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第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~
その127 もう一度
しおりを挟む「失礼しまーす」
と、私は職員室を後にする。
……とりあえず、この前の部費問題はこれですべて解決となった。これで夏休み前の大きな仕事は終わったも同然だ。
あとは細かな作業を終わらせるだけだ。今日の放課後も、そうして残りの作業を片付けようと考えていた。
「紗琉ちゃん」
と、一夜の声。
「どうしたのよ。部費問題なら解決したわよ」
「……少し、話があるの」
***
一夜につられるがまま、生徒会室に。……話ってなんだろうか、改まって。
「どうしたのよ、改まって?」
「……紗琉ちゃん。どうして、太鼓を叩こうとしないの?」
「…………」
……今になって、その話か。私はため息が自然に漏れた。
「……何度も言っているじゃない。私が嫌っているからよ」
「じゃ、どうしてあの日の助っ人をキャンセルしなかったの?」
「そりゃ、この学校に泥を塗りたくるようなことをしたくなかったからよ。部員が足りないから欠場、なんてされちゃたまったものじゃなかったからよ」
「それじゃ、どうしてあんな楽しそうな顔をしながら叩いていたの? 嫌いって本当に思っているのなら、そんな顔はしないでしょ?」
「それは……」
鍵も言っていた。あの日、私が助っ人として参戦した日。私は気づかぬうちに楽しそうな顔をしながら太鼓を叩いていた、と。
そんなことを思いながら、一夜は言葉を続けた。
「……本当は、もっとやりたいって思っているんじゃないの?」
「そ、そんなわけ……」
「……知ってるわよ。紗琉ちゃんがどうして、太鼓を叩かないのか」
「……そ、それは! 私が嫌っているって……」
「ウソよ!」
一夜の叫びが生徒会室に響き渡った。
「ウソでしょ。あの時はあんなに情熱をもって取り組んでたのに、紗琉ちゃんが飽きるわけがない! あの日の償いとか言いたいんでしょ? 紗琉ちゃんはいつもそう! 何かある度にすぐ一人で背負おうとする! 太鼓を叩かないってのも、どうせあの時の私がケガしたことに責任を感じてるんでしょ!」
……ぐうの音も出ない。確かに私は、あの日の償い、あの日の一夜のケガに責任を感じているからこそ『太鼓を叩かない』って心に誓った。
……一夜には一度も言ったことなかったのに、それを彼女は周知していたとは。
「本当に嫌いだったら、助っ人の時だって、あんな楽しそうな顔してないでしょ!」
「…………」
「……それに、本当はあの日のことは私が悪いのよ。……私がムリして隠れて自主練してたのが悪いんだから」
「……え?」
「私、紗琉ちゃんが本気になってる顔、見たことなかったから……。だからこそ、私はどうにかして紗琉ちゃんの足を引っ張らないようにって、隠れて練習してたの。その積み重ねであんなことになったの……。だから紗琉ちゃんが悪いわけじゃない」
「一夜……」
「私、別に紗琉ちゃんに太鼓を叩いてほしくないなんて思っていないわ。ううん、本当はもっと叩いていてほしい。だって……紗琉ちゃん。私が見る中で一番楽しそうな顔してるから」
一夜は涙を流しながら訴えていた。
……私はただ、一夜をケガさせてしまった非があるから、だから「もう叩かない」って決めていたのに……本人は「もっと叩いていてほしい」なんて。
「ねぇ、紗琉ちゃん。……もう、一人で背負うことなんかやめて、本当のことを話してほしい。だって私たち……友達じゃない」
こいつは……。
本当……ズルいなぁ。
「……ッ! 本当は私だって叩きたいわよっ! でも、どうしてもあの日のことを思い出して……! ずっと、一夜には申し訳ないってばかり思ってたッ! ケガさせてしまったのも、私が自分のことばかり考えていたからって! だから私は太鼓を叩けなかった! 本当のことが言えなかったの! だから……だからっ!」
……ようやく、一夜に本当の心を伝えることができた。
私だってもっと叩いていたい。『どん・だー』に出たい。……もう一度、あの高みを目指したい!
そして……一夜とともに、優勝カップを手に入れたい!!
「……やっと、聞けた。紗琉ちゃんの本心」
「あんたってば、本当……ずるいわよ。……また、私をあの世界に引き込もうなんて……」
「そりゃそうでしょ。だって紗琉ちゃん、楽しそうだったから」
「そういうあんたもね」
二人で顔をそろえて笑った。なんだ……責任を感じてたのは私だけじゃなかったんだ。
「ねぇ、紗琉ちゃん」
「なによ」
「……今度こそ、本当に優勝を目指しましょう」
「……そうね」
「だから、」
「……ん」
――――あの部へ、入部しましょう。
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