137 / 142
第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~
その137 合宿 その4
しおりを挟む「ふぅ……」
ざっと30分くらいゆったりしていただろうか。まだ少し濡れている髪を拭きながら浴場を出る。
……いや、ホントにちぃの言う通りの浴場だった。普通に銭湯以上の広さのある浴場だった。
流石にこんな大きなお風呂に浸かったのは初めてだった。
と、浴場を出て脱衣所を出ると、望子先輩と路世先輩が休憩所らしき場所で卓球をしていた。
「おら、望子! もう一本いくぞ!」
「う゛ぇぇ……もういいでしょ。路世ちゃん、やる気ありすぎ……。これただの遊びでしょ~」
「遊びだろうが本気で行くに決まっているだろ! ほら、構えろ!」
望子先輩はすでにヘトヘトだった。……流石路世先輩。どんな遊びでも、レクリエーションでも本気になって取り掛かるから謎にすごい。
しかし、卓球か……。僕自身、お風呂上りにやったことはないが、友達がやっていたことはよくある。
二人の対戦を見ながら、僕はコーヒー牛乳を飲んでいた。
路世先輩は相変わらずのキレのある動きで、鋭いボール返し。望子先輩はそれに追いつけず、どんどん差がついていく。
「ありゃりゃ……」
「おい、望子! もっと本気でかかってこいよ!」
「えぇ……もう疲れたよ~……。もうかれこれ30分近くやってない? 一旦休みにしようよ~……」
望子先輩の証言が正しければ、僕が入浴し始めて間もなくして始めたということになる。
……そりゃ、望子先輩がへとへとになるのも分かる。
「……少し、やってみるかな」
僕は立ち上がると、卓球台へと近づいていく。
「お、ケンか」
「お風呂ありがどうございました。とてもいい湯でした」
「そうかそうか。で、どうしたんだ?」
「いや、僕も卓球やってみようかと思いまして……」
「ホント!? じゃ、私が代わってあげるよぅ」
と、望子先輩が持っていたラケットを渡される。久々にラケットを持ったが、こんなに軽かったっけ?
「ケンはやったことあるのか?」
「かじった程度ですけど……」
「そうか。じゃ、まずは軽くラリーでもやってから本番と行くか」
「そうですね」
何度か軽くラリーをやってから、僕と路世先輩の対決の幕があがった。
「ふっ!」
キレのあるサーブ。確かに、これは卓球部のサーブと言われれば、そうにしか見えないほどの強さだ。でも……
「よっ、と……」
別に返せないほどではない。体力があるうちは全然余裕で返せるだろう。
「ほう……。俺のサーブを返すとはな。もしや、結構やりこんでいたか?」
「いや、単にお遊び程度ですけどね。……そろそろ反撃と行きますよ」
カコン、と鋭い音とともに僕の放ったスマッシュが路世先輩に迫っていく。
路世先輩はそれを処理できない。そのまま僕の得点となった。
「すごいすごい! 路世ちゃんから得点を取るなんて!」
「まぁ……今のうちだけですよ。後からどうせ挽回されます」
「ふっ……成程な。ある程度手加減するつもりだったが……これは流石に俺も本気を出すしかないようだな」
「……お手柔らかにお願いします」
徐々に僕もヒートアップしていき、結局長々と二人で卓球することになるなんて、この時の僕はまだ、知る由もなかったのだった……。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説


あの音になりたい! 北浜高校吹奏楽部へようこそ!
コウ
青春
またダメ金か、、。
中学で吹奏楽部に挫折した雨宮洸。
もうこれっきりにしようと進学した先は北浜高校。
[絶対に入らない]そう心に誓ったのに
そんな時、屋上から音が聞こえてくる。
吹奏楽部で青春and恋愛ドタバタストーリー。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
へたくそ
MO
青春
野球が大好きなのに“へたくそ”な主人公、児玉良太。
チームメイトで野球センス抜群なキャッチャー、松島健介。
後輩マネージャーで児玉に想いを寄せる、町村早苗。
3人の視点から物語は進行していきます。
チームメイトたちとの友情と衝突。
それぞれの想い。
主人公の高校入学から卒業までの陵成高校野球部の姿を描いた物語。
この作品は
https://mo-magazines.com/(登場人物一覧も掲載しています)
小説家になろう/カクヨム/エブリスタ/NOVEL DAYS
にも掲載しています。
ゆめまち日記
三ツ木 紘
青春
人それぞれ隠したいこと、知られたくないことがある。
一般的にそれを――秘密という――
ごく普通の一般高校生・時枝翔は少し変わった秘密を持つ彼女らと出会う。
二つの名前に縛られる者。
過去に後悔した者
とある噂の真相を待ち続ける者。
秘密がゆえに苦労しながらも高校生活を楽しむ彼ら彼女らの青春ストーリー。
『日記』シリーズ第一作!
おてんばプロレスの女神たち ~プレジデント日奈子のサバイバル~
ちひろ
青春
バンコクおてんばプロレスを創設し、自らも前座レスラーとして出しゃばるプレジデント日奈子(本名:佐藤日奈子)。本業は編集プロダクションの社長として、経営の二文字と格闘を続ける毎日だったが、そんな日奈子に倒産の危機が襲いかかった。青春派プロレスノベル『おてんばプロレスの女神たち』の番外編として、プレジデント日奈子の生きざまを追う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる