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第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~
その95 試合後のあふたーとーく
しおりを挟む「なんとか勝ててよかったねー」
と、望子先輩は部室内でソファの上で仰向けに寝そべりながらそう告げた。
……はしたない恰好ではあるが、なんとも注意しづらい。
「おいおい、これで何度目だよ望子。あと、そのカッコはしたないからやめろ」
と、まるで漫才の突っ込みを入れるかのように路世先輩はそう返した。
望子先輩がこうして「勝ててよかった」というのは、今日部活が始まってこれで七回目だ。
流石の僕らもその言葉を聞くのももうかなり飽きていたのだ。
「えぇー。じゃあ、『太鼓部半端ないって!』のほうがよかった?」
「……ちゃっかり流行に乗ろうとすな」
こつん、と望子先輩の頭にチョップを入れる路世先輩。
あの二人が一体なにを言っているのか、僕とちぃにはまったく理解できていなかった。
しかし、今考えるとかなりギリギリの差で勝てたので本当に勝てたのは奇跡だともいえるだろう。
合計スコアの差も僅か千程度。あと少し向こうが上手であれば、今頃肩を落としていたのは僕たちだっただろう。
それほど、ギリギリの差の迫った試合だったのだ。僕もちぃも、勿論望子先輩や路世先輩だって緊張していた。……あ、いや、望子先輩は緊張のきの文字すらなかったけれども。
そんななかで勝てたのは本当に良かったと思う。相手側のチームも、まさか負けるとは思ってなかったらしく、結果発表の時は物凄く驚いていた。
「でもこれで、僕たちはまた一歩『どん・だー』本戦に近づけたわけですよね」
「そうだな」
そう考えれば確かに僕たちは一歩一歩成長しているだろう。一度は回り道をしたけれども、僕らはこうして「どん・だー」への道を一歩一歩進んでいるのだから。
「さてと、んじゃ次の試合に向けて練習を再開するぞ」
「えー。まだちゃんと休めてないよー」
「じゃあ、どのくらい休んだら練習始めるんだよ、望子」
「あと一年くらい?」
「俺たち卒業してるっての!」
なぁんて、路世先輩と望子先輩の漫才コントのような会話を聞きながら、僕はぼーっと窓の外へと目を向けていた。
……最初はこの部活で本当によかったのかと不安になっていた。そりゃ、いきなり部活に入って自由にしていいと言われてしまえば、不安になるのも仕方ないだろう。
しかし今はこうして、しっかりと活動しており、顧問の先生だってちゃんといる。れっきとした部活になっているのだ。
それに個性的ではあるが、面白い先輩たちだっている。僕はこの部活に入って本当によかったんだな、と心から思えるのだった。
「よーし、ケン後輩、ちぃ! あそこで寝てる部長はほっといて、俺たちだけで『どん・だー』を目指そうな!」
「あっ、ずるい! ちぃちゃんは私のものだよー!!」
「……私は誰のものでもないのですが」
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