どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

文字の大きさ
上 下
95 / 142
第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~

その95 試合後のあふたーとーく

しおりを挟む

「なんとか勝ててよかったねー」

 と、望子先輩は部室内でソファの上で仰向けに寝そべりながらそう告げた。
 ……はしたない恰好ではあるが、なんとも注意しづらい。

「おいおい、これで何度目だよ望子。あと、そのカッコはしたないからやめろ」

 と、まるで漫才の突っ込みを入れるかのように路世先輩はそう返した。
 望子先輩がこうして「勝ててよかった」というのは、今日部活が始まってこれで七回目だ。
 流石の僕らもその言葉を聞くのももうかなり飽きていたのだ。

「えぇー。じゃあ、『太鼓部半端ないって!』のほうがよかった?」
「……ちゃっかり流行に乗ろうとすな」

 こつん、と望子先輩の頭にチョップを入れる路世先輩。
 あの二人が一体なにを言っているのか、僕とちぃにはまったく理解できていなかった。
 しかし、今考えるとかなりギリギリの差で勝てたので本当に勝てたのは奇跡だともいえるだろう。
 合計スコアの差も僅か千程度。あと少し向こうが上手であれば、今頃肩を落としていたのは僕たちだっただろう。
 それほど、ギリギリの差の迫った試合だったのだ。僕もちぃも、勿論望子先輩や路世先輩だって緊張していた。……あ、いや、望子先輩は緊張のきの文字すらなかったけれども。
 そんななかで勝てたのは本当に良かったと思う。相手側のチームも、まさか負けるとは思ってなかったらしく、結果発表の時は物凄く驚いていた。

「でもこれで、僕たちはまた一歩『どん・だー』本戦に近づけたわけですよね」
「そうだな」

 そう考えれば確かに僕たちは一歩一歩成長しているだろう。一度は回り道をしたけれども、僕らはこうして「どん・だー」への道を一歩一歩進んでいるのだから。

「さてと、んじゃ次の試合に向けて練習を再開するぞ」
「えー。まだちゃんと休めてないよー」
「じゃあ、どのくらい休んだら練習始めるんだよ、望子」
「あと一年くらい?」
「俺たち卒業してるっての!」

 なぁんて、路世先輩と望子先輩の漫才コントのような会話を聞きながら、僕はぼーっと窓の外へと目を向けていた。
 ……最初はこの部活で本当によかったのかと不安になっていた。そりゃ、いきなり部活に入って自由にしていいと言われてしまえば、不安になるのも仕方ないだろう。
 しかし今はこうして、しっかりと活動しており、顧問の先生だってちゃんといる。れっきとした部活になっているのだ。
 それに個性的ではあるが、面白い先輩たちだっている。僕はこの部活に入って本当によかったんだな、と心から思えるのだった。

「よーし、ケン後輩、ちぃ! あそこで寝てる部長はほっといて、俺たちだけで『どん・だー』を目指そうな!」
「あっ、ずるい! ちぃちゃんは私のものだよー!!」
「……私は誰のものでもないのですが」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

へたくそ

MO
青春
野球が大好きなのに“へたくそ”な主人公、児玉良太。 チームメイトで野球センス抜群なキャッチャー、松島健介。 後輩マネージャーで児玉に想いを寄せる、町村早苗。 3人の視点から物語は進行していきます。 チームメイトたちとの友情と衝突。 それぞれの想い。 主人公の高校入学から卒業までの陵成高校野球部の姿を描いた物語。 この作品は https://mo-magazines.com/(登場人物一覧も掲載しています) 小説家になろう/カクヨム/エブリスタ/NOVEL DAYS にも掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

優等生の美少女に弱みを握られた最恐ヤンキーが生徒会にカチコミ決めるんでそこんとこ夜露死苦ぅ!!

M・K
青春
久我山颯空。十六歳。  市販の安いブリーチで染め上げた片側ツーブロックの髪型。これ見よがしに耳につけられた銀のピアス。腰まで下ろしたズボン、踵が潰れた上履き。誰もが認めるヤンキー男。  学力は下の下。喧嘩の強さは上の上。目つきも態度も立ち振る舞いまでもが悪い彼が通うのは、言わずと知れた名門・清新学園高等学校。  品行方正、博学卓識な者達ばかりが集まる学校には似つかわしくない存在。それは自他ともに持っている共通認識だった。  ならば、彼はなぜこの学校を選んだのか? それには理由……いや、秘密があった。  渚美琴。十六歳。  颯空と同じ清新学園に通い、クラスまでもが一緒の少女。ただ、その在り方は真逆のものだった。  成績はトップクラス。超が付くほどの美少女。その上、生徒会にまで所属しているという絵にかいたような優等生。  彼女の目標は清新学園の生徒会長になる事。そのため"取り締まり"という名の点数稼ぎに日々勤しんでいた。  交わる事などありえなかった陰と陽の二人。  ひょんな事から、美琴が颯空の秘密を知ってしまった時、物語が動き出す。

あの音になりたい! 北浜高校吹奏楽部へようこそ!

コウ
青春
またダメ金か、、。 中学で吹奏楽部に挫折した雨宮洸。 もうこれっきりにしようと進学した先は北浜高校。 [絶対に入らない]そう心に誓ったのに そんな時、屋上から音が聞こえてくる。 吹奏楽部で青春and恋愛ドタバタストーリー。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

クルーエル・ワールドの軌跡

木風 麦
青春
 とある女子生徒と出会ったことによって、偶然か必然か、開かなかった記憶の扉が、身近な人物たちによって開けられていく。  人間の情が絡み合う、複雑で悲しい因縁を紐解いていく。記憶を閉じ込めた者と、記憶を糧に生きた者が織り成す物語。

恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした

恋狸
青春
 特殊な家系にある俺、こと狭山渚《さやまなぎさ》はある日、黒服の男に恐喝されていた白海花《しらみはな》を助ける。 しかし、白海は学園三大姫と呼ばれる有名美少女だった!?  さらには他の学園三大姫とも仲良くなり……?  主人公とヒロイン達が織り成すラブコメディ!  小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。  カクヨムにて、月間3位

処理中です...