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第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~
その142 合宿(中休み)
しおりを挟む「……んで、やっぱりこうなるんだね」
と、僕らはコンビニを後にする。
……紅白戦の結果なのだが、あの後紗琉はなんとか望子先輩に勝てたはいいものの、あまり差をつけられず、同点と言わんばかりの結果となっていた。
そして迎えた大将戦。無論、相手は路世先輩。なんとかここで挽回しようと張り切って挑んだのだが……結果は数百点差で路世先輩の勝利。
負けた僕らのチームはこうして、コンビニ買い出しをさせられることになったのだった。
「まぁでも、惜しかったんじゃない? 遠目から見ても大差ないわよ、あのスコアは」
「いやぁしかし、勝ちたかったなぁ」
「……ですね」
三人で反省会をやりながら、別荘へと戻る道を歩いていく。
「きゃっ!?」
と、紗琉がつまずいてしまった。
「だ、大丈夫か!?」
「いてて……。だ、大丈夫よ。軽く捻っただけだから……っ!」
なんとか立ち上がるも、痛そうな表情を見せる紗琉。
……これじゃ歩けそうにもなさそうだな。
「わっ、私! 冷やすもの持ってきます!」
と、ちぃは猛ダッシュで別荘へと戻っていった。
「あ、ちぃちゃん!」
必死に止めようとするも、紗琉の声はちぃには届いていなかったようだ。
捻った痛みを我慢しつつも、どうにか歩こうとする紗琉。
「紗琉! 大人しくしてろっての!」
「イヤよ! これ以上誰かの迷惑になんてなりたくないもの!」
そうだ。紗琉はこういう時は頑固で、誰かに迷惑をかけたがらない。
それはあの過去の出来事があったからだ……。
「ったく……。おぶってってやるから、じっとしてろよ」
「……は?」
「向こうに戻ってギャーギャー言われたくないんだろ? 早く乗りなよ。部屋まで送ってってやるから」
「で、でも……」
「ちぃには連絡するから。……早くしないと、ちぃがみんなに言いふらすかもしれないぞ?」
「…………」
しばしの沈黙の後、紗琉は僕の背中に身を委ねた。
紗琉を抱えたまま僕は立ち上がると、ちぃに連絡し、紗琉の部屋で待つようにと伝えた。
「……大丈夫? 重くないかしら?」
「別に」
こうして女の子を背に乗せるのは久しぶりだろうか……。
昔はよく、ケガして泣いてたちぃをおぶっていたが……。
「鍵」
「ん?」
「その……ありがとね。アタシがこうして、今でも太鼓の鉄人をやれているのは、アンタがいたからだし……一応、お礼言っとかなきゃって思って……」
と、紗琉はぎゅっと手を強く結んだ。
「……なんだ、そんなことか」
「なっ、なんだとはなによ!? アタシは……」
「それは僕のおかげじゃないよ。だって、こういう結果を生んだのは紗琉自身の想いだろ? だったら僕じゃない、紗琉自身なんだ」
そう。僕はあくまで助言をしたようなものだ。
確かに、「どうにかならないか」ってずっと行動はしていたけど……でも結局は紗琉自身が殻を破っていたんだから、僕のおかげじゃない。
「それにさ、僕ら今じゃ仲間なんだし、困ったことがあればいつだって助けてやるさ。だから何度でも困っていいんだよ。その分僕らが引っ張り上げて助けるからさ」
「鍵……」
仲間ってのは、困っていたら助け合うのが当たり前だと僕は思っている。
だから、例え力になれなくともどうにかして助けてみせる。
「……鍵、あの、さ……」
「んー?」
「その…………いや、なんでもないです……」
「……そっか。お、やっと別荘が見えてきたよ」
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