10 / 142
プロローグ ~で、結局何が始まるんですか?~
その10 入部届
しおりを挟む
昨日、先輩に部室の中へと案内され、色々と話を訊いたところ……
太鼓部とは、全国のゲームセンターで稼動しているリズムゲーム『太鼓の鉄人』を使って、全国の太鼓部と競い合い、その大会である『どん・だー』に出場し、優勝を目指している部活とのことだ。
未だ部員は二人しかいないが、部室にはすでに『太鼓の鉄人』の筐体が置いてあり、本格的な部活動のようだった。
その先輩……望子先輩と言うらしいが、先輩は話を進めていくうちに、僕らに入部届を手渡してきたのだ。
「…………」
僕は昨日渡された入部届を見つめながら、大きなため息を漏らした。まさか、こうして僕が部活の入部届をこの手に握ることがあるとは思ってなかったので、少々面食らっていた。部活とは何かと無縁な僕だったのに、今はこうしてあの謎の太鼓部の入部届が手元にあるのだ。
勿論、入るかどうかは自由だと言われたが……今こうして考えると、入らざるを得ない状況になっているような気がしてならない。
ちぃも僕と同じく、入部届を手渡されていたが……先輩の話を真剣に訊いているあの状態を思い返せば、入部するに違いないだろうと思った。
ちぃも僕と同じくして、中学の時は部活に入っておらず、何かと彼女も部活とは無縁だったのだ。そんなちぃが、あの太鼓部に入ると言い出すとなると、何だか明日にでも天変地異が起こるような気がしてならなかった。
「どうしたものか……」
「あ、先輩。ここにいたんですね」
と、窓の外に目を向けた矢先、ちぃに声をかけられた。
「うわっ!? ち、ちぃ!? どうしてここに? ここ二年生の教室だぞ!?」
「知ってますよ。あの優しそうな先輩が、教えてくれたんです」
と、ちぃが指差す方向には、黒い長い髪をなびかせたクラスメートが。
「あぁ……なんだ、一夜か」
彼女は一夜と言って、僕のクラスの委員長をしているのだ。面倒見もよく、それでいて生徒会副会長なのだから、学年関係なく優しく接している。
「それで、先輩はどうするんですか? 太鼓部」
「…………」
ちぃに迫られるが、僕は視線を逸らしてしまった。僕も一体、どうすればいいのかなんて分からない。別に入りたくない理由はないし、かといって入りたいとも思わない。
そもそも僕は、部活には興味もないし、この一年間入ろうとも思ったことがない。だけども、このままぼーっと高校生活を過ごしていくのも、何だか味気ない。一体、どうしていいのかなんて僕には分からなかった。
「……そうですか。それじゃ、仕方ありませんね」
と、ちぃは何を血迷ったのか、僕が机の上に置いていた太鼓部の入部届を取り上げたのだ。
「ちょっ……ちぃ!?」
「そんなに悩むんでしたら、私がこうしてあげますよっ」
と、ちぃは白紙だった僕の入部届に、僕の名前を書き始めたのだ。
「ちょっ……! まだ僕は入るなんて言ってないって……!」
ちぃからその入部届を取り上げようとしたが、時すでに遅し。ちぃは書き上げ、そのまま二年生の教室を後にしていったのだ。恐らくはあの望子先輩の元へと持っていったのだろう。
「……はぁ」
これで何度目かのため息を吐きながら、僕の太鼓部員としての部活動生活が今まさに始まろうとしていたのである。
太鼓部とは、全国のゲームセンターで稼動しているリズムゲーム『太鼓の鉄人』を使って、全国の太鼓部と競い合い、その大会である『どん・だー』に出場し、優勝を目指している部活とのことだ。
未だ部員は二人しかいないが、部室にはすでに『太鼓の鉄人』の筐体が置いてあり、本格的な部活動のようだった。
その先輩……望子先輩と言うらしいが、先輩は話を進めていくうちに、僕らに入部届を手渡してきたのだ。
「…………」
僕は昨日渡された入部届を見つめながら、大きなため息を漏らした。まさか、こうして僕が部活の入部届をこの手に握ることがあるとは思ってなかったので、少々面食らっていた。部活とは何かと無縁な僕だったのに、今はこうしてあの謎の太鼓部の入部届が手元にあるのだ。
勿論、入るかどうかは自由だと言われたが……今こうして考えると、入らざるを得ない状況になっているような気がしてならない。
ちぃも僕と同じく、入部届を手渡されていたが……先輩の話を真剣に訊いているあの状態を思い返せば、入部するに違いないだろうと思った。
ちぃも僕と同じくして、中学の時は部活に入っておらず、何かと彼女も部活とは無縁だったのだ。そんなちぃが、あの太鼓部に入ると言い出すとなると、何だか明日にでも天変地異が起こるような気がしてならなかった。
「どうしたものか……」
「あ、先輩。ここにいたんですね」
と、窓の外に目を向けた矢先、ちぃに声をかけられた。
「うわっ!? ち、ちぃ!? どうしてここに? ここ二年生の教室だぞ!?」
「知ってますよ。あの優しそうな先輩が、教えてくれたんです」
と、ちぃが指差す方向には、黒い長い髪をなびかせたクラスメートが。
「あぁ……なんだ、一夜か」
彼女は一夜と言って、僕のクラスの委員長をしているのだ。面倒見もよく、それでいて生徒会副会長なのだから、学年関係なく優しく接している。
