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第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~
その94 私の過去、私の想い
しおりを挟むその日。私は運命を選択されていた。いつもよりも人の賑わうその会場の中、彼女はいつになく苦痛を味わっているかのように見えた。
「本当に大丈夫なの!?」
「えぇ。もうなんともないわ」
そう彼女はにこやかに笑みを浮かべてくる。しかしそれでも彼女のことだ、無理をしている可能性だってある。
……いや、彼女がこんな仕草をする時は決まって無理をしている時だ。長年ともに過ごしてきた私だからわかる。
私だって、本当は今日を乗り越え、その先へと駒を進めたい想いでいっぱいだった。……でも、そうすればきっと、私の隣にいる彼女は壊れてしまうだろう。
彼女か、未来か。私は今、究極の選択を迫られている最中だった。……一体どちらが正解なのかなんて知らない。彼女を取れば、ここまで来た努力は水の泡となるし、未来を取れば、もう一生彼女とともに戦うことすらできないだろう。
「……っ」
ぐっ、と下唇を噛んだ。まさかこんな大事な日にこうなるなんて、私自身も誰も思ってなかったからだ