どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

文字の大きさ
上 下
16 / 142
第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その16 ボランティア

しおりを挟む

「まったく……どうして僕が」

 ぶつぶつと独り言のように呟きながら、中庭を通過していく。まさか、こんな事になるとは思ってもみらず、僕はただ、海よりも深いため息を吐くばかりだった。
 僕の向かう先は、食堂の前に設置されている自動販売機だった。そして僕の制服のポケットには小銭がチャリン、と音を立てている。
 まさか買出しをじゃんけんで決めることになり、僕が負けてしまうとは……。

「というか、あの自販機にメロンソーダなんてあったかなぁ……?」

 望子先輩のオーダーであるメロンソーダがあったか回想しながら自販機の方へと向かっていくと、そこには紗琉がいた。

「……あれ? 紗琉じゃん。何してるのさ?」
「あら、鍵。見て分からないの? 自販機のゴミの分別よ。ペットボトルとパックの分別をしてるの」

 と、紗琉はゴミ袋の中からパックとペットボトルを分けながら、こちらを振り返らずにそう説明してきた。
 大体ならば、その仕事は他の委員会がやるべきのハズだが……これも生徒会の仕事なのだろうか?

「違うわよ。これは単にボランティアよ」
「ボランティアって……別に生徒会の仕事じゃないなら、紗琉がやる必要ないだろ」
「別にいいじゃないの。もうゴミはいっぱいになってたんだし、このまま放っておいても誰かが迷惑するだけよ? だったら、もう私がやっておくべきでしょ」

 と、紗琉は黙々と分別作業をし始めた。………何だか、その姿を見ながら僕は、紗琉の事を放っておくことができなかった。
 僕は紗琉の方に寄ると、ゴミ袋からパックのゴミを別の袋に入れていく。

「け、鍵!? どうして貴方が?」
「別にいいだろ。これは僕がやりたいからやるだけさ」

 と、僕も黙々と作業をし始める。何だか一人で黙々と作業していく紗琉を見ていたら、紗琉の事を放っておくことができなくなっていた。
 そのまま二人で黙々と作業していくこと数分。分別作業は終わり、そのまま分別したゴミを焼却炉へと運んでいくのだった。

「鍵」
「なんだい?」
「その……ありがとね。貴方が手伝わなかったら、こんなに早く終わってなかったわ」

 と、紗琉は頬を赤く染めながらそう呟いた。……何だかそう言われると照れくさいが、僕は別に紗琉のためにやってたワケじゃない。頬を掻きながら、僕は少しかこつけたようにこう返した。

「別に僕は紗琉に感謝されるようなことはしてないよ。僕は僕の意思でやっただけなんだからさ」

 なんていいながら、僕はもう一度自販機へと戻り、先輩たちのジュースを買って部室へと帰るのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

神様自学

天ノ谷 霙
青春
ここは霜月神社。そこの神様からとある役職を授かる夕音(ゆうね)。 それは恋心を感じることができる、不思議な力を使う役職だった。 自分の恋心を中心に様々な人の心の変化、思春期特有の感情が溢れていく。 果たして、神様の裏側にある悲しい過去とは。 人の恋心は、どうなるのだろうか。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

優等生の美少女に弱みを握られた最恐ヤンキーが生徒会にカチコミ決めるんでそこんとこ夜露死苦ぅ!!

M・K
青春
久我山颯空。十六歳。  市販の安いブリーチで染め上げた片側ツーブロックの髪型。これ見よがしに耳につけられた銀のピアス。腰まで下ろしたズボン、踵が潰れた上履き。誰もが認めるヤンキー男。  学力は下の下。喧嘩の強さは上の上。目つきも態度も立ち振る舞いまでもが悪い彼が通うのは、言わずと知れた名門・清新学園高等学校。  品行方正、博学卓識な者達ばかりが集まる学校には似つかわしくない存在。それは自他ともに持っている共通認識だった。  ならば、彼はなぜこの学校を選んだのか? それには理由……いや、秘密があった。  渚美琴。十六歳。  颯空と同じ清新学園に通い、クラスまでもが一緒の少女。ただ、その在り方は真逆のものだった。  成績はトップクラス。超が付くほどの美少女。その上、生徒会にまで所属しているという絵にかいたような優等生。  彼女の目標は清新学園の生徒会長になる事。そのため"取り締まり"という名の点数稼ぎに日々勤しんでいた。  交わる事などありえなかった陰と陽の二人。  ひょんな事から、美琴が颯空の秘密を知ってしまった時、物語が動き出す。

あの音になりたい! 北浜高校吹奏楽部へようこそ!

コウ
青春
またダメ金か、、。 中学で吹奏楽部に挫折した雨宮洸。 もうこれっきりにしようと進学した先は北浜高校。 [絶対に入らない]そう心に誓ったのに そんな時、屋上から音が聞こえてくる。 吹奏楽部で青春and恋愛ドタバタストーリー。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

ゆめまち日記

三ツ木 紘
青春
人それぞれ隠したいこと、知られたくないことがある。 一般的にそれを――秘密という―― ごく普通の一般高校生・時枝翔は少し変わった秘密を持つ彼女らと出会う。 二つの名前に縛られる者。 過去に後悔した者 とある噂の真相を待ち続ける者。 秘密がゆえに苦労しながらも高校生活を楽しむ彼ら彼女らの青春ストーリー。 『日記』シリーズ第一作!

処理中です...