11 / 27
11かぼ!折り紙あそび
しおりを挟む
「名ばかり、今日も来たのか」
「うん。そろそろ休憩でしょ?遊びに来た」
「暇なら僕を大人に戻す方法でも考えてくれ」
「可愛いから戻らなくてもいいんじゃない?」
本音を言うと苦虫を潰したような顔でブツブツ小言を言い始めた。
でも執務室に来た事自体は怒らない。何気に優しいんだよね。
「仕事の手伝いでもしようか?書類整理は得意だよ」
「結構だ。そこまで困っていない。それに名ばかりには他に役目があるだろう」
そう簡単に大人に戻る方法を考えろと言われても……そういえばこの前、ランが「舌も子供に戻ったのか幼い頃苦手だったピーマンを避けるようになったんですよ」って言ってたな。
せっせとピーマンを避けるかぼパン、可愛い!これはからかうしかないでしょ!
「私達の世界で大人になると言えばピーマンを美味しく食べられるようになる事なんだけど」
「それは身体が大人に戻るわけじゃないだろう?却下だ」
フンッと跳ね除けたかぼパン。散々ピーマンの事を言われているのか慣れた返しだ。
「子供舌に戻ってるんだってね」
「それが何か?」
「もうご飯はミルクにしたら?哺乳瓶に入れて……ふぁぁ!想像しただけで奇跡の様に可愛い!」
「するかぁぁあ!まったく名ばかりは……」
「そう言いつつ、かぼパンって何気に優しいよね」
「何だ急に!僕を褒めるなんて恐怖だ」
私達のやり取りを見て、ランを筆頭に家臣全員が微笑むのが最近の執務室の風景。
年配家臣達の、孫でも見ているかの様な瞳。
もし大人に戻るのが無理なら、せめて心健やかに育っていただきたい。
私はそっとカバンから折り紙を取り出す。
召喚されたあの日、千羽鶴を作るために会社で渡され、たまたまカバンに入っていた折り紙。これも私が聖女だからゆえ、この世界で子育てをする事になる事を見越し……
「折り紙教えてあげる!」
「折り紙?」
教えるとは言ったものの、母は私が幼い頃に家を出て行き、男家族の中で育った為折り紙はあまりやった事がない。
だから折り紙に入っていた鶴の折り方を見ながら教えたんだけど……
「ははっ!名ばかりは下手だなぁ」
「ははは……認めるわ」
「みろ、僕の鶴を!」
細部に渡ってきっちり折られたかぼパンの折り鶴は、私のしなびた鶴とは大違い。一言で言うと、ご立派。
「初めてで師匠を超えるとは……」
「誰が師匠だ。下手くそな師匠なぞいらん」
毒付くかぼパンも可愛いのは何でなの。
ご立派な鶴に家臣たちも口々に褒め言葉を口にする。ランも「本当にお上手ですね」と微笑んでいる。
皆に褒められますます気を良くしたかぼパンはマシューを呼び、コソコソと耳打した。
マシューが鶴に向かいボソボソ呪文を唱えると、もくもくと魔力の霧が包みボンと音を立て折り鶴が大きくなった。
ちょうどかぼパンが乗れるくらいの大きさである。
まさかこれは……
私とランは目を合わせ頷く。ランがすぐに他の家臣——愛でる会のメンバーに指示を出し、にわかに慌ただしくなる。
慌てる私達をよそにかぼパンは嬉しそうに折り鶴に乗った。
表現出来ないこの可愛さ。ああっ、尊い!
「マシュー、頼むぞ」
「お任せください!」
マシューの指先から出た魔力が折り鶴に吸い込まれ浮き上がる。
満面の笑みを見せるかぼパンは最上級に可愛い。見守る皆も超笑顔。
あまりの可愛さに悶え死にしそう。折り鶴に魔法を掛けて飛ぶなんて、発想まで可愛すぎるのよ!
「マシュー、もっと上だ!皆より高くしてくれ!」
「はいー」
勢いよく私達の頭上まで浮かび上がった鶴は、くるくると旋回する。
「はっはー!これはいいな!毎日これで移動するか」
「申し訳ございません、かなり魔力を消費しますので、続けて5分が限界です」
「わかっている、冗談だ!」
かぼパンが冗談を言ってしまうほど楽しんでいる。この尊い瞬間を我々愛でる会が放っておくわけがない。
手配したカメラマンがやって来て脚立に立つとシャッターを連写。いいぞ、もっとやれ!
