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第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~
その102 交差点を超えた(後、多分一周半くらい回った)その先
しおりを挟む紗琉と別れた後、僕はそのまま自販機へと寄って、部員全員分のジュースを購入してから部室へと戻った。
「遅くなりましたー」
「おっそーい!」
望子先輩はじだばだと足を上下に動かしながら、まるで駄々をこねる子どものような仕草を見せた。
……この人はいっつもこんな感じだし、もう僕もいちいち気にしてなんかいられなかった。
「遅かったな、ケン後輩。なにかあったのか?」
「いえ、これといって特には」
紗琉とぶつかったから遅くなったとここで言っても「そうか」と一言で終わってしまうので、別に言わなくてもいいだろうと思った。
「はい。路世先輩はメロンソーダでしたよね」
「ああ。すまんな、ケン後輩」
僕は全員に買ってきたジュースを配っていく。
「はい、ちぃ」
「ありがとうございます、先輩」
「で、望子先輩はこれでしたよね。ぜんざい」
「そうそう私これだぁーいすき……って、なんでこんな暑い時期に温かいぜんざい買ってくるかなぁ……」
「だって、先輩が言ってたものなかったんですよ? それにジュースももうほぼ売り切れてて……唯一買えるのがこれしかなかったんで」
「ええ……」
望子先輩はそのぜんざいのホット缶を片手に、嫌悪の目をしながら見つめていた。
確かにこんな暑い時期にそれを飲むってことは、地獄を見ることと同じようなものだろう。自分だって昔、真夏にコーンスープの缶を買って大惨事になったことがあったものだ。
「そんなことがあったんなら、どうしてぜんざい買ってくるかなぁ……」
「いやぁ……先輩だけ飲み物がなかったら、怒るでしょ?」
「時と場合によるよ!」
「そんな某カードゲームみたいなこと言われても困りますよ!」
……ホント、あのカードゲームの時と場合ってめんどくさいわ。なんだよ、タイミング逃すって。
「……先輩がなに言ってるのか分かりません」
「ちぃ、大丈夫だ。俺も分からん。全然わからん!」
ちぃと路世先輩がなにやらコソコソと話しているようだったが、僕にはまったく聞こえなかった。
「ま、まぁいいじゃないですか。汗もかいて……ほら、一石二鳥ですよ!」
「どこに得があるんだか……。まぁいいや。ありがたく貰っておくよ」
と、望子先輩はそのぜんざいのプルタブを開けた。
「……飲むんですか」
「……それ以外になにをすると思ったのさ」
望子先輩のことだから、部室の窓からそのアツイぜんざいをこぼして通りかかった人にかけるのかと思ってた……なんて言えなかった。
「……丸聞こえなんですけど。ってか、私そんなに性悪人間に見える!?」
「いや、ちょっとした子どものいたずらを毎日のようにやってそうな人には見えますよ」
「いたずらって……そんなことするわけないじゃん! 流石の私もこの歳でピンポンダッシュなんでしないよ! ……あ、ごめん今の訂正。昨日やってたわ」
昨日やってたわ!? この歳になってピンポンダッシュする人を初めて見た! というか、ピンポンダッシュする人ホントにいたんだ!
「お前だったのか! 昨日俺の家にピンポンダッシュしていったヤツは!」
しかも知り合いの家だった!
「ごめん……なんか気分でやりたくなって……」
「ふざけんなよ……あの後出て行っても誰もいないからおかしいと思ったんだが……もう許さねぇ! ぜんざい一気飲みさせてやる!」
「ちょっと! それはやめっ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
望子先輩の断末魔だけが部室……いや、学校中に響くのだった。
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