どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

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プロローグ ~で、結局何が始まるんですか?~

その2 太鼓の鉄人

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 太鼓の鉄人。それは僕らの部活動にて、他の人と競技するために使われるゲーム筐体だ。
 誰もが皆、一度は目にしたコトのある、アーケード台に太鼓を模した入力デバイスがあり、それをバチで叩いて行くゲームだ。
 普通は片方どちらかの太鼓を使ってプレイするのだが、二つの太鼓と四本のバチを使う事で二人プレイも可能になる。
 協力プレイは勿論のこと、二人でスコアを競う対戦プレイもできるのだ。
 その対戦プレイを用いるコトにより、太鼓の鉄人の公式大会。通称、「どん・だー」が各地で開催されているのだ。
 僕らはその予選に勝ち抜き、優勝するコトが目標で、今日も部員のみんなとともに太鼓を叩いている。

「先輩、太鼓使いますよー」
「あ、いいよー」

 珍しく僕が太鼓を叩くと先輩に報告する。先輩は部室のソファーに横になったまま、親指と人差し指で小さな輪っかを作った。
 ここ近くに大会もなく、部活は完全にオフシーズン。みんなそれぞれ好きな活動をしている。路世ろぜ先輩は、部室のパソコンでゲーム、ちぃは読書、一夜まや紗琉しゃるは生徒会の活動でいなかった。

「先輩、私でよければ相手になりましょうか?」

 本をぱたん、と閉じながら、ちぃが声をかけてきた。どうせこのまま誰も相手してくれないだろうと悟った僕は、

「じゃ、お願いしようかな」

 と、言葉を返した。
 部室の太鼓は、望子もこ先輩が一年生の頃からあったらしく、誰がここへ持ってきたのかは不明である。部に入って最初に驚いたのは、筐体が部室の中、それも学校にあるコトだったのは今でも覚えている。
 財布から百円硬貨を取り出し、筐体に入れる。効果音とともに音楽が流れ、画面に指示が出る。慣れた手つきで指示に従い、曲選択画面まで来る。

「曲はこっちが選んじゃっていいかな?」
「はい、大丈夫ですよ」

 僕は適当に太鼓のフチを叩きながら曲を選ぶ。ちぃが相手になってくれているのだから、ちぃも知っている曲でなくては勝負にならない。
 そう思い、結局選んだのはこの前の練習試合で使用した曲だった。ちぃに「これでいい?」と聞いたところ、ちぃも了承してくれた。
 ドン、と太鼓を叩き、難易度を選ぶ。ここは当然の如く、むずかしいだ。実際の試合でもむずかしいでプレイしたため、僕もちぃも譜面は粗方覚えていた。
 ちぃとともに、リズムよくバチを振るっていく。練習試合でやったとはいえ、流石に一ヶ月も経てば譜面も腕も少し落ちていた。それでも何とかコンボを繋げ、ミスをなるべく抑えていく。
 すべての譜が流れ、スコアが表示される。コンボはちぃの方が上だったが、スコアに関してはちょっとの差で僕が勝っていた。

「やっぱり先輩は強いですね。ミスも少なくて、絶妙のタイミングで叩けててスゴイです」
「いやいや、タイミングってたまたまだよ。それよりも、ちぃのコンボの多さの方が凄いよ。三連譜の連続なんて、よく叩けるもんだよ」

 ちぃは僕にはできない三連譜の連続譜面を自在に叩くコトができる。それがちぃの一番の強みだ。そのおかげで、練習試合も勝てたようなものだ。

「どうだったのー? わぁ、ちぃちゃん凄いコンボ……。流石、この前の練習試合のMVPね」

 様子を見に来た望子先輩も、ちぃのコンボ数を見て驚いていた。

「いえいえ、そんな……」

 ちぃは照れくさそうにしていた。もう一戦と思い、僕は硬貨を入れようとする。すると先輩は信じられないコトを言った。

「鍵くん、何でわざわざ硬貨入れてるの? その筐体、太鼓を一回叩けば硬貨なしでプレイできるよ?」
「じゃ、さっきの硬貨はムダになったってコトですか!?」
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