上 下
10 / 58
出会い編

第9話

しおりを挟む

 彼は10日に1回程度でギルドに来た。

 その度に、私は彼と食事をした。
 おばちゃんは私の好きな人が分かっているので、彼が来た時は休憩行ってきていいよと言ってくれる。ありがたい。

 彼との食事は会話はあまりないけど楽しい。

 最初は無言だった彼も最近では私の話に相槌を打ってくれるようになった。

 嬉しい。
 彼との関係が少しだけ近づいて来ていることが嬉しい。

 私は今日も彼の元へ行く。

 「フェルさん!」

 周りから見れば、醜男に駆け寄る変な女だと認識されているのだろう。

 でも、それは私に関係ない。

 彼がいい。
 彼しか見えない。

 今日も、彼と食事をする。

 それが私に仕事をもっと頑張らせてくれる糧にもなる。
 恋の力は本当にすごいと思う。

 彼の名前はフェルディナントと言う。

 私はその名を教えて貰った後、すぐにフェルさんと愛称で呼ばせてもらった。もちろん強制なのだが。

 彼は私が愛称で呼んでも何も言わなかったのでたぶん許してくれたのだと思う。
 そう信じたい。

 今更拒絶とかされたらうつになってしまうかもしれない。

 私は今日もフェルさんを落とそうと奮闘する。


 *****


 人は幸せを知ってしまうともっともっととだんだん欲張りになる。

 私も、その1人だった。

 フェルさんと一緒にギルドだけでなくもっと他の場所に行ってみたい。

 最近そう感じるようになってきたのだ。


 「フェルさん。私とデートしませんか?」


 10日に1度くらいのフェルさんとの食事中、私は開口一番そう言った。
 行動は早い方がいい。

 「ーーッゲホッゴホッ」

 私の言葉にフェルさんはむせたようだ。
 苦しそうにしているフェルさんに、すぐにお水を差し出す。

 動揺してるフェルさんも可愛いなと思う。

 私はニコニコとしながらフェルさんの答えを待った。
 嫌と断られても、もちろん強制的に連れ回すだけなのだが。

 「俺は、その···」

 モゴモゴと何かを言っているフェルさん。
 小さい声なので上手く聞き取れない。

 自分のいいように解釈することにしよう。

 そう決めた私は自分の両手を握りながら顔の前に待っていき、笑顔で言った。

 「わあ。嬉しいなあ。どこに行きます?私あまりこの街について知らないので案内して貰えたら嬉しいんですけど···。」

 フェルさんのモゴモゴを私は肯定と受け止めた。

 だって嫌なら嫌だというでしょう?

 ローブにその顔が隠れていてもフェルさんがすごく動揺しているのがわかる。
 いきなりデートをすることが決まったのだから無理もない。

 私は彼とのデートに心踊らせながら、また一方的に彼に話し掛け続けた。


 *****


 「フェルさんここです!」

 私は、集合時間ピッタリに来たフェルさんに手を振る。
 楽しみすぎて集合の20分前にここにいた自分に内心苦笑しながらフェルさんを見る。
 ローブで顔を隠しているのはいつもの事だ。

 でも、相変わらずかっこいい。

 フェルさんとデートができる。
 そのことにもテンションMAX。

 今日の私の格好を説明しようと思う。
 まず、真っ白の可愛らしいワンピース。
 それと、黒のリボンがついた歩きやすい靴を履いている。
 髪の毛はお団子にして薄いピンクのリボンで結んだ。
 このコーディネートの全ては、食堂で働いて稼いだ私の給金から出したものだ。

 我ながら可愛らしいと思う。
 18歳には見えないが。

 フェルさんの横に立って歩く。

 フェルさんは最初、私が隣に立つことに少し抵抗を感じていたようだったがそんなこと無視だ無視。

 私の頑固さを理解したのか、フェルさんはすぐに何も言わなくなった。

 ごめんねフェルさん。

 少しも反省してないが一応心の中で謝っておこうと思う。

 *****

 隣に並べばわかる。
 フェルさんは本当に背が高い。

 背が高すぎることはこの世界ではあまり良くないらしいが、私は全然アリだ。
 むしろ高い方が好き。

 チビデブとか好きじゃないし。
 まあ、フェルさんはデブになっても好きだけど。

 がっしりとした体を横目でちらりと見る。

 はあ。抱かれたい。

 謎に欲求不満にもなってきてるようだ。

 今は一緒にいられるだけで十分でしょうと私は自分を叱責した。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不憫な貴方を幸せにします

紅子
恋愛
絶世の美女と男からチヤホヤされるけど、全然嬉しくない。だって、私の好みは正反対なんだもん!ああ、前世なんて思い出さなければよかった。美醜逆転したこの世界で私のタイプは超醜男。競争率0のはずなのに、周りはみんな違う意味で敵ばっかり。もう!私にかまわないで!!! 毎日00:00に更新します。 完結済み R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

何を言われようとこの方々と結婚致します!

おいも
恋愛
私は、ヴォルク帝国のハッシュベルト侯爵家の娘、フィオーレ・ハッシュベルトです。 ハッシュベルト侯爵家はヴォルク帝国でも大きな権力を持っていて、その現当主であるお父様にはとても可愛がられています。 そんな私にはある秘密があります。 それは、他人がかっこいいと言う男性がとても不細工に見え、醜いと言われる男性がとてもかっこよく見えるということです。 まあ、それもそのはず、私には日本という国で暮らしていた前世の記憶を持っています。 前世の美的感覚は、男性に限定して、現世とはまるで逆! もちろん、私には前世での美的感覚が受け継がれました……。 そんな私は、特に問題もなく16年生きてきたのですが、ある問題が発生しました。 16歳の誕生日会で、おばあさまから、「そろそろ結婚相手を見つけなさい。エアリアル様なんてどう?今度、お茶会を開催するときエアリアル様をお呼びするから、あなたも参加しなさい。」 え?おばあさま?エアリアル様ってこの帝国の第二王子ですよね。 そして、帝国一美しいと言われている男性ですよね? ……うん!お断りします! でもこのまんまじゃ、エアリアル様と結婚させられてしまいそうだし……よし! 自分で結婚相手を見つけることにしましょう!

王宮の片隅で、醜い王子と引きこもりライフ始めました(私にとってはイケメン)。

花野はる
恋愛
平凡で地味な暮らしをしている介護福祉士の鈴木美紅(20歳)は休日外出先で西洋風異世界へ転移した。 フィッティングルームから転移してしまったため、裸足だった美紅は、街中で親切そうなおばあさんに助けられる。しかしおばあさんの家でおじいさんに襲われそうになり、おばあさんに騙され王宮に売られてしまった。 王宮では乱暴な感じの宰相とゲスな王様にドン引き。 王妃様も優しそうなことを言っているが信用できない。 そんな中、奴隷同様な扱いで、誰もやりたがらない醜い第1王子の世話係をさせられる羽目に。 そして王宮の離れに連れて来られた。 そこにはコテージのような可愛らしい建物と専用の庭があり、美しい王子様がいた。 私はその専用スペースから出てはいけないと言われたが、元々仕事以外は引きこもりだったので、ゲスな人たちばかりの外よりここが断然良い! そうして醜い王子と異世界からきた乙女の楽しい引きこもりライフが始まった。 ふたりのタイプが違う引きこもりが、一緒に暮らして傷を癒し、外に出て行く話にするつもりです。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

穏やかな日々の中で。

らむ音
恋愛
異世界転移した先で愛を見つけていく話。

娼館から出てきた男に一目惚れしたので、一晩だけ娼婦になる。

sorato
恋愛
ある日、ミーナは鮮烈な一目惚れを経験した。 娼館から出てきたその男に抱いてもらうため、ミーナは娼館に駆け込み1日だけ働けないか娼館の店主へと交渉する。ミーナがその男に娼婦としてつくことになったのは、「仮面デー」と呼ばれるお互い素顔を隠して過ごす特殊な日で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 主人公のミーナは異世界転生していますが、美醜観だけ影響する程度でありそれ以外の大きな転生要素はありません。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 見なくても全く影響はありませんが、「気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。」と同じ世界観のお話です。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

私、この人タイプです!!

key
恋愛
美醜逆転物です。 狼獣人ラナン×自分の容姿に自信のない子キィラ 完結しました。感想やリクエスト、誤字脱字の指摘お待ちしています。 ここのページまでたどり着いてくださりありがとうございます。読んで頂けたら嬉しいです!

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

処理中です...