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プロローグ ~で、結局何が始まるんですか?~
その6 小森江一夜(こもりえ まや)
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「お茶が入りましたよー」
と、お盆に人数分の紅茶を準備しながら、一夜が部室のテーブルに寄ってくる。
読書をしていた僕とちぃは、パタンと本を閉じ、つかの間のティータイムを取ろうとしていた。
それに釣られ、部室のソファに寝そべっていた望子先輩も、身体を起こしてこちらへやってくる。
全員がテーブルを囲みながら、一夜の淹れた紅茶でくつろごうとしていた。
「今日はダージリンで淹れてみたんですよー」
目の前にティーカップを置かれ、その中に一夜特製の紅茶が注がれる。ふわり、と紅茶の香りが鼻をくすぐり、その匂いだけで心の奥底から花が咲きそうな感じがした。
と、一夜が紅茶を淹れている間、望子先輩は何やら自分の通学バックをまさぐり、何かを探していた。
「先輩、なにしてるんですか?」
「いやー、紅茶だけじゃなんか物足りないと思ってさー。家から持ってきたお菓子でも出そうかと思って」
と、通学バックから市販のクッキーを取り出した。確かに、ティータイムとはいえども、紅茶だけじゃ物足りないと思ったのだろう。
「んー……やっぱり一夜の淹れるお茶は旨いな」
と、路世先輩は一夜の淹れた紅茶に口をつけ、そう言った。確かに、毎度毎度一夜の淹れるお茶は美味しい。それはこの部にいる誰もが分かり切っている事だ。
一夜は誰かの世話をするのが好きな子だ。それは勿論、このメンバーだけでなく、他の上級生下級生にも優しい。
誰にでも分け隔てなく接することができるのが、彼女の特徴だと言えるだろう。それは彼女が生徒会副会長兼クラス委員長だからとかではない。彼女は単なる世話をするのが好きなだけだ。
それに彼女は控えめに見ても客観的に見ても、けっこう可愛い。長い黒髪をなびかせる姿はまさしく、現代風大和撫子と言えるだろう。
一夜がどれほど優しいのかを知ったのは、僕が一年生の時だっただろうか。次の授業が移動教室だというのに、まだ校内を把握できてなくて途方に暮れていた僕を救ってくれたのだ。
それだけではない。その出来事をきっかけに、僕のことを気遣ってくれているのか、はたまたまた僕が迷子にならないようにと思っているのかは分からないが、移動教室の時は一緒に行くようにしてくれているのだ。
一夜と腐れ縁である紗琉曰く、「一夜は普通の人以上に、人間という生物を好んでいる」というのだ。きっと、彼女の心の中には天使が住んでいるのだろう。
「あれ? 鍵くん、紅茶飲まないんですか?」
「え…あ、あぁ! ごめんごめん、ぼーっとしててさ……」
一夜に指摘されるがまま、僕は冷めてしまった紅茶に口をつける。と―――――
「ぶぶーっ!!? な、なんだこれっ!!?」
と、つい噴き出してしまった。紅茶を口に含んだ瞬間、口の中で何か別の味が僕の舌を刺激したのだ。紅茶にはない、何かよく分からない苦味が……
と、一夜はさっきまで忘れていたかのようにこう告げた。
「あ、そういえば! この紅茶の中に一つだけ、練からしを入れたものが入ってますのでご注意を☆」
……そういえば、忘れていた。一夜は時々、こんなぶっとんだ事をしでかす人だということを。
と、お盆に人数分の紅茶を準備しながら、一夜が部室のテーブルに寄ってくる。
読書をしていた僕とちぃは、パタンと本を閉じ、つかの間のティータイムを取ろうとしていた。
それに釣られ、部室のソファに寝そべっていた望子先輩も、身体を起こしてこちらへやってくる。
全員がテーブルを囲みながら、一夜の淹れた紅茶でくつろごうとしていた。
「今日はダージリンで淹れてみたんですよー」
目の前にティーカップを置かれ、その中に一夜特製の紅茶が注がれる。ふわり、と紅茶の香りが鼻をくすぐり、その匂いだけで心の奥底から花が咲きそうな感じがした。
と、一夜が紅茶を淹れている間、望子先輩は何やら自分の通学バックをまさぐり、何かを探していた。
「先輩、なにしてるんですか?」
「いやー、紅茶だけじゃなんか物足りないと思ってさー。家から持ってきたお菓子でも出そうかと思って」
と、通学バックから市販のクッキーを取り出した。確かに、ティータイムとはいえども、紅茶だけじゃ物足りないと思ったのだろう。
「んー……やっぱり一夜の淹れるお茶は旨いな」
と、路世先輩は一夜の淹れた紅茶に口をつけ、そう言った。確かに、毎度毎度一夜の淹れるお茶は美味しい。それはこの部にいる誰もが分かり切っている事だ。
一夜は誰かの世話をするのが好きな子だ。それは勿論、このメンバーだけでなく、他の上級生下級生にも優しい。
誰にでも分け隔てなく接することができるのが、彼女の特徴だと言えるだろう。それは彼女が生徒会副会長兼クラス委員長だからとかではない。彼女は単なる世話をするのが好きなだけだ。
それに彼女は控えめに見ても客観的に見ても、けっこう可愛い。長い黒髪をなびかせる姿はまさしく、現代風大和撫子と言えるだろう。
一夜がどれほど優しいのかを知ったのは、僕が一年生の時だっただろうか。次の授業が移動教室だというのに、まだ校内を把握できてなくて途方に暮れていた僕を救ってくれたのだ。
それだけではない。その出来事をきっかけに、僕のことを気遣ってくれているのか、はたまたまた僕が迷子にならないようにと思っているのかは分からないが、移動教室の時は一緒に行くようにしてくれているのだ。
一夜と腐れ縁である紗琉曰く、「一夜は普通の人以上に、人間という生物を好んでいる」というのだ。きっと、彼女の心の中には天使が住んでいるのだろう。
「あれ? 鍵くん、紅茶飲まないんですか?」
「え…あ、あぁ! ごめんごめん、ぼーっとしててさ……」
一夜に指摘されるがまま、僕は冷めてしまった紅茶に口をつける。と―――――
「ぶぶーっ!!? な、なんだこれっ!!?」
と、つい噴き出してしまった。紅茶を口に含んだ瞬間、口の中で何か別の味が僕の舌を刺激したのだ。紅茶にはない、何かよく分からない苦味が……
と、一夜はさっきまで忘れていたかのようにこう告げた。
「あ、そういえば! この紅茶の中に一つだけ、練からしを入れたものが入ってますのでご注意を☆」
……そういえば、忘れていた。一夜は時々、こんなぶっとんだ事をしでかす人だということを。
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