2 / 142
プロローグ ~で、結局何が始まるんですか?~
その2 太鼓の鉄人
しおりを挟む太鼓の鉄人。それは僕らの部活動にて、他の人と競技するために使われるゲーム筐体だ。
誰もが皆、一度は目にしたコトのある、アーケード台に太鼓を模した入力デバイスがあり、それをバチで叩いて行くゲームだ。
普通は片方どちらかの太鼓を使ってプレイするのだが、二つの太鼓と四本のバチを使う事で二人プレイも可能になる。
協力プレイは勿論のこと、二人でスコアを競う対戦プレイもできるのだ。
その対戦プレイを用いるコトにより、太鼓の鉄人の公式大会。通称、「どん・だー」が各地で開催されているのだ。
僕らはその予選に勝ち抜き、優勝するコトが目標で、今日も部員のみんなとともに太鼓を叩いている。
「先輩、太鼓使いますよー」
「あ、いいよー」
珍しく僕が太鼓を叩くと先輩に報告する。先輩は部室のソファーに横になったまま、親指と人差し指で小さな輪っかを作った。
ここ近くに大会もなく、部活は完全にオフシーズン。みんなそれぞれ好きな活動をしている。路世先輩は、部室のパソコンでゲーム、ちぃは読書、一夜と紗琉は生徒会の活動でいなかった。
「先輩、私でよければ相手になりましょうか?」
本をぱたん、と閉じながら、ちぃが声をかけてきた。どうせこのまま誰も相手してくれないだろうと悟った僕は、
「じゃ、お願いしようかな」
と、言葉を返した。
部室の太鼓は、望子先輩が一年生の頃からあったらしく、誰がここへ持ってきたのかは不明である。部に入って最初に驚いたのは、筐体が部室の中、それも学校にあるコトだったのは今でも覚えている。
財布から百円硬貨を取り出し、筐体に入れる。効果音とともに音楽が流れ、画面に指示が出る。慣れた手つきで指示に従い、曲選択画面まで来る。
「曲はこっちが選んじゃっていいかな?」
「はい、大丈夫ですよ」
僕は適当に太鼓のフチを叩きながら曲を選ぶ。ちぃが相手になってくれているのだから、ちぃも知っている曲でなくては勝負にならない。
そう思い、結局選んだのはこの前の練習試合で使用した曲だった。ちぃに「これでいい?」と聞いたところ、ちぃも了承してくれた。
ドン、と太鼓を叩き、難易度を選ぶ。ここは当然の如く、むずかしいだ。実際の試合でもむずかしいでプレイしたため、僕もちぃも譜面は粗方覚えていた。
ちぃとともに、リズムよくバチを振るっていく。練習試合でやったとはいえ、流石に一ヶ月も経てば譜面も腕も少し落ちていた。それでも何とかコンボを繋げ、ミスをなるべく抑えていく。
すべての譜が流れ、スコアが表示される。コンボはちぃの方が上だったが、スコアに関してはちょっとの差で僕が勝っていた。
「やっぱり先輩は強いですね。ミスも少なくて、絶妙のタイミングで叩けててスゴイです」
「いやいや、タイミングってたまたまだよ。それよりも、ちぃのコンボの多さの方が凄いよ。三連譜の連続なんて、よく叩けるもんだよ」
ちぃは僕にはできない三連譜の連続譜面を自在に叩くコトができる。それがちぃの一番の強みだ。そのおかげで、練習試合も勝てたようなものだ。
「どうだったのー? わぁ、ちぃちゃん凄いコンボ……。流石、この前の練習試合のMVPね」
様子を見に来た望子先輩も、ちぃのコンボ数を見て驚いていた。
「いえいえ、そんな……」
ちぃは照れくさそうにしていた。もう一戦と思い、僕は硬貨を入れようとする。すると先輩は信じられないコトを言った。
「鍵くん、何でわざわざ硬貨入れてるの? その筐体、太鼓を一回叩けば硬貨なしでプレイできるよ?」
「じゃ、さっきの硬貨はムダになったってコトですか!?」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

優等生の美少女に弱みを握られた最恐ヤンキーが生徒会にカチコミ決めるんでそこんとこ夜露死苦ぅ!!
M・K
青春
久我山颯空。十六歳。
市販の安いブリーチで染め上げた片側ツーブロックの髪型。これ見よがしに耳につけられた銀のピアス。腰まで下ろしたズボン、踵が潰れた上履き。誰もが認めるヤンキー男。
学力は下の下。喧嘩の強さは上の上。目つきも態度も立ち振る舞いまでもが悪い彼が通うのは、言わずと知れた名門・清新学園高等学校。
品行方正、博学卓識な者達ばかりが集まる学校には似つかわしくない存在。それは自他ともに持っている共通認識だった。
ならば、彼はなぜこの学校を選んだのか? それには理由……いや、秘密があった。
渚美琴。十六歳。
颯空と同じ清新学園に通い、クラスまでもが一緒の少女。ただ、その在り方は真逆のものだった。
成績はトップクラス。超が付くほどの美少女。その上、生徒会にまで所属しているという絵にかいたような優等生。
彼女の目標は清新学園の生徒会長になる事。そのため"取り締まり"という名の点数稼ぎに日々勤しんでいた。
交わる事などありえなかった陰と陽の二人。
ひょんな事から、美琴が颯空の秘密を知ってしまった時、物語が動き出す。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

あの音になりたい! 北浜高校吹奏楽部へようこそ!
コウ
青春
またダメ金か、、。
中学で吹奏楽部に挫折した雨宮洸。
もうこれっきりにしようと進学した先は北浜高校。
[絶対に入らない]そう心に誓ったのに
そんな時、屋上から音が聞こえてくる。
吹奏楽部で青春and恋愛ドタバタストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる