104 / 142
第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~
その104 扇風機戦争!?
しおりを挟む「そろそろ夏休みだね~」
「そうですね~」
僕は望子先輩とともに扇風機の目の前に座って涼んでいた。
扇風機の一番強い風にしていても部室全体に届くことはないため、こうして僕たちは扇風機を占領していたのだ。
「おい、ケン後輩に望子。俺たちのほうに風が来ないだろ。もっと離れろよ」
「ええー。いーじゃん別にー。涼みたかったからこっちに来ればいいじゃーん」
ぷくー、と頬を膨らませながら望子先輩は抗議した。……流石はマイペース。自分さえよければ周りのことなんか知らんぷりだ。それが望子先輩らしい。
しかし、この暑さだからか路世先輩も負けてはいなかった。……いや、そもそも彼女が望子先輩に負けることはないだろうが。
「よーし、お前がそういうんだったら……こうしてやるわっ!」
「ああー! 私の扇風機がぁー!!」
路世先輩はなんと、僕と望子先輩から扇風機を取り上げたのだ。……鬼だ。この暑さを扇風機なしで頑張れと言っているのだ。まさしく鬼だ!
「扇風機を占領していたお前たちに言われたくはないわ!」
「でも、暑いですよ?」
「だからって、扇風機を占領しない! ただでさえこの部室は暑いんだからよぉ!」
そう。この部室にはクーラーなんてものはないし、この前生徒会から貰ったもう一台の扇風機は望子先輩が壊してしまったのだ。
……借りて早々に壊すだなんて、生徒会に言いにくかったのでそのままにしているが……扇風機一台でこの部室全体を快適にするのは不可能なことだった。
「元はと言えば、望子が扇風機を壊すからだろ!? だったら壊した張本人はその扇風機で過ごすことだな!」
「ええー……。路世ちゃん鬼すぎるよぉー……」
「鬼で結構! お前はそろそろその性格をどうにか治してもらわんとな」
路世先輩も望子先輩のそのマイペースな性格にカンカンのようだ。……まぁいつものことだし、どうせすぐに忘れているだろうけれども。
「……暑苦しいです」
ちぃはそう、部室の唯一の日陰にちょこんと座ったまま、そう呟いた。その姿はまるで置物のようで、ピクリとも動こうとはしなかった。
「ぐぬぬ……。あ、そうだ! 折角こんな暑いんだし、生徒会に頼んでプール掃除でもやろうよ!」
「大会が近いってのに、お前はよくもそんなこと言えたもんだなぁ……?」
ビキビキ、となにかが悲鳴をあげるような音とともに路世先輩は望子先輩を見下ろしていた。確かに望子先輩の案は最高だが、今の僕らは「どん・だー」の真っ最中。そんな中、一日も練習を止めることはできない状況だった。
「別にいいでしょ。一日くらい休んでもさ! たまには休息も必要だと思うよ」
望子先輩の言い分も分かる。最近、僕らは大会にばかり目がいっていて休息も取らずにずっと練習に励んでいた。
確かに練習も必要ではあるが、たまには気分をリフレッシュするためにも休息は必要ではないかと思った。
「ま……まぁ確かに、このまま練習が続いてぶっ倒れられても困るしな……。分かったよ。明日はオフにしよう」
「やったーっ! じゃ私、早速生徒会に聞いてみるねー」
と、望子先輩は颯爽と部室を出ていった。部室に取り残された僕と路世先輩とちぃは口を揃えてこう言った。
「……あいつ、行動だけはホントに早いよな」
「……望子先輩、行動だけは早いですよね」
「……望子さん、行動だけは本当に早いですよね」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
【完結】立場を弁えぬモブ令嬢Aは、ヒロインをぶっ潰し、ついでに自分の恋も叶えちゃいます!
