12 / 142
第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その12 占い
しおりを挟む「ねぇ、すっごく面白い話していいかなー?」
唐突にそう切り出す望子先輩。僕とちぃは相変わらず本を読みながら、路世先輩はいつものようにパソコンの画面とにらめっこしていた。
「なんですかー?」
「さっきね、ガム開けたら当たったの!」
と、先輩は誇らしげに十円ガムの当たりを僕に見せてくる。その容姿がまるで、子どもみたいで僕はついつい先輩の頭を撫でそうになっていた。
「すごいですねー。で、何が面白いんですか?」
伸びた手を引っ込めながら、僕はそう返す。先輩が面白い話をするといいながら、たかがガムの当たりだけで笑いが取れるとは思ってないだろう。
「なにが面白いって、今日のテレビの占いで私一位だったんだよー。これって占いのせいかなーって思ってさ」
と、先輩はにこり、と満足そうな笑顔を見せた。つまり、先輩はこのガムの当たりは、今日の自分の運勢のおかげと言いたいのだろう。
正直、僕は占いなんてそんなに興味はないし、たかだか十円ガムの当たりで喜べるような人間ではない。そのため、こんな小さなことでも喜べる先輩がとても子どもっぽくていいな、と少しばかり思ってしまった。
「そうですね。先輩は今日はきっとツイてるんですよー」
なんて言いながら、僕は先輩の満足そうな笑顔に対抗するかのように笑顔を見せる。
「だよねー。今日なんて、食堂のおばちゃんから、コロッケ一つおまけしてもらったり、自動販売機で当たりが出て、もう一本ジュースが買えたりしたから」
「凄いじゃないですか。今日、何気に運いいですねー」
確かに。食堂のおばちゃんがおまけしてくれることなんて滅多にないし、学校の自動販売機で当たりが出るなんて三年に一度くらいだと噂されるほどの確率を、先輩は今日、どちらも起こしているのだ。それは運がいいとしか言い様がない状態だった。
「それは凄いですね……。今日の望子さんはラッキーマン改め、ラッキーウーマンといったところでしょうか」
「でしょでしょー。もっと褒めてもいいんだよー」
と、自分の今日の運勢を自慢するかのように胸を張る先輩に、僕とちぃは驚きを隠しきれなかった。こんな幸運な人が今、身近にいるという現実を受け入れきれないことと、先輩の強運の凄まじさで僕とちぃはただただ、言葉を失っていた。
「ケン後輩、ちょっと」
と、ここで初めて路世先輩が口を開く。何やら僕に話があるようで、僕は先輩の近くまで寄ると、路世先輩は小言でこう言い出した。
「望子は昨日だって、食堂のおばちゃんにおまけしてもらってたし、自販機のジュースの当たりだって、それ俺がお釣り取り出すの忘れたからなんだぜ?」
なるほど。幸せとは、時に残酷なんだなとしみじみ思う僕なのだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
CROWNの絆
須藤慎弥
青春
【注意】
※ 当作はBLジャンルの既存作『必然ラヴァーズ』、『狂愛サイリューム』のスピンオフ作となります
※ 今作に限ってはBL要素ではなく、過去の回想や仲間の絆をメインに描いているためジャンルタグを「青春」にしております
※ 狂愛サイリュームのはじまりにあります、聖南の副総長時代のエピソードを読了してからの閲覧を強くオススメいたします
※ 女性が出てきますのでアレルギーをお持ちの方はご注意を
※ 別サイトにて会員限定で連載していたものを少しだけ加筆修正し、2年温めたのでついに公開です
以上、ご理解くださいませ。
〜あらすじとは言えないもの〜
今作は、唐突に思い立って「書きたい!!」となったCROWNの過去編(アキラバージョン)となります。
全編アキラの一人称でお届けします。
必然ラヴァーズ、狂愛サイリュームを読んでくださった読者さまはお分かりかと思いますが、激レアです。
三人はCROWN結成前からの顔見知りではありましたが、特別仲が良かったわけではありません。
会えば話す程度でした。
そこから様々な事があって三人は少しずつ絆を深めていき、現在に至ります。
今回はそのうちの一つ、三人の絆がより強くなったエピソードをアキラ視点で書いてみました。
以前読んでくださった方も、初見の方も、楽しんでいただけますように*(๑¯人¯)✧*
【短編】怖い話のけいじばん【体験談】
松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。
スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。


極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした
恋狸
青春
特殊な家系にある俺、こと狭山渚《さやまなぎさ》はある日、黒服の男に恐喝されていた白海花《しらみはな》を助ける。
しかし、白海は学園三大姫と呼ばれる有名美少女だった!?
さらには他の学園三大姫とも仲良くなり……?
主人公とヒロイン達が織り成すラブコメディ!
小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
カクヨムにて、月間3位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる