流れ星に願う

るいさいと

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呆れ

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「んぅ……」
呻き声のような吐息を漏らしながら、茉子は意識を取り戻した。
開けた明るい視界には、自分の顔を覗き込む浩輔の顔があった。
「んん、あれぇ~?アタシいつから寝てたっけ…?」
そんな言葉を呟くと、浩輔がフリップを取り出した。
「はい、突然ですがここで問題でーす。あなたが寝たのは一体いつからでしょーかー?」
口調こそ間延びして倦怠感のある声ではあるものの、纏う雰囲気は紛れもなく怒りと呆れによるものだった。
そんな推察をよそに、浩輔は言葉を続けた。
「①昨日の夜から。②毒リンゴを食べてから。③30分前から。」
選択肢を出しながら、フリップに貼られたシールを次々に剥がしていく。
そして、最後の一枚。
「④作戦直前にあれ程気を抜くなと言ったにも関わらずアホみたいにスマホをいじって話も聞かずに注意力散漫な状態で相手に不用意に近づきまんまと相手の霊能力に引っかかり馬鹿丸出しの面で眠りこけてるところを───────」
「④です。覚えてないけど絶対④です。」
気迫が、違った。
「人が話してんだから最後まで聞けよ」
「えぇーー………」
ちょっと理不尽なことを言われた。
だが、この雰囲気から察するに、意識を失った茉子を救ったのは浩輔達であることは明白だろう。
「ごめん。アタシ、気絶しちゃって……」
「いや…」
「え…?」
「気絶じゃなくて睡眠だ。随分ゆっくりとお休みになられたようで。」
「…すみませぇえん……」
もう泣きたくなるほど嫌味と侮蔑をくらい、心はボロボロになってしまっていた。
「眠る結果になったのは柊の所為だが、眠らせるのが斉藤の霊能力だ。致し方ないとも言えるな」
「そう…なの?」
「まあ、あくまで推測の範疇を出ないけどな」
今回の標的である斎藤祐樹と目を合わせた時、茉子は眠りについた。
斎藤祐樹が霊に憑依されてから、茉子が眠るまでに行われた動作は特になく、恐らく視線が交わることが霊能力の発動条件である。
そして。
「斉藤の憑依が解けたときに、柊の眠りが解けた。斉藤の霊能力で、柊の眠りは固定されてたと考えるのが妥当だろ」
「そうね…。ん?ってことは……」
「ああ。今、中島と賀茂が"事情を聞いてる"」
茉子の疑問に、何かを濁したような表現で浩輔が返した。
「そっか…。あの二人なら安心ね」
「なんだ?俺じゃあ不満なのかよ?」
「だってアンタのは"事情聴取"じゃなくて"拷問"でしょっ!?」
そう、浩輔以外であれば、タダの質疑応答に過ぎないのだが、彼の場合は違う。
暴力的な行為や拷問などで以て、聞き出したい回答を得ようとすることが多々あるのだ。
「この前だって、標的に目隠しと耳栓して、パンツ一枚でゴムパッチンしてたでしょ!」
「誰でもいいからゴムパッチンしたかった。むしゃくしゃしてたからやった」
茉子の質問に、浩輔が意味不明な供述で返す。
「じゃあその前の、目隠しと耳栓させたままおでこに水垂らし続けてたのは…?」
「アレは、ウォーターボーディングっていう拷……質問方法だ」
「今拷問って言いかけたよね!?てか、もうほぼ言ったよね!?質問が既に拷問に変わってるよねソレ!?」
危うく漏れかけた真実を、茉子は聞き逃さなかった。
まあとにかく。と、浩輔が話を変える。
「斎藤は無事確保、柊も無事。今回は運が良かったからこんな平和な結果だったが、2度同じことはないぞ」
「うん……。ごめん…。」
俯き加減で申し訳なさそうに言葉を吐く茉子に、浩輔は言った。
「それは中島と賀茂に言え。それに言うだけなら誰にでもできる。結果で示せ」
「そうね…!次こそアタシ一人で片付けちゃうんだから!」
その目は自信とやる気に満ち満ちたものだったが、その顔に既視感がある浩輔は、「次も同じだろう」と小さく溜息をついた。
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