を思い返す。
 その全てが努力も何も無いただの女に思えた。

 一度ダメだったとしても諦めない。

 私の中で強い決心が生まれる。

 溢れる涙を手で拭い、私はフェルさんを真っ直ぐに見上げた。
 ローブのフードでフェルさんの顔は見えない。

 「フェルさん!覚悟しておいて下さい!私は絶対に貴方を振り向かせて見せますから!」

 これは宣誓布告。
 フェルさんへの愛の。
 フェルさんが私の運命だから。
 絶対に私は貴方を逃がさない。

 フェルさんは呆気に捕われているようで、私の言葉をあまり理解していないようだった。

 フェルさんを振り向かせるための私の猛アタックが、

 本当の意味で始まる。

 *****

 ガシャンガシャンッ

 自分の部屋の机に先程買った化粧品を広げる。

 フェルさんに振られた後、私は直ぐに街の化粧品屋さんに駆け込んだ。
 沢山話しかけたりしていたけど、自分自身が変わる努力をしてなかった。
 そう思ったのだ。

 見る限り、街の女の子達はとてもキラキラしていた。
 しっかりめかしこんで好きな人に会う。
 それが普通なのに、村の友人も前世の友人もそうしていたのに私はすっかり忘れていたのだ。
 ギルド内の食事の時も、さっきまでのデートも一切お化粧をしていなかったことに。

 思い出して欲しい。
 私は童顔だが、18歳。
 この世界では立派な大人なのだ。

 それがすっぴんのまま好きな人を振り向かせることなどできるのか。

 ーー答えは、否である。

 だから私は考えたのだ。

 フェルさんを振り向かせ作戦としての"イメチェン"を。

 これは前世の漫画などで成功しているのを沢山見てきた。
 そして多大な効果があった事も記憶している。
 村の友人もたくさん努力して恋を実らせていたのも知っている。

 フェルさんに振り向いてもらう為にもこれからはもっと外見に気を使おう。
 そう決心して、貯めていたお金をはたいて買った化粧品。
 前世とは化粧品の姿形が少し違ったが、お店の人の説明はしっかり聞いてきた。

 この恋が成就しますように

 そんな思いも込めて私はそっと化粧品の蓋を開けた。
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