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第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~
その137 合宿 その4
しおりを挟む「ふぅ……」
ざっと30分くらいゆったりしていただろうか。まだ少し濡れている髪を拭きながら浴場を出る。
……いや、ホントにちぃの言う通りの浴場だった。普通に銭湯以上の広さのある浴場だった。
流石にこんな大きなお風呂に浸かったのは初めてだった。
と、浴場を出て脱衣所を出ると、望子先輩と路世先輩が休憩所らしき場所で卓球をしていた。
「おら、望子! もう一本いくぞ!」
「う゛ぇぇ……もういいでしょ。路世ちゃん、やる気ありすぎ……。これただの遊びでしょ~」
「遊びだろうが本気で行くに決まっているだろ! ほら、構えろ!」
望子先輩はすでにヘトヘトだった。……流石路世先輩。どんな遊びでも、レクリエーションでも本気になって取り掛かるから謎にすごい。
しかし、卓球か……。僕自身、お風呂上りにやったことはないが、友達がやっていたことはよくある。
二人の対戦を見ながら、僕はコーヒー牛乳を飲んでいた。
路世先輩は相変わらずのキレのある動きで、鋭いボール返し。望子先輩はそれに追いつけず、どんどん差がついていく。
「ありゃりゃ……」
「おい、望子! もっと本気でかかってこいよ!」
「えぇ……もう疲れたよ~……。もうかれこれ30分近くやってない? 一旦休みにしようよ~……」
望子先輩の証言が正しければ、僕が入浴し始めて間もなくして始めたということになる。
……そりゃ、望子先輩がへとへとになるのも分かる。
「……少し、やってみるかな」
僕は立ち上がると、卓球台へと近づいていく。
「お、ケンか」
「お風呂ありがどうございました。とてもいい湯でした」
「そうかそうか。で、どうしたんだ?」
「いや、僕も卓球やってみようかと思いまして……」
「ホント!? じゃ、私が代わってあげるよぅ」
と、望子先輩が持っていたラケットを渡される。久々にラケットを持ったが、こんなに軽かったっけ?
「ケンはやったことあるのか?」
「かじった程度ですけど……」
「そうか。じゃ、まずは軽くラリーでもやってから本番と行くか」
「そうですね」
何度か軽くラリーをやってから、僕と路世先輩の対決の幕があがった。
「ふっ!」
キレのあるサーブ。確かに、これは卓球部のサーブと言われれば、そうにしか見えないほどの強さだ。でも……
「よっ、と……」
別に返せないほどではない。体力があるうちは全然余裕で返せるだろう。
「ほう……。俺のサーブを返すとはな。もしや、結構やりこんでいたか?」
「いや、単にお遊び程度ですけどね。……そろそろ反撃と行きますよ」
カコン、と鋭い音とともに僕の放ったスマッシュが路世先輩に迫っていく。
路世先輩はそれを処理できない。そのまま僕の得点となった。
「すごいすごい! 路世ちゃんから得点を取るなんて!」
「まぁ……今のうちだけですよ。後からどうせ挽回されます」
「ふっ……成程な。ある程度手加減するつもりだったが……これは流石に俺も本気を出すしかないようだな」
「……お手柔らかにお願いします」
徐々に僕もヒートアップしていき、結局長々と二人で卓球することになるなんて、この時の僕はまだ、知る由もなかったのだった……。
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