どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

文字の大きさ
上 下
115 / 142
第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~

その115 鬼勧誘

しおりを挟む

 それからというもの、望子先輩の勧誘は徐々にエスカレートしていった。
 下駄箱を開ければ一日一回は手紙で『来たれ! 太鼓部!』とだけ書かれたものが入っていたり、ヤバイ時は生徒会室の扉にまでも刺さっていたり……。
 ……だから私はあの大会に助っ人として参加したくなかったのに。
 私はもう二度と叩こうなんて思ってなかった。
 ……あの忌まわしき過去もあるし、今は何より一夜の傍で生徒会長としていたいからだ。
 あの日の償いもこめて……。

「徐々に手紙の量が増えていってるわねー。望子先輩からのラブレター、いい加減にお返事でもしたらどうかしら?」

 と、茶化すように一夜は笑みを浮かべながらそう言った。

「返事なんて返すつもりはないわ。そもそも生徒会が忙しいってのに……。それに私はもう二度と太鼓を叩くつもりはないもの」
「でも、この前の助っ人の時は引き受けたわよね」
「あっ、あれは……この学校のイメージを壊したくなかったからよ! 私はこの学校に誇りを持っているもの! あんなとこであいつらにリタイアされるのも腹ただしいったらありゃしないわよ!」

 確かにそうだ。この前の試合で助っ人に行ったのも、単にこの学校のイメージを壊したくなかったからである。
 ……別に、もう一度太鼓を叩きたいなんて思ってなかった。きっとあれで本当に最後なのだ。

「……それに、私はこのまま生徒会長としてこの学校をよりよくしたい。それが今の私の夢なのよ」
「紗琉ちゃん……」
「ほら。ボサっとしないで、今日中に終わらせる書類があるでしょ。さっさと取り掛かって、下校時刻までにはちゃんと帰るわよ」
「はーい」

 ……そう。私はこれから先、太鼓を叩く予定なんてないし、叩くつもりもない。
 本当に、あれ一回が最後なんだから……!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

曖昧なカノジョのメテオロロジー

ゆきんこ
青春
 晴人は『ある能力』のせいで友達と踏み込んだコミュニケーションが取れない高校生。  夏休みの最終日にいつもの釣りスポットでおひとりさまを楽しんでいた晴人。  ガツンとくる強い引きは大物の予感! ところが自分の釣り糸が隣の釣り糸に絡まってしまい、心雨と名乗る少女と思わぬ交流をすることに。  17年間友だちナシ彼女ナシのボッチ高校生男子が、突然恋に落ちるのはアリですか?  訳アリな二人のちょっと不思議なボーイ・ミーツ・ガール!  °˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°【それはカフェラテとカフェオレの違いくらいのこと】°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

【短編】怖い話のけいじばん【体験談】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。 スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。

意味が分かると怖い話 完全オリジナル

何者
ホラー
解けるかなこの謎ミステリーホラー

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...