MEIKO
恋愛
最近まで死の病に冒されていたランドン伯爵家令嬢のアリシア。十六歳になったのを機に、胸をときめかせながら帝都学園にやって来た。「病も克服したし、今日からドキドキワクワクの学園生活が始まるんだわ!」そう思いながら一歩踏み入れた瞬間浮かれ過ぎてコケた。その時、突然奇妙な記憶が呼び醒まされる。見たこともない子爵家の令嬢ルーシーが、学園に通う見目麗しい男性達との恋模様を繰り広げる乙女ゲームの場面が、次から次へと思い浮かぶ。この記憶って、もしかして前世?かつての自分は、日本人の女子高生だったことを思い出す。そして目の前で転んでしまった私を心配そうに見つめる美しい令嬢キャロラインは、断罪される側の人間なのだと気付く…。「こんな見た目も心も綺麗な方が、そんな目に遭っていいいわけ!?」おまけに婚約者までもがヒロインに懸想していて、自分に見向きもしない。そう愕然としたアリシアは、自らキャロライン嬢の取り巻きAとなり、断罪を阻止し婚約者の目を覚まさせようと暗躍することを決める。ヒロインのヤロウ…赦すまじ!
笑って泣けるラブコメディです。この作品のアイデアが浮かんだ時、男女の恋愛以外には考えられず、BLじゃない物語は初挑戦です。貴族的表現を取り入れていますが、あくまで違う世界です。おかしいところもあるかと思いますが、ご了承下さいね。
四条雪乃は結ばれたい。〜深窓令嬢な学園で一番の美少女生徒会長様は、不良な彼に恋してる。〜
八木崎(やぎさき)
青春
「どうしようもないくらいに、私は貴方に惹かれているんですよ?」
「こんなにも私は貴方の事を愛しているのですから。貴方もきっと、私の事を愛してくれるのでしょう?」
「だからこそ、私は貴方と結ばれるべきなんです」
「貴方にとっても、そして私にとっても、お互いが傍にいてこそ、意味のある人生になりますもの」
「……なら、私がこうして行動するのは、当然の事なんですよね」
「だって、貴方を愛しているのですから」
四条雪乃は大企業のご令嬢であり、学園の生徒会長を務める才色兼備の美少女である。
華麗なる美貌と、卓越した才能を持ち、学園中の生徒達から尊敬され、また憧れの人物でもある。
一方、彼女と同じクラスの山田次郎は、彼女とは正反対の存在であり、不良生徒として周囲から浮いた存在である。
彼は学園の象徴とも言える四条雪乃の事を苦手としており、自分が不良だという自己認識と彼女の高嶺の花な存在感によって、彼女とは距離を置くようにしていた。
しかし、ある事件を切っ掛けに彼と彼女は関わりを深める様になっていく。
だが、彼女が見せる積極性、価値観の違いに次郎は呆れ、困り、怒り、そして苦悩する事になる。
「ねぇ、次郎さん。私は貴方の事、大好きですわ」
「そうか。四条、俺はお前の事が嫌いだよ」
一方的な感情を向けてくる雪乃に対して、次郎は拒絶をしたくても彼女は絶対に諦め様とはしない。
彼女の深過ぎる愛情に困惑しながら、彼は今日も身の振り方に苦悩するのであった。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
透明な僕たちが色づいていく
川奈あさ
青春
誰かの一番になれない僕は、今日も感情を下書き保存する
空気を読むのが得意で、周りの人の為に動いているはずなのに。どうして誰の一番にもなれないんだろう。
家族にも友達にも特別に必要とされていないと感じる雫。
そんな雫の一番大切な居場所は、”150文字”の感情を投稿するSNS「Letter」
苦手に感じていたクラスメイトの駆に「俺と一緒に物語を作って欲しい」と頼まれる。
ある秘密を抱える駆は「letter」で開催されるコンテストに作品を応募したいのだと言う。
二人は”150文字”の種になる季節や色を探しに出かけ始める。
誰かになりたくて、なれなかった。
透明な二人が150文字の物語を紡いでいく。
表紙イラスト aki様


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる