125 / 142
第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~
その125 創作ダンス
しおりを挟む「お疲れ様でーす……って、先輩なにしてるんですか?」
とある日の放課後。部室に入ると、望子先輩が飛んだり跳ねたり、奇妙な動きをしていた。よく見ると、望子先輩の前にはスマホが立てかけられており、そこから音楽が流れていた。
「あ、おつかれ~……おっとっと」
「さっきからなにしてるんですか、その奇妙な動きは……」
「なにって……ダンスだよダンス。次の愛育の授業で創作ダンスのテストがあるからさー。それにむけてのっ……練習っ……!」
あぁなるほど。その練習か……ってまだ納得できない僕がいた。
そもそも、ダンスならもう少し器用な感じで踊るものだ。しかし、先輩のやっているのはなんかこう……ホントに奇妙な動きとしか言いようがない。他に言い換えるなら……あ、そうだ。動画サイトにある「ゲッダン☆」ってヤツをもう少し大人しめにしたものだ。
「ここを……こう! いや違うか……。こうかな? これでもない……こう!」
先輩が関節を無視したかのようにヘンなポーズを取り始める。……どこをどうしたら、そんなとこが曲がるのだろうか?
そしてこれはダンスと呼べるのだろうか……? 周りから見たら、ただ先輩が奇怪なポーズをとりながら、スマホを眺めているとしか見えないのだが……。
「おーっす……って、望子。オマエまだあの創作ダンスの練習してんのか……」
「路世先輩、よくあれがダンスの練習だってわかりましたね……」
路世先輩が部室に入ってくるなり、望子先輩のあの奇怪な動きがダンスだとわかるなんて……。まぁ、長年一緒にいりゃそりゃ分かってしまうか。
「だって……。これで合格しなかったら、また居残りなんて……。私運動神経ないのに、こんなのって……こんなのって残酷だよぉ……」
「まぁ……オマエには無理難題だろうな。運動音痴だし」
と、路世先輩はカバンをソファーの上に置くと、望子先輩に近づいていく。
「……で、今度はどんなダンスなんだ」
「これなんだけど……動きが全っ然わかんないの!」
望子先輩は画面はそのままで、スマホを路世先輩に手渡す。
ちょっと洒落た洋楽とともに画面が動き出し、動画が再生される。
「……ふんふん、なるほどな」
「……これ、本当に望子先輩ができるんですか?」
それはあまりにも天と地ほどの差があった。画面の向こうの人はキレイに、かつ大胆にリズムにのって踊っている。ダンスがあまり分からない人でも動きがキレイなのは一目瞭然だった。
そんなダンスを、この運動音痴な望子先輩はやろうとしているのだ。流石の僕もこれは無理だろうとしか言いようがなかった。
「まずはこのポーズからだな」
と、路世先輩は動画を一旦止めると、望子先輩を立たせ、まるでデッサン人形のように体のパーツを動かしていく。
「ここをこうだ」
「こう……?」
「違う違う。こう!」
ぐいっ、とムリヤリ腕を動かす路世先輩。そして徐々に整っていき、しまいには画面と瓜二つのポーズを望子先輩はとっていた。
「おお~っ……」
「いいか。このポーズを体に覚えておけよ」
「分かった~」
「んじゃ、次だな。ここをこうして……」
なんだかんだこうして路世先輩のレクチャーが続き、今日の練習はほぼ自主練のようになっていった。
なお、望子先輩の創作ダンスは合格となり、路世先輩の指導が物凄くいいことを僕は知ることになった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

優等生の美少女に弱みを握られた最恐ヤンキーが生徒会にカチコミ決めるんでそこんとこ夜露死苦ぅ!!
M・K
青春
久我山颯空。十六歳。
市販の安いブリーチで染め上げた片側ツーブロックの髪型。これ見よがしに耳につけられた銀のピアス。腰まで下ろしたズボン、踵が潰れた上履き。誰もが認めるヤンキー男。
学力は下の下。喧嘩の強さは上の上。目つきも態度も立ち振る舞いまでもが悪い彼が通うのは、言わずと知れた名門・清新学園高等学校。
品行方正、博学卓識な者達ばかりが集まる学校には似つかわしくない存在。それは自他ともに持っている共通認識だった。
ならば、彼はなぜこの学校を選んだのか? それには理由……いや、秘密があった。
渚美琴。十六歳。
颯空と同じ清新学園に通い、クラスまでもが一緒の少女。ただ、その在り方は真逆のものだった。
成績はトップクラス。超が付くほどの美少女。その上、生徒会にまで所属しているという絵にかいたような優等生。
彼女の目標は清新学園の生徒会長になる事。そのため"取り締まり"という名の点数稼ぎに日々勤しんでいた。
交わる事などありえなかった陰と陽の二人。
ひょんな事から、美琴が颯空の秘密を知ってしまった時、物語が動き出す。
タビスルムスメ
深町珠
青春
乗務員の手記を元にした、楽しい作品です。
現在、九州の旅をしています。現地取材を元にしている、ドキュメントふうのところもあります。
旅先で、いろんな人と出会います。
職業柄、鉄道乗務員ともお友達になります。
出会って、別れます。旅ですね。
日生愛紗:21歳。飫肥出身。バスガイド=>運転士。
石川菜由:21歳。鹿児島出身。元バスガイド。
青島由香:20歳。神奈川出身。バスガイド。
藤野友里恵:20歳。神奈川出身。バスガイド。
日光真由美:19歳。人吉在住。国鉄人吉車掌区、車掌補。
荻恵:21歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌。
坂倉真由美:19歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌補。
三芳らら:15歳。立野在住。熊本高校の学生、猫が好き。
鈴木朋恵:19歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌補。
板倉裕子:20歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌。
日高パトリシアかずみ:18歳。大分在住。国鉄大分車掌区、客室乗務員。
坂倉奈緒美:16歳。熊本在住。熊本高校の学生、三芳ららの友達・坂倉真由美の妹。
橋本理沙:25歳。大分在住。国鉄大分機関区、機関士。
三井洋子:21歳。大分在住。国鉄大分車掌区。車掌。
松井文子:18歳。大分在住。国鉄大分車掌区。客室乗務員。

手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。
一途に好きなら死ぬって言うな
松藤かるり
青春
私と彼、どちらかが死ぬ未来。
幽霊も予知も過去もぜんぶ繋がる、青春の16日が始まる――
***
小学生の頃出会った女の子は、後に幽霊として語られるようになった。
兎ヶ丘小学校の飼育小屋には幽霊がいる。その噂話が広まるにつれ、鬼塚香澄は人を信じなくなっていた。
高校二年生の九月。香澄は、不思議な雰囲気を持つ男子生徒の鷺山と出会った。
二人は神社境内の奥で転び、不思議な場所に辿り着いてしまった。それはまもなく彼らにやってくる未来の日。お祭りで事件に巻き込まれて死ぬのはどちらかと選択を迫られる。
迷わず自分が死ぬと告げた鷺山。真意を問えば「香澄さんが好きだから」と突然の告白が返ってきた。
超マイペースの変人な鷺山を追いかけ、香澄はある事実に辿り着く。
兎ヶ丘町を舞台にはじまる十六日間。
幽霊も予知も過去もぜんぶ繋がる最終日。二人が積み上げた結末とは。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

あの音になりたい! 北浜高校吹奏楽部へようこそ!
コウ
青春
またダメ金か、、。
中学で吹奏楽部に挫折した雨宮洸。
もうこれっきりにしようと進学した先は北浜高校。
[絶対に入らない]そう心に誓ったのに
そんな時、屋上から音が聞こえてくる。
吹奏楽部で青春and恋愛ドタバタストーリー。

私が一番嫌いな言葉。それは、番です!
水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?
色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。
いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる