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第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~
その126 きっかけ
しおりを挟む「あ、一夜」
とある日の昼休み。食堂から帰ってきてる途中、偶然にも廊下で一夜を見かけた。
……そういや、僕と一夜のパートがホントに減ってきている気がしたからな。ここらで挟みたい作者の思惑だろう。
「……鍵くん?」
「あ、あぁいやなんでもない。……珍しいな、一夜一人なんて」
「えぇ。紗琉ちゃん、今職員室に用事があるって出てるの。それに……」
「それに?」
「いつも紗琉ちゃんとセットじゃないからね……?」
「ハイ、スンマセン……」
とまぁ、他愛もない話をしながら一夜と昼休みのひと時を過ごす。
……あ、そういえば。
「なぁ、一応一夜にも聞いておきたいんだが……」
「あら、何かしら?」
「……中学生の時、紗琉と一緒に『どん・だー』に出ていたよな?」
そう。紗琉から一応直接は聞いていたが、念のための確認だ。
確かに、あの動画の確認のために紗琉には一夜も一緒に出場していたと聞いていたが、まだ本人からの確認は取れていなかった。
それに……紗琉のあの出来事から解くきっかけが、一夜との会話で見つかるかな、なぁんて淡い期待も込めてだった。
対して一夜は、困惑したかのような表情を一瞬見せ、決心したかのように話し始めた。
「……そうね。確かに私と紗琉ちゃんは、中学生の頃に『どん・だー』に出場していたわ」
「……そうか」
「でもどうしたの、急に? それが鍵くんの部活と何か関係があるのかしら?」
「いや、これといっては関係ないんだけど……」
「けど?」
……と、僕はふと思う。これは言ってしまっていいのだろうか……?
紗琉のあの想い……。もしかすれば、一夜にまだ話していないのかもしれない。というか、紗琉のことだし、まだ言ってないんだと思う……。
でも……それでも、
「……紗琉。あいつが『太鼓を叩きたくない』って言ってる理由と、なにか関係があるんじゃないかなって思って……」
――――あの、楽しそうな顔されちゃ、たまったもんじゃない。
あんなに楽しそうだったのに。あんなにいい顔してたのに……!
それを、抑えるなんて……僕にはできないし、してほしくない!
「……どういうこと、それ?」
「……僕、この質問を紗琉にもしたんだ。この前の助っ人の時もあってさ、疑問に思ったんだ。もしかして、紗琉って昔までは『太鼓の鉄人』をやってたんじゃないかって。そしたらたまたま、動画サイトで二人が試合しているのを見たんだ。だから、紗琉に聞いてみたんだ」
「……そう。紗琉ちゃんに聞いちゃったのね」
「でも、紗琉ってば『もう二度と叩かない』ってばっかり言って……。僕、勿体ないと思うんだ。助っ人の時はあんなに楽しそうにやってたのに……」
と、僕は一息吐いた。
「でも、それでも紗琉は『叩かない』って。あんな出来事を引き起こしたのは自分のせいだって……。自分が一夜のことを考えてなかったから……。だからもう『叩かない』って。また始めてしまえば、また同じように他のメンバーに迷惑をかけるって……」
「…………」
「だから僕、一夜にも聞いてみて、何か紗琉がもう一度『太鼓の鉄人』をやれるきっかけがないかなって思って……」
「……ありがとう、鍵くん」
僕の話の途中で、一夜はふっと振り返る。
「……どこに行くの?」
と、一夜はこちらを振り返らずにこう言った。
「……紗琉ちゃんがもう一度、叩くきっかけを作ってくる」
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