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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その14 カップ麺
しおりを挟む「どもー」
昼休み。部室の扉を開けるとそこには―――――
「よぉ。ケン後輩」
路世先輩が居座っていたのだ。最近、鍵は教室よりも部室でお昼を取る事が多くなっていた。部室に行けば、誰か一人は部室で昼食を取っている者がいるからだ。
望子先輩やちぃが大抵はそこにいるハズなのに、今日に限っては路世先輩がテーブルの前に座っていた。
珍しいな、と思いながらずかずかと部室に入っていくと、ん――――とふと、気づいた事が一つ。
路世先輩の目の前にコンビニの袋があった。大抵ならば、弁当箱の包まれた風呂敷があるハズなのに、今回だけはコンビニの袋なのだ。
「路世先輩、今日はお弁当じゃないんですか?」
疑問に思い、路世先輩に尋ねてみる。
「あぁ。今日は弁当を準備する時間がなくてね。コンビニで弁当を買っていこうと思ったのだが……気づけばこんなものを買っていたのだ」
と、先輩は袋から丸い発砲スチロールの容器のものを取り出す。カップ麺だ。お湯を注いで三分経てば出来上がるアレだ。人間誰しも食べた事はあるだろう。鍵自身も、よく夜食として食べるものだ。
「カップ麺ですか」
「あぁ、実はこういうものを食べるのは初めてでね。どう食べていいものか分からないのだ」
と、堂々とそう宣言する路世先輩に、僕は驚いてしまった。まさか、路世先輩がカップ麺を人生で一度たりとも食べた事がないとは。
「もしかして、親から止められていたとかですか?」
「あぁ。親父だって、よくジャンクフードを食べるクセに、私にだけは食べさせてくれないのだ。恐らく、その恨みがあったから、今こうして目の前にカップ麺があるのだろう」
どうやら、食べた事がないのも、自分自身で購入した記憶もないらしい。
「まぁいいでしょう。家の事情なんて、その家によって異なるんですから……。それで、食べ方はここに書いてありますよ」
鍵は作り方の書いてある部分を指差す。
「すまない、私自身説明書などは読まないタイプでな」
じゃあ、これまでどうやってゲームの操作を理解してきたのか、と問いただしたかったが、今はそれどころではない。ともかく、路世先輩にカップ麺の作り方を説明しなくてはいけない。
「まずはフタを半分まで開けます。そして、中に入っている粉末スープとかやくを入れます。その後お湯を注いで三分待てば出来上がりです」
と、路世先輩に一通り説明する。先輩は相槌を打ちながら、真剣に説明を聞いてくれた。
「なるほど、粗方は理解した。ところで、ケン後輩」
と、今度は路世先輩が僕に問いただしてくる。
「このかやくってのは、火を付ければ爆発するんじゃないのか? そんなものをこのカップ麺には入れるのか?」
「その火薬じゃありませんよ!」
流石の僕も、ツッコまずにはいられなかった。
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