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第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~
その110 唐突な知らせ
しおりを挟む夏休み直前にその事件は起きた。
「えぇ……路世先輩次の試合これなくなったんですか」
「あぁ、すまんな……」
と、路世先輩は申し訳なさそうにそう答えた。
そう。路世先輩が急遽、家の都合により、試合に出場できなくなったのである。
もう次の試合まで残り僅かだというのに今言われてしまえばかなりキツいのだが……家の事情ならば仕方ない。
「大丈夫ですよ。私が路世さんの分まで頑張りますから」
ふんすっ、と鼻息を荒くしながらちぃがそう答える。いちになくやる気満々だった。
そうだ。抜けた穴は僕らで塞げばいいのだ。例え路世先輩が試合に出れなくても、僕ら三人で頑張ればきっと勝てる。……いや、絶対に勝てる!
だからこそ、路世先輩は次の試合のことなんか忘れて、本戦のことだけを考えてくれれば十分だ。
次の予選三回戦を勝ち上がれば次はもう本戦なのだ。全国から集められた選りすぐりのチームが競い合い、そのなかで最も強いチームを選ぶ……その試合のことだけを考えてくれればいいのだ。
「ふっ……。分かったよ、オレは次の試合のことなんか考えない。お前たちを信じてるからな」
「はいっ!」
いつになくやる気のちぃだが……一体、どういった風の吹き回しなのだろうか?
なにか悪いものでも食べたのかなぁ……。少し不安になってきている僕がいた。
「……ちぃちゃん、やる気だねー。だったら私も頑張るよー!」
どうやらちぃに影響されたらしく、望子先輩もやる気に満ち溢れているようだった。
「このやる気が空回りしないといいけどな」
「ですね……」
と、路世先輩と顔を合わせながらそうぼそりと呟いたまさにその時だった。
ざしゅり。
なにか物凄い音が聞こえたのを感じた。その音はまるで手首を削ったかのような音で、とても生々しかった。
「路世ちゃん、鍵くん、大変!! ちぃちゃんが!!」
あの音はちぃが手首をケガした音だったのだと後から理解するのだった。
こうして僕らは、次の試合を二人でどうにかしないといけなくなったのだった。
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