「そこ!何故写真を撮っているんだっ!」
カメラマンに気付き気を取られた瞬間、バランスを崩し、かぼパンの身体は鶴から落下。
私は全力で飛び上がり、かぼパンをしっかりキャッチ。ぎゅっと抱き抱え守りながら壁にぶつかった。
ドンと音を立て衝撃を受ける身体。
「おい、大丈夫か名ばかり!ラン、医者を呼べ!」
腕の中から聞こえてくる心配そうな声。
「大丈夫、ちゃんと受け身取ったから医者はいらないよ」
「受け身?」
「そんな事よりかぼパンは大丈夫?怪我はない?」
「僕は大丈夫だ。助けてくれてありがたいがマシューがいるんだから無茶をするな」
「そんな事言われても黙って見てるなんてできないよ。かぼパンに何かあったらどうするの?大事な身体なんだよ」
「名ばかり……」
頬を染め、感動したように瞳を潤ませたかぼパンをしっかり見つめて微笑んだ。
「子供は大人が守らないとね」
「そーだよ、名ばかりはそう言う奴だ!」
「そんな事言って良いのかな?今自分がどこにいるか分かってる?」
私の腕の一言で冷静になったのか一気に顔が赤く染まる。
「うわぁぁあ!おろせぇぇぇ」
「下ろすわけないよねー」
「くそおぉぉ」
真っ赤な顔で悔しがる可愛さがたまらないっ!
この可愛さ、このままでいてほしいと思ってしまうけど、いつかは必ず大人に戻ると思う。後継が欲しかったお祖母様だもん。
後継を作ろうとしたり、結婚が決まったら大人に戻ったりするんじゃなかろうか?と思っている。
古来よりお伽話などでキスをしたら本当の姿に戻る物語は数多く存在するし。
だから今、思う存分可愛がっておこう。
「うん。そろそろ休憩でしょ?遊びに来た」
「暇なら僕を大人に戻す方法でも考えてくれ」
「可愛いから戻らなくてもいいんじゃない?」
本音を言うと苦虫を潰したような顔でブツブツ小言を言い始めた。
でも執務室に来た事自体は怒らない。何気に優しいんだよね。
「仕事の手伝いでもしようか?書類整理は得意だよ」
「結構だ。そこまで困っていない。それに名ばかりには他に役目があるだろう」
そう簡単に大人に戻る方法を考えろと言われても……そういえばこの前、ランが「舌も子供に戻ったのか幼い頃苦手だったピーマンを避けるようになったんですよ」って言ってたな。
せっせとピーマンを避けるかぼパン、可愛い!これはからかうしかないでしょ!
「私達の世界で大人になると言えばピーマンを美味しく食べられるようになる事なんだけど」
「それは身体が大人に戻るわけじゃないだろう?却下だ」
フンッと跳ね除けたかぼパン。散々ピーマンの事を言われているのか慣れた返しだ。
「子供舌に戻ってるんだってね」
「それが何か?」
「もうご飯はミルクにしたら?哺乳瓶に入れて……ふぁぁ!想像しただけで奇跡の様に可愛い!」
「するかぁぁあ!まったく名ばかりは……」
「そう言いつつ、かぼパンって何気に優しいよね」
「何だ急に!僕を褒めるなんて恐怖だ」
私達のやり取りを見て、ランを筆頭に家臣全員が微笑むのが最近の執務室の風景。
年配家臣達の、孫でも見ているかの様な瞳。
もし大人に戻るのが無理なら、せめて心健やかに育っていただきたい。
私はそっとカバンから折り紙を取り出す。
召喚されたあの日、千羽鶴を作るために会社で渡され、たまたまカバンに入っていた折り紙。これも私が聖女だからゆえ、この世界で子育てをする事になる事を見越し……
「折り紙教えてあげる!」
「折り紙?」
教えるとは言ったものの、母は私が幼い頃に家を出て行き、男家族の中で育った為折り紙はあまりやった事がない。
だから折り紙に入っていた鶴の折り方を見ながら教えたんだけど……
「ははっ!名ばかりは下手だなぁ」
「ははは……認めるわ」
「みろ、僕の鶴を!」
細部に渡ってきっちり折られたかぼパンの折り鶴は、私のしなびた鶴とは大違い。一言で言うと、ご立派。
「初めてで師匠を超えるとは……」
「誰が師匠だ。下手くそな師匠なぞいらん」
毒付くかぼパンも可愛いのは何でなの。
ご立派な鶴に家臣たちも口々に褒め言葉を口にする。ランも「本当にお上手ですね」と微笑んでいる。
皆に褒められますます気を良くしたかぼパンはマシューを呼び、コソコソと耳打した。
マシューが鶴に向かいボソボソ呪文を唱えると、もくもくと魔力の霧が包みボンと音を立て折り鶴が大きくなった。
ちょうどかぼパンが乗れるくらいの大きさである。
まさかこれは……
私とランは目を合わせ頷く。ランがすぐに他の家臣——愛でる会のメンバーに指示を出し、にわかに慌ただしくなる。
慌てる私達をよそにかぼパンは嬉しそうに折り鶴に乗った。
表現出来ないこの可愛さ。ああっ、尊い!
「マシュー、頼むぞ」
「お任せください!」
マシューの指先から出た魔力が折り鶴に吸い込まれ浮き上がる。
満面の笑みを見せるかぼパンは最上級に可愛い。見守る皆も超笑顔。
あまりの可愛さに悶え死にしそう。折り鶴に魔法を掛けて飛ぶなんて、発想まで可愛すぎるのよ!
「マシュー、もっと上だ!皆より高くしてくれ!」
「はいー」
勢いよく私達の頭上まで浮かび上がった鶴は、くるくると旋回する。
「はっはー!これはいいな!毎日これで移動するか」
「申し訳ございません、かなり魔力を消費しますので、続けて5分が限界です」
「わかっている、冗談だ!」
かぼパンが冗談を言ってしまうほど楽しんでいる。この尊い瞬間を我々愛でる会が放っておくわけがない。
手配したカメラマンがやって来て脚立に立つとシャッターを連写。いいぞ、もっとやれ!
「そこ!何故写真を撮っているんだっ!」
カメラマンに気付き気を取られた瞬間、バランスを崩し、かぼパンの身体は鶴から落下。
私は全力で飛び上がり、かぼパンをしっかりキャッチ。ぎゅっと抱き抱え守りながら壁にぶつかった。
ドンと音を立て衝撃を受ける身体。
「おい、大丈夫か名ばかり!ラン、医者を呼べ!」
腕の中から聞こえてくる心配そうな声。
「大丈夫、ちゃんと受け身取ったから医者はいらないよ」
「受け身?」
「そんな事よりかぼパンは大丈夫?怪我はない?」
「僕は大丈夫だ。助けてくれてありがたいがマシューがいるんだから無茶をするな」
「そんな事言われても黙って見てるなんてできないよ。かぼパンに何かあったらどうするの?大事な身体なんだよ」
「名ばかり……」
頬を染め、感動したように瞳を潤ませたかぼパンをしっかり見つめて微笑んだ。
「子供は大人が守らないとね」
「そーだよ、名ばかりはそう言う奴だ!」
「そんな事言って良いのかな?今自分がどこにいるか分かってる?」
私の腕の一言で冷静になったのか一気に顔が赤く染まる。
「うわぁぁあ!おろせぇぇぇ」
「下ろすわけないよねー」
「くそおぉぉ」
真っ赤な顔で悔しがる可愛さがたまらないっ!
この可愛さ、このままでいてほしいと思ってしまうけど、いつかは必ず大人に戻ると思う。後継が欲しかったお祖母様だもん。
後継を作ろうとしたり、結婚が決まったら大人に戻ったりするんじゃなかろうか?と思っている。
古来よりお伽話などでキスをしたら本当の姿に戻る物語は数多く存在するし。
だから今、思う存分可愛がっておこう。
21
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完
瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。
夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。
*五話でさくっと読めます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから
甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。
であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。
だが、
「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」
婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。
そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。
気がつけば、セリアは全てを失っていた。
今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。
さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。
失意のどん底に陥ることになる。
ただ、そんな時だった。
セリアの目の前に、かつての親友が現れた。
大国シュリナの雄。
ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。
彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない
たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。
何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる