どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

文字の大きさ
上 下
98 / 142
第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~

その98 青春の定義

しおりを挟む

「それで、今日はまたどうして各部活動の見回りなんかしてるのかしら?」

 と、隣を歩く一夜に尋ねられる。私はその問いに答えを返すことはなかった。
 今日は特に仕事がないわけでもないが、部活動の見回りをしておこうかと思ったのだ。
 こういう時に限って、よくないことが起こることが多い。……虫の知らせってやつなのだろうか。

「でもまぁ、こうしてみると色んな部活があるものよね」

 と、まるで独り言のように呟く一夜。
 確かにこの学校は部活動が活発で、いろんな部活動が多い。野球とサッカーだけかと思いきや、ラグビーやフットサル、はたまた男子ソフトボールなど。男子の屋外スポーツの部活と言うだけでこれだけの部活動が上げられるのだ。
 それほど、この学校は部活動に精を入れている。それは生徒会である私も承知の上だった。ただでさえ生徒会が人手不足だというのに、部活動は増える一方なのだからたまったものではない。
 何故かムダに増えていく生徒会の仕事。それにはこの部活動の増加が原因だからだ。それに加え、存続の部活からは毎度のことながら「部費が少ない」と言われ続けるのだ。
 そりゃそうだ。他に部活が増えていくのだから部費が少し少なくなるのは仕方のないことだ。それに部費が少なくなるのはたかが一か月だけの話。来月からはちゃんと新規の部活込みで全部活動の部費が入ってくるので元通りになる。
 そういう点も踏まえ、私は部活動が増えていくのには反対だった。

「いいよねー。私も部活に入って青春の汗を流したいわー」
「……どうせアンタのことよ。三日で根を上げるに決まってるわ」

 夢見がちな一夜に現実を思い知らせてやる。一夜は部活に入ってみたいとは口にするものの、身体が全然追い付いていけずにすぐに根を上げるのがいつものパターンだった。私と太鼓を叩いていた時も実際そうだったから。

「でも、それでも青春の一ページに部活動やってたって記録を残しておきたいじゃない? 努力、友情、勝利! って」
「……アンタまたなんかの漫画に影響でもされた?」

 馬鹿馬鹿しいセリフを吐く一夜を見ながら、私はため息を漏らさずにはいられなかった。きっとコイツは昨日遅くまで少年漫画でも見ていたのだろう。そのせいでこんなことを口走っているに違いない。

「えへへ……。やっぱりバレてた?」
「アンタと一体何年の付き合いだと思ってるのよ。そのくらいの考えはお見通しよ」

 肩をすくめながらそう返す。
 青春の汗……。それはもう私には無縁のものだった。
 私は一度コイツとともに「どん・だー」を目指してともに切磋琢磨したのだ。どれだけの時間をかけて血の滲むような練習をしてきたのかなんて覚えていない。
 しかしそれを私はこの手でチャラにしてしまったのだ。自分で始めたにも関わらず。
 それ以来私は、部活動をやりたいとは思ったこともないし、もう私には青春とかそんな少年漫画のようなことをする資格はなかった。
 自分で作り上げた部活ですら、自分で崩壊させてしまうのだから……。

「…………」

 もし、あの時に戻れたならば私は……あの時と同じ選択をするのだろうか。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

きっと、忘れられない恋になる。

りっと
青春
高校二年生の相沢恭矢(あいざわ きょうや)は、片想い中の同級生・小泉由宇(こいずみ ゆう)が他人の記憶を奪い、自分のものにする能力を持っていることを知る。 由宇の力になりたいと思った恭矢は、積極的に彼女に関わるようになる。 二人はどんどん仲を深めていくものの、恭矢は由宇の幸せを願うあまり、自身の楽しかった思い出を彼女に与えはじめてしまう。 結果、恭矢の人格は変わってしまい、二人の気持ちもすれ違っていく。 由宇は能力を使って恭矢の中から自分に関する記憶を奪い、互いの恋心をなかったことにする。 だけど、たとえ全部忘れても、何度でも君に恋をする。 また一から好きになる。 一癖ありますが純粋な二人の恋物語です。お楽しみいただければ幸いです。

【完結】立場を弁えぬモブ令嬢Aは、ヒロインをぶっ潰し、ついでに自分の恋も叶えちゃいます!

MEIKO
恋愛
最近まで死の病に冒されていたランドン伯爵家令嬢のアリシア。十六歳になったのを機に、胸をときめかせながら帝都学園にやって来た。「病も克服したし、今日からドキドキワクワクの学園生活が始まるんだわ!」そう思いながら一歩踏み入れた瞬間浮かれ過ぎてコケた。その時、突然奇妙な記憶が呼び醒まされる。見たこともない子爵家の令嬢ルーシーが、学園に通う見目麗しい男性達との恋模様を繰り広げる乙女ゲームの場面が、次から次へと思い浮かぶ。この記憶って、もしかして前世?かつての自分は、日本人の女子高生だったことを思い出す。そして目の前で転んでしまった私を心配そうに見つめる美しい令嬢キャロラインは、断罪される側の人間なのだと気付く…。「こんな見た目も心も綺麗な方が、そんな目に遭っていいいわけ!?」おまけに婚約者までもがヒロインに懸想していて、自分に見向きもしない。そう愕然としたアリシアは、自らキャロライン嬢の取り巻きAとなり、断罪を阻止し婚約者の目を覚まさせようと暗躍することを決める。ヒロインのヤロウ…赦すまじ!  笑って泣けるラブコメディです。この作品のアイデアが浮かんだ時、男女の恋愛以外には考えられず、BLじゃない物語は初挑戦です。貴族的表現を取り入れていますが、あくまで違う世界です。おかしいところもあるかと思いますが、ご了承下さいね。

四条雪乃は結ばれたい。〜深窓令嬢な学園で一番の美少女生徒会長様は、不良な彼に恋してる。〜

八木崎(やぎさき)
青春
「どうしようもないくらいに、私は貴方に惹かれているんですよ?」 「こんなにも私は貴方の事を愛しているのですから。貴方もきっと、私の事を愛してくれるのでしょう?」 「だからこそ、私は貴方と結ばれるべきなんです」 「貴方にとっても、そして私にとっても、お互いが傍にいてこそ、意味のある人生になりますもの」 「……なら、私がこうして行動するのは、当然の事なんですよね」 「だって、貴方を愛しているのですから」  四条雪乃は大企業のご令嬢であり、学園の生徒会長を務める才色兼備の美少女である。  華麗なる美貌と、卓越した才能を持ち、学園中の生徒達から尊敬され、また憧れの人物でもある。  一方、彼女と同じクラスの山田次郎は、彼女とは正反対の存在であり、不良生徒として周囲から浮いた存在である。  彼は学園の象徴とも言える四条雪乃の事を苦手としており、自分が不良だという自己認識と彼女の高嶺の花な存在感によって、彼女とは距離を置くようにしていた。  しかし、ある事件を切っ掛けに彼と彼女は関わりを深める様になっていく。  だが、彼女が見せる積極性、価値観の違いに次郎は呆れ、困り、怒り、そして苦悩する事になる。 「ねぇ、次郎さん。私は貴方の事、大好きですわ」 「そうか。四条、俺はお前の事が嫌いだよ」  一方的な感情を向けてくる雪乃に対して、次郎は拒絶をしたくても彼女は絶対に諦め様とはしない。  彼女の深過ぎる愛情に困惑しながら、彼は今日も身の振り方に苦悩するのであった。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

【完結】カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。 無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

処理中です...