流れ星に願う

るいさいと

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日常

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「くぁ~~」
長い欠伸をしながらその長さに比例して、身体を大きく伸ばす。
椅子の背もたれから大きくはみ出た後頭部。そこから長い金色の髪が垂れる。
彼女の名前は「柊茉子ひいらぎまこ」。
ピンク色のシュシュでサイドアップでまとめられた毛髪が、夕焼けのオレンジ色と混じって美しく煌めく。
そして、本人はそれを自覚することなく、自ら生んだ美しい風景を、椅子から立ち上がるという簡単な動作の中で、簡単に崩してしまうのだった。
「帰ろっか~」
小さなぬいぐるみやストラップが大量につけられたスクールバッグを持ち上げ、その大きな黒い瞳を、教室の隅で一人黙々と課題の処理に集中する少年に向けた。
「ああ、そろそろアイツらも来る頃だろうしな」
自身の手元から視線を上げることなく、少年が返答を行う。
薄い紫色の髪と、茶色の虹彩をした少年。
このぶっきらぼうな返事をした少年が「月野浩輔つきのこうすけ」。
「んも~!言ってることとやってることがあってないじゃんっ!」
茉子が怒った様に頬を膨らませながら浩輔に訴えた。
「はいはい」
簡単で適当な返事をした浩輔は、机上に広がった筆記用具と参考書を簡単に片づけ、スクールバッグへと詰めた。
今は放課後、オレンジ色の校庭の上で、少年少女がスポーツに汗を流し、青春を謳歌する時間帯。
その光景を廊下から眺める茉子と、英単語帳を見ながら歩く浩輔。
「本読みながら歩くと危ないよ!一宮金太郎じゃないんだから!」
「二宮金次郎だ。恥ずかしいから喋んな」
「そんなに言うことないじゃん!」
他愛ない会話を繰り広げながら、校門をくぐり、二人で同じ道をたどる。
茉子と浩輔は、兄妹でもなければ、恋人でもない。
だが、遺伝子よりも稀な共通点が二人にはあった。

十分ほど歩いた頃だろうか、二人は一軒の家の前にたどり着いた。
玄関扉を開けた茉子が、帰宅を示す声を上げた。
「やっほ~!ただいま~!」
「茉子お姉ちゃん、浩輔お兄ちゃん、おかえり」
丁寧な出迎えをしてくれたのは、濃い紫色の髪をした少女。
名前は「賀茂優愛かもゆめ」。
地元の小学校に通う四年生である。
その二つの大きな赤い目が、キラキラと輝いている。
「ああ、ただいま」
その少女に、浩輔も簡単に挨拶を返す。
そのまま歩いて居間に入る。
そこではエプロン姿でキッチンに立つ、薄い茶髪の少年がいた。
「ああ、浩輔さん、茉子さん。おかえり」
優しい笑顔でそう返す少年からは、高い身長と似合わぬ、圧倒的な人当たりの良さを感じる。
彼の名前は「中島義央なかじまよしひさ」。
浩輔と茉子と一つ下の学年で、地元の中学校に通う15歳である。
「義央、今日の夕飯は?」
浩輔は、制服のブレザーを脱ぎながら義央に尋ねた。
「その前にただいまとありがとうでしょ!あとごめんなさいも!」
それを聞いていた茉子が浩輔にツッコミを入れる。
「あはは、大丈夫だよ。気にしてないから。あと、今日はロールキャベツだよ」
義央はその器量で許容するも、茉子はどこか気に入らない様子だった。

それから2,3時間ほど経って。
キッチンでは、食器を洗う義央と茉子の姿があった。
「夕飯すごく美味しかったよ~!今度アタシにも作り方教えてよ!」
「あはは、ありがとう。簡単だから、茉子さんなら僕よりずっと上手くできるよ」
「ホントに!?じゃあ、楽しみにしてる」
そんな会話をしていると、浩輔が会話に入る。
「それ、終わったら、作戦会議・・・・するぞ」
「じゃあ手伝いなさいよ!」
その浩輔の発言に茉子が怒りを露わにする。
隣の義央がまあまあと宥めるが、あまり効果はなさそうだった。
それより、と、義央が話を変えた。
「次の標的は、どんな人なの?」
「26歳独身。職業ミュージシャン。バンド『Angel's Breath』のベース担当、芸名『YUKI』本名『斎藤祐樹』血液型B型のRh+、身長171cm、体重67kg───────」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
あまりにもつらつらと並べられる情報に、待ったをかけたのは茉子だった。
「ん、なんだ?」
手元の髪から目線を上げ、茉子を見ながら不思議そうに浩輔が小首を傾げた。
「アンタそれ、どこで調べたの?」
「どこでって。そりゃ、『盗聴』と『盗撮』に決まってんだろ」
「犯ッ罪でしょーがっ!」
平然とした調子で返された浩輔の返事に、茉子は思わず平皿を投げた。
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