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第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~

その100 交差点

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「それじゃ、おつかい行ってきますねー」

 ガラガラ、と木製の古臭い部室の扉を閉め、僕は廊下をダッシュした。今日は僕がおつかいに行くことになったからだ。
 次の三回戦に向けた練習も本格的となり、僕らもしっかりと練習に励んでいた。何せ次を突破すれば、予選大会準決勝に出場できるのだから。
 だからこそか、望子先輩も路世先輩も心なしかいつもよりやる気に満ち溢れているような気がした。勿論、僕とちぃも先輩たちの足を引っ張らないようにと必死になってはいるが、先輩たちのレベルについていけているのかは正直なところ分からない。
 けれど、ここまで来たんだし何としてでも勝ちたい気持ちは先輩たちと同じだった。

「……なんだかまだ夢みたいだな」

 最初は完全にルーズな部活だったけれど、今となっては部活動として機能しており、こんなにもガラリと変わるとは思ってなかった。
 きっとこのままだらだらした部活になるのだろうと思っていたけれども……いつの間にかスポコンアニメのように「努力、友情、勝利」みたいな部活動になってて今でも信じられないほどだ。やはり、人間やるときはやるんだな。
 廊下を走りながら角を曲がって階段を降りようとしたその時だった。

 ――――どんっ。

「うわっ!」「きゃあっ!」
 誰かと衝突し、そのまま尻餅をついてしまう。

「いてて……。っと、だ、大丈夫ですか」
「え、ええ……って、なんだケンか」

 衝突した相手は他ならぬ、紗琉だった。僕だとわかるとすぐにいつもの口調に変える。

「なんだとはなんだよ。他に誰だと思ったのさ」
「別に。ってか、廊下は走るなってあれほど言ってるでしょ。いい加減にしないさよね」
「はいはい」

 紗琉の注意をテキトーに聞き流す。毎度毎度こうやって紗琉に怒られるのもなんだか慣れてきた。
 紗琉はこうしてことあるごとに僕のことを叱ってくる。まるで母親のように。世話を焼いてくれるのはありがたいが、正直余計なお節介だった。

「で、アンタはなにしてるわけ?」
「パシリだよ、パシリ。今休憩中だから、人数分のジュース買いに行ってたわけ」
「ふーん……。女の子たちのパシリって……それじゃまるでケンが女子の尻に敷かれてるってカンジじゃない」
「うっ……」

 確かに言われてみれば……。今まで気にしていなかったが、こうして考えてみると望子先輩や路世先輩たちに尻に敷かれているような感じがしてきた。

「あらま、気づかなかったの?」
「ああ……。特に何も気にしてなかったわ……」

 がっくりとうなだれる。……女子に尻に敷かれてるだなんて、男である僕からすれば一生の不覚だろう。

「大袈裟ね……」
「そういえば、紗琉こそなにしてるんだよ?」
「私? 今から職員室に行こうとしてたのよ。それなのに、どっかの誰かさんが廊下を走るから……」

 きっ、とにらんでくる。……どうやら怒っているようだ。僕は慌てて紗琉に謝罪した。

「ごっ、ごめんって! 僕も次の大会あるから急いでてさ……」
「まったく……」

 やれやれと肩をすくめる紗琉。……僕が反省していないこともどうやら筒抜けのようだった。

「まぁいいわ。それじゃ、私急いでるから」
「あ、うん……」

 と、階段を一段降りたところで紗琉は止まった。

「あ、そうだ。ケン」
「ん、なんだよ?」
「……次の試合、負けるんじゃないわよ」
「え、あ……うん。がんばるよ」

 それだけを言うと、今度こそ紗琉はその場を去って行った。そこに残るのは僕だけ。
 ……今さっき紗琉は「負けるな」って言っていたような。つい前までは太鼓部を敵視していたような気がしていたが……いつから応援する側に回ったのだろうか。

「……ま、いいか」

 そんなことはあまり気にせず、僕はそのまま自動販売機のほうへと向かうのだった。
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