流れ星に願う

るいさいと

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霊能力

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「さて、それじゃあ今回の標的について話す」
そう言って浩輔は、テーブルを囲う三つの顔を見た。
柊茉子、中島義央、そして賀茂優愛だ。
「今回の標的は、斎藤祐樹 26歳、職業ミュージシャン。バンド『Angel's Breath』のベースを担当、芸名は『YUKI』、血液型はB型のRh+、身長171cm、体重67kg」
先刻の情報を今一度三人に開示する。
しかしなぜ、4人がここまでこの男について嗅ぎまわるのか。
それは、四人の特殊な素性と大きく関係がある。
「この人、何か悪いことしたの?」
優愛が小首を傾げながら問いかけた。
「今手に入っている情報では、この男と接触した者の中に何名か、突然意識を失った者がいる」
「そっか…。じゃあそれが…」
「ああ。恐らくは、この男の霊能力だ」
そう、霊能力。ここにいる四人は、霊能力という特殊な能力を有している。
しかしそれは、個人に発現するものではない。
「この男は、毎週水曜日にこのライブハウスの正面から出てくる」
「そこを叩くんだね」
察しの良い義央が、浩輔が今正しく言わんとしたことを言葉にする。
「その通りだ。配置については、俺が西側、柊は北・ハウスの正面、義央が東側、優愛がハウスの裏側、つまり南側だ」
そう言いながら、浩輔が机上に置かれた一枚の図面を指さす。
東西に長い一本の直線的な道路と、その道路の南側に位置する小さなライブハウス。
陣形配置を考えれば、最も効率的であると言える。どの方角へ逃げようと二名以上での対応が可能であるからだ。
「ってことは、アタシ責任重大じゃん」
「ああ。失敗は許されないからな」
「だって~。頑張ろうね、”司”」
浩輔の言葉に、茉子はそう返した。
しかしその返事は、浩輔に対してではない。
自身の右隣、虚空を見つめながら、そう言ったのだ。
しかし、その虚空から、返答があった。
「いっつも足引っ張んのは姉貴だろ。」
虚空からのその言葉と共に、茉子の右隣の空間がぼんやりと歪む。
かと思うと、その歪みはゆっくりと人の形を形成し、少年の姿に成った。
十歳位の容姿をした少年。暗い茶髪と、眠たげな黒い眼。
突如として虚空から出現した少年の姿を見ても、その場にいる者は皆、当然のようにその光景を眺めていた。
それも当然だろう。
誰も、「自分と同じ特徴の人間」には驚かない。
彼は、透明になる超能力を持っている訳でもなければ、ホログラムを空間に投影している訳でもない。
彼の名前は「柊司ひいらぎつかさ」。
茉子の実の弟であり─────────────────────六年前に死んでいる。
一般に霊能力とは念能力や念写、口寄せなどと捉えられがちだが、実際は大きく異なる。
霊能力とは「死者が生者に憑依した時、常識の範疇を大きく逸脱した現象を起こす」というもの。
柊茉子だけではなく、この場にいる全員に霊能力がある。
「んも~!そんなことないし!」
そんな弟の姿を見ても尚、茉子は他愛のない会話を続けた。
それに釣られるように各々が自身に憑依する霊と会話を繰り広げた。
「じゃあ、僕たちも頑張ろうか」
「任せなさい!メグは何でもできるんだから!」
義央は七歳位の容姿をした少女と。
「ママ、お願い…」
「あらあら。大丈夫よ、優愛ならできるわ」
優愛は二十代後半の女性と。
そして、浩輔は。
「頼んだぞ、京香」
「ええ!やっちゃうわよ!」
小学生くらいの少女と。
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