どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

文字の大きさ
上 下
8 / 142
プロローグ ~で、結局何が始まるんですか?~

その8 入部

しおりを挟む
 時を遡ること、三ヶ月前の話。
 二年生に上がった僕、黒崎鍵はふらふらと、部室棟のある三階を彷徨っていた。
 帰宅してもすることもない僕は、このまま部活時間終了まで、こうして有り余った暇を持て余そうと考えていたのである。
 その頃は四月で、入学式が終わって数日足らずしか経っていない頃合いだったので、部活をしている生徒たちは、新たな部員を集めようと奮闘していた時期だった。
 そのためか、この部室棟にいる生徒の半数が新入生である一年ばかりだったのだ。

「はぁ……。何やってるんだろうな……」

 と、深いため息を吐きながら、僕は廊下の窓に目を向ける。
 外では運動部が懸命に身体を動かしながら、青春という汗を流し、奮闘していた。
 特に部活に入ろうとも思わなかった僕は、きっとこのままこの一年間も部活に入らず、ただ有り余る時間を持て余すに違いないと思っていた。
 そう考えるだけで何だか、これっぽっちも面白みのない高校生活だなー……と、思ってしまう。
 こんなにムダな三年間を過ごすなんて、どうかしている。高校生なんだから、もっとこう……「青春ばんざーい!」みたいな感じで学生生活を謳歌したいものだ。

「……あれ? 先輩じゃないですか。どうしたんですか、こんな所で」

 と、一人の少女が外の景色を見ながらため息を吐いている僕に話しかける。

「え……あ、あぁなんだ、ちぃか……」

 僕はその少女を一目見るだけでそれが誰なのかを理解した。
 彼女の名は《水巻 智広みずまき ちひろ》。僕とは顔見知りで、近所に住んでいる僕の後輩だ。幼稚園のときからずっと家が近所で、毎日のように一緒に遊んだりしている、妹のような存在だ。

「あ、そうか。ちぃもウチ志望だったっけ?」
「そうですよ。前々からこの学校を志望するって言ってたじゃないですか」

 そう言われれば、そんなことも言っていたような気がする。ウチから近い高校といえばここしかなく、僕は通学時間短縮のためにこの学校を志望したのだが、ちぃも同じような理由でこの学校を志望するとかなんとか言っていたような覚えがあった。

「まぁ、いいです。それよりも先輩。どうしたんですか、そんな所で立ち止まったりなんかして」
「どうしたって……特に理由はないよ。ただ、ぶらついてただけさ」
「そうですか……。ところで、ここって何なんでしょうか……?」

 と、ちぃがとある一箇所を指差す。その指す方向をつー、と目で追っていく。と、そこには木彫りで大きく『太鼓部』と書かれていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

あたし、婚活します!

桃青
青春
いつの時代なのか、どこの場所なのか、母に婚活を迫られたアンナは、都会で婚活をすることを決意。見届け人のカイルに見守られながら、ど定番な展開で、様々な男性と巡り合い…。目指すはハッピーエンドなのです。朝にアップロードします。

彼と彼女の365日

如月ゆう
青春
※諸事情により二月いっぱいまで不定期更新です。 幼馴染みの同級生二人は、今日も今日とて一緒に過ごします。 これはそんな彼らの一年をえがいた、365日――毎日続く物語。

サザン・ホスピタル 短編集

くるみあるく
青春
2005年からしばらくWeb上で発表していた作品群。 本編は1980~2000年の沖縄を舞台に貧乏金髪少年が医者を目指す物語。アルファポリスに連載中です。 この短編は本編(長編)のスピンオフ作品で、沖縄語が時折出てきます。 主要登場人物は6名。  上間勉(うえま・つとむ 整形外科医)  東風平多恵子(こちんだ・たえこ 看護師)  島袋桂(しまぶくろ・けい 勉と多恵子の同級生 出版社勤務)  矢上明信(やがみ・あきのぶ 勉と多恵子の同級生 警察官)  粟国里香(あぐに・りか 多恵子の親友で看護師)  照喜名裕太(てるきな・ゆうた 整形外科医) 主人公カップルの子供である壮宏(たけひろ)と理那(りな)、多恵子の父母、サザン・ホスピタルの同僚たちが出たりします。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

意味が分かると怖い話 完全オリジナル

何者
ホラー
解けるかなこの謎ミステリーホラー

ジェンダーレス男子と不器用ちゃん

高井うしお
青春
エブリスタ光文社キャラクター文庫大賞 優秀作品 彼氏に振られたOLの真希が泥酔して目を覚ますと、そこに居たのはメイクもネイルも完璧なジェンダーレス男子かのん君。しかも、私の彼氏だって!? 変わってるけど自分を持ってる彼に真希は振り回されたり、励まされたり……。 そんなかのん君の影響で真希の世界は新しい発見で満ちていく。 「自分」ってなんだろう。そんな物語。

処理中です...