どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

文字の大きさ
上 下
129 / 142
第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~

その129 眼鏡

しおりを挟む

 夏休みももう目の前まで来ている僕らは、次の本戦一回戦に向けて切磋琢磨と練習に励んでいた。

「一夜、もう少しスピードあげて! リズムは取れてるから後はしっかりスコア取ることだけに集中して!」
「分かったわ」

 やっぱり経験者である紗琉と一夜が練習に参加してくれるだけでここまで心強いとは……。
 それにブランクが空いていたとはいえ、僕らと同等かそれ以上のポテンシャルを秘めている。

「……凄いですね、紗琉さんたち」
「ホントだね。二人とも、やっぱり経験者だからだね」

 ちぃとともに、二人の実力には驚かされていた。……流石中学生の時に本戦まで勝ち上がったまでの実力はあるな。

「……そういえば、望子先輩と路世先輩遅いですね」
「そうだね」

 先輩二人はまだ部室に顔を出していなかった。
 ……まぁ今年受験だし、それで色々と進路について忙しいのだろう。来年は僕の番だし、進路についてもしっかり考えておかないと、と思った。

「すまない、遅くなった」
「ごめんね~」

 と、噂をすればなんとやら。先輩二人が部室に現れる。
 ……ふと、僕は望子先輩の異変に気付いた。

「先輩……。眼鏡なんてかけるんですね」
「ふぇ? あー……そういえば見せたことなかったね」

 そう。望子先輩はいつもと違う、眼鏡をかけた状態で部室に入ってきたのだ。
 ……先輩が眼鏡をかけてたなんて、まったく想像できなかった。だって先輩って、そんな風に見えないし。

「……なんか失礼なこと考えてない?」
「気のせいですよ、気のせい」

 まるで僕の心を見透かしたかのように望子先輩は聞いてきた。
 ……なんなんだ、この先輩は。眼鏡をかけたら途端にエスパーになるとかそういう機能がついてるのか?

「でも確かに。私が眼鏡をかけたところ、路世ちゃん以外に見せたとこなかったね。どおー? 似合うー?」

 その場でくるり、と回ってみる望子先輩。

「……いつもの望子先輩のイメージがありますからあんまり」
「紗琉ちゃんに同じくです」
「……もう少しおしとやかであれば、ですね」

 紗琉、一夜、ちぃの三人はきっぱりと、「似合っていない」と言い張った。

「そ、そっかぁ……」

 しょげる先輩。慰めようとなんとか言葉を探した。

「ぼ、僕は別にいいと思いますよ! いつもと違う先輩のイメージがあって、メリハリがあるというかなんというか……」
「鍵くん……」

 まぁ確かに、いつものわんぱくな先輩とはちがって、ザ・上級生って感じがあっていいと思う。
 知的かどうかは別として……それでも、別のギャップがあるというか……とにかく普通に似合っていると思う。

「あら……。鍵くんも同じ考えだと思っていたのだけれど……もしかして望子先輩みたいな人の方がタイプなのかしら?」
「そうなの?」
「タイプって……はぁっ!?」

 いきなり何の話だよ!? どうしてそういう考えに至るかなぁ!!?

「そうだったの? 鍵くん?」
「先輩まで鵜呑みにしないでくださいよ! 別にそういう意味で言ったわけじゃないですから!」

 どうしてそんな考えになるのだろう……? 弁解するのにかなり時間がかかったのはその後のことだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

坊主女子:青春恋愛短編集【短編集】

S.H.L
青春
女性が坊主にする恋愛小説を短篇集としてまとめました。

【本当にあった怖い話】

ねこぽて
ホラー
※実話怪談や本当にあった怖い話など、 取材や実体験を元に構成されております。 【ご朗読について】 申請などは特に必要ありませんが、 引用元への記載をお願い致します。

「俺の学校が野鳥少女でいっぱいなんだが!」

トンカツうどん
青春
--- **俺の学校が野鳥少女でいっぱいなんだが!** 普通の高校生活を送りたい——そんな願いを持つ柊涼太(ひいらぎ りょうた)は、野鳥の擬人化少女たちが集う学園に通っている。涼太の平穏な日常は、彼女たちの登場によって激しく揺さぶられる。 涼太の学校生活は、一筋縄ではいかない。朝の教室には、いつも元気な雀の少女、千夏(ちか)が明るい声で挨拶してくる。彼女の元気な姿は、まるで実際の雀が飛び跳ねているかのようだ。千夏の他にも、知的でクールなカラスの少女、羽菜(はな)や、静かで神秘的なフクロウの少女、夜美(よみ)など、多彩な鳥少女たちが涼太の周りに集う。 彼女たちはそれぞれ独特の個性を持ち、涼太に助言をくれたり、時にはいたずらを仕掛けてきたりする。数学のテスト対策も、一筋縄ではいかない。羽菜の賢さと千夏の明るさが加わることで、涼太は何とか乗り越えていくが、常に波乱万丈だ。 「静かな日常なんてどこにあるんだ?」涼太はそう思いつつも、彼女たちとの賑やかな日々を送るうちに、その喧騒が少しずつ愛おしくなっていく。毎日が新しい発見と挑戦の連続。時にハチャメチャで、時に心温まる瞬間が彼を待っている。 涼太は、鳥少女たちと共に、普通とは言えない学園生活を通じて成長していく。果たして彼は、平穏を取り戻せるのか?それとも、この賑やかな日常を受け入れ、新たな一歩を踏み出すのか?彼の行く末は、まだ誰にもわからない。 そんな柊涼太と野鳥少女たちの学園生活に、あなたも一緒に飛び込んでみませんか?

🍞 ブレッド 🍞 ~ニューヨークとフィレンツェを舞台にした語学留学生と女性薬剤師の物語~

光り輝く未来
青春
人生とは不思議なことの連続です。ニューヨークに語学留学している日本人の青年がフィレンツェで美しい薬剤師に出会うなんて。しかも、それがパンの歴史につながっているなんて。本当に不思議としか言いようがありません。 でも、もしかしたら、二人を引き合わせたのは古のメソポタミアの若い女性かもしれません。彼女が野生の麦の穂を手に取らなければ、青年と薬剤師が出会うことはなかったかもしれないからです。 ✧  ✧ 古のメソポタミアとエジプト、 中世のフィレンツェ、 現代のフィレンツェとニューヨーク、 すべての糸が繋がりながらエピローグへと向かっていきます。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

愛犬との想い出

ムーワ
青春
筆者が子どもの頃、愛犬と出会い愛犬と過ごした想い出を思い出しながら綴った作品です。 まだ今のようにSNSが盛んな時代ではなかったので写真が数枚残っている程度ですが、表紙はまだ子犬の頃の写真です。 遥か昔のことですが、一番筆者が記憶に残っているのは、愛犬との出会いと別れのシーンです。 人は人生の中で必ず出会いと別れのシーンがあります。学校では入学式と卒業式、親子の間では子どもが誕生した日と死ぬ時です。 人間、出会いと別れのシーンはいつまでたっても心の中で鮮明に記憶しているものです。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

処理中です...