127 / 142
第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~
その127 もう一度
しおりを挟む「失礼しまーす」
と、私は職員室を後にする。
……とりあえず、この前の部費問題はこれですべて解決となった。これで夏休み前の大きな仕事は終わったも同然だ。
あとは細かな作業を終わらせるだけだ。今日の放課後も、そうして残りの作業を片付けようと考えていた。
「紗琉ちゃん」
と、一夜の声。
「どうしたのよ。部費問題なら解決したわよ」
「……少し、話があるの」
***
一夜につられるがまま、生徒会室に。……話ってなんだろうか、改まって。
「どうしたのよ、改まって?」
「……紗琉ちゃん。どうして、太鼓を叩こうとしないの?」
「…………」
……今になって、その話か。私はため息が自然に漏れた。
「……何度も言っているじゃない。私が嫌っているからよ」
「じゃ、どうしてあの日の助っ人をキャンセルしなかったの?」
「そりゃ、この学校に泥を塗りたくるようなことをしたくなかったからよ。部員が足りないから欠場、なんてされちゃたまったものじゃなかったからよ」
「それじゃ、どうしてあんな楽しそうな顔をしながら叩いていたの? 嫌いって本当に思っているのなら、そんな顔はしないでしょ?」
「それは……」
鍵も言っていた。あの日、私が助っ人として参戦した日。私は気づかぬうちに楽しそうな顔をしながら太鼓を叩いていた、と。
そんなことを思いながら、一夜は言葉を続けた。
「……本当は、もっとやりたいって思っているんじゃないの?」
「そ、そんなわけ……」
「……知ってるわよ。紗琉ちゃんがどうして、太鼓を叩かないのか」
「……そ、それは! 私が嫌っているって……」
「ウソよ!」
一夜の叫びが生徒会室に響き渡った。
「ウソでしょ。あの時はあんなに情熱をもって取り組んでたのに、紗琉ちゃんが飽きるわけがない! あの日の償いとか言いたいんでしょ? 紗琉ちゃんはいつもそう! 何かある度にすぐ一人で背負おうとする! 太鼓を叩かないってのも、どうせあの時の私がケガしたことに責任を感じてるんでしょ!」
……ぐうの音も出ない。確かに私は、あの日の償い、あの日の一夜のケガに責任を感じているからこそ『太鼓を叩かない』って心に誓った。
……一夜には一度も言ったことなかったのに、それを彼女は周知していたとは。
「本当に嫌いだったら、助っ人の時だって、あんな楽しそうな顔してないでしょ!」
「…………」
「……それに、本当はあの日のことは私が悪いのよ。……私がムリして隠れて自主練してたのが悪いんだから」
「……え?」
「私、紗琉ちゃんが本気になってる顔、見たことなかったから……。だからこそ、私はどうにかして紗琉ちゃんの足を引っ張らないようにって、隠れて練習してたの。その積み重ねであんなことになったの……。だから紗琉ちゃんが悪いわけじゃない」
「一夜……」
「私、別に紗琉ちゃんに太鼓を叩いてほしくないなんて思っていないわ。ううん、本当はもっと叩いていてほしい。だって……紗琉ちゃん。私が見る中で一番楽しそうな顔してるから」
一夜は涙を流しながら訴えていた。
……私はただ、一夜をケガさせてしまった非があるから、だから「もう叩かない」って決めていたのに……本人は「もっと叩いていてほしい」なんて。
「ねぇ、紗琉ちゃん。……もう、一人で背負うことなんかやめて、本当のことを話してほしい。だって私たち……友達じゃない」
こいつは……。
本当……ズルいなぁ。
「……ッ! 本当は私だって叩きたいわよっ! でも、どうしてもあの日のことを思い出して……! ずっと、一夜には申し訳ないってばかり思ってたッ! ケガさせてしまったのも、私が自分のことばかり考えていたからって! だから私は太鼓を叩けなかった! 本当のことが言えなかったの! だから……だからっ!」
……ようやく、一夜に本当の心を伝えることができた。
私だってもっと叩いていたい。『どん・だー』に出たい。……もう一度、あの高みを目指したい!
そして……一夜とともに、優勝カップを手に入れたい!!
「……やっと、聞けた。紗琉ちゃんの本心」
「あんたってば、本当……ずるいわよ。……また、私をあの世界に引き込もうなんて……」
「そりゃそうでしょ。だって紗琉ちゃん、楽しそうだったから」
「そういうあんたもね」
二人で顔をそろえて笑った。なんだ……責任を感じてたのは私だけじゃなかったんだ。
「ねぇ、紗琉ちゃん」
「なによ」
「……今度こそ、本当に優勝を目指しましょう」
「……そうね」
「だから、」
「……ん」
――――あの部へ、入部しましょう。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
へたくそ
MO
青春
野球が大好きなのに“へたくそ”な主人公、児玉良太。
チームメイトで野球センス抜群なキャッチャー、松島健介。
後輩マネージャーで児玉に想いを寄せる、町村早苗。
3人の視点から物語は進行していきます。
チームメイトたちとの友情と衝突。
それぞれの想い。
主人公の高校入学から卒業までの陵成高校野球部の姿を描いた物語。
この作品は
https://mo-magazines.com/(登場人物一覧も掲載しています)
小説家になろう/カクヨム/エブリスタ/NOVEL DAYS
にも掲載しています。
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

あの音になりたい! 北浜高校吹奏楽部へようこそ!
コウ
青春
またダメ金か、、。
中学で吹奏楽部に挫折した雨宮洸。
もうこれっきりにしようと進学した先は北浜高校。
[絶対に入らない]そう心に誓ったのに
そんな時、屋上から音が聞こえてくる。
吹奏楽部で青春and恋愛ドタバタストーリー。

優等生の美少女に弱みを握られた最恐ヤンキーが生徒会にカチコミ決めるんでそこんとこ夜露死苦ぅ!!
M・K
青春
久我山颯空。十六歳。
市販の安いブリーチで染め上げた片側ツーブロックの髪型。これ見よがしに耳につけられた銀のピアス。腰まで下ろしたズボン、踵が潰れた上履き。誰もが認めるヤンキー男。
学力は下の下。喧嘩の強さは上の上。目つきも態度も立ち振る舞いまでもが悪い彼が通うのは、言わずと知れた名門・清新学園高等学校。
品行方正、博学卓識な者達ばかりが集まる学校には似つかわしくない存在。それは自他ともに持っている共通認識だった。
ならば、彼はなぜこの学校を選んだのか? それには理由……いや、秘密があった。
渚美琴。十六歳。
颯空と同じ清新学園に通い、クラスまでもが一緒の少女。ただ、その在り方は真逆のものだった。
成績はトップクラス。超が付くほどの美少女。その上、生徒会にまで所属しているという絵にかいたような優等生。
彼女の目標は清新学園の生徒会長になる事。そのため"取り締まり"という名の点数稼ぎに日々勤しんでいた。
交わる事などありえなかった陰と陽の二人。
ひょんな事から、美琴が颯空の秘密を知ってしまった時、物語が動き出す。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる