どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

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プロローグ ~で、結局何が始まるんですか?~

その8 入部

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 時を遡ること、三ヶ月前の話。
 二年生に上がった僕、黒崎鍵はふらふらと、部室棟のある三階を彷徨っていた。
 帰宅してもすることもない僕は、このまま部活時間終了まで、こうして有り余った暇を持て余そうと考えていたのである。
 その頃は四月で、入学式が終わって数日足らずしか経っていない頃合いだったので、部活をしている生徒たちは、新たな部員を集めようと奮闘していた時期だった。
 そのためか、この部室棟にいる生徒の半数が新入生である一年ばかりだったのだ。

「はぁ……。何やってるんだろうな……」

 と、深いため息を吐きながら、僕は廊下の窓に目を向ける。
 外では運動部が懸命に身体を動かしながら、青春という汗を流し、奮闘していた。
 特に部活に入ろうとも思わなかった僕は、きっとこのままこの一年間も部活に入らず、ただ有り余る時間を持て余すに違いないと思っていた。
 そう考えるだけで何だか、これっぽっちも面白みのない高校生活だなー……と、思ってしまう。
 こんなにムダな三年間を過ごすなんて、どうかしている。高校生なんだから、もっとこう……「青春ばんざーい!」みたいな感じで学生生活を謳歌したいものだ。

「……あれ? 先輩じゃないですか。どうしたんですか、こんな所で」

 と、一人の少女が外の景色を見ながらため息を吐いている僕に話しかける。

「え……あ、あぁなんだ、ちぃか……」

 僕はその少女を一目見るだけでそれが誰なのかを理解した。
 彼女の名は《水巻 智広みずまき ちひろ》。僕とは顔見知りで、近所に住んでいる僕の後輩だ。幼稚園のときからずっと家が近所で、毎日のように一緒に遊んだりしている、妹のような存在だ。

「あ、そうか。ちぃもウチ志望だったっけ?」
「そうですよ。前々からこの学校を志望するって言ってたじゃないですか」

 そう言われれば、そんなことも言っていたような気がする。ウチから近い高校といえばここしかなく、僕は通学時間短縮のためにこの学校を志望したのだが、ちぃも同じような理由でこの学校を志望するとかなんとか言っていたような覚えがあった。

「まぁ、いいです。それよりも先輩。どうしたんですか、そんな所で立ち止まったりなんかして」
「どうしたって……特に理由はないよ。ただ、ぶらついてただけさ」
「そうですか……。ところで、ここって何なんでしょうか……?」

 と、ちぃがとある一箇所を指差す。その指す方向をつー、と目で追っていく。と、そこには木彫りで大きく『太鼓部』と書かれていた。
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