「それで、先輩はどうするんですか? 太鼓部」
「…………」
ちぃに迫られるが、僕は視線を逸らしてしまった。僕も一体、どうすればいいのかなんて分からない。別に入りたくない理由はないし、かといって入りたいとも思わない。
そもそも僕は、部活には興味もないし、この一年間入ろうとも思ったことがない。だけども、このままぼーっと高校生活を過ごしていくのも、何だか味気ない。一体、どうしていいのかなんて僕には分からなかった。
「……そうですか。それじゃ、仕方ありませんね」
と、ちぃは何を血迷ったのか、僕が机の上に置いていた太鼓部の入部届を取り上げたのだ。
「ちょっ……ちぃ!?」
「そんなに悩むんでしたら、私がこうしてあげますよっ」
と、ちぃは白紙だった僕の入部届に、僕の名前を書き始めたのだ。
「ちょっ……! まだ僕は入るなんて言ってないって……!」
ちぃからその入部届を取り上げようとしたが、時すでに遅し。ちぃは書き上げ、そのまま二年生の教室を後にしていったのだ。恐らくはあの望子先輩の元へと持っていったのだろう。
「……はぁ」
これで何度目かのため息を吐きながら、僕の太鼓部員としての部活動生活が今まさに始まろうとしていたのである。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

優秀賞受賞作【スプリンターズ】少女達の駆ける理由
棚丘えりん
青春
(2022/8/31)アルファポリス・第13回ドリーム小説大賞で優秀賞受賞、読者投票2位。
(2022/7/28)エブリスタ新作セレクション(編集部からオススメ作品をご紹介!)に掲載。
女子短距離界に突如として現れた、孤独な天才スプリンター瑠那。
彼女への大敗を切っ掛けに陸上競技を捨てた陽子。
高校入学により偶然再会した二人を中心に、物語は動き出す。
「一人で走るのは寂しいな」
「本気で走るから。本気で追いかけるからさ。勝負しよう」
孤独な中学時代を過ごし、仲間とリレーを知らない瑠那のため。
そして儚くも美しい瑠那の走りを間近で感じるため。
陽子は挫折を乗り越え、再び心を燃やして走り出す。
待ち受けるのは個性豊かなスプリンターズ(短距離選手達)。
彼女達にもまた『駆ける理由』がある。
想いと想いをスピードの世界でぶつけ合う、女子高生達のリレーを中心とした陸上競技の物語。
陸上部って結構メジャーな部活だし(プロスポーツとしてはマイナーだけど)昔やってたよ~って人も多そうですよね。
それなのに何故! どうして!
陸上部、特に短距離を舞台にした小説はこんなにも少ないんでしょうか!
というか少ないどころじゃなく有名作は『一瞬の風になれ』しかないような状況。
嘘だろ~全国の陸上ファンは何を読めばいいんだ。うわーん。
ということで、書き始めました。
陸上競技って、なかなか結構、面白いんですよ。ということが伝われば嬉しいですね。
表紙は荒野羊仔先生(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/520209117)が描いてくれました。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
曖昧なカノジョのメテオロロジー
ゆきんこ
青春
晴人は『ある能力』のせいで友達と踏み込んだコミュニケーションが取れない高校生。
夏休みの最終日にいつもの釣りスポットでおひとりさまを楽しんでいた晴人。
ガツンとくる強い引きは大物の予感! ところが自分の釣り糸が隣の釣り糸に絡まってしまい、心雨と名乗る少女と思わぬ交流をすることに。
17年間友だちナシ彼女ナシのボッチ高校生男子が、突然恋に落ちるのはアリですか?
訳アリな二人のちょっと不思議なボーイ・ミーツ・ガール!
°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°【それはカフェラテとカフェオレの違いくらいのこと】°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
【短編】怖い話のけいじばん【体験談】
松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。
スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。
ジェンダーレス男子と不器用ちゃん
高井うしお
青春
エブリスタ光文社キャラクター文庫大賞 優秀作品
彼氏に振られたOLの真希が泥酔して目を覚ますと、そこに居たのはメイクもネイルも完璧なジェンダーレス男子かのん君。しかも、私の彼氏だって!?
変わってるけど自分を持ってる彼に真希は振り回されたり、励まされたり……。
そんなかのん君の影響で真希の世界は新しい発見で満ちていく。
「自分」ってなんだろう。そんな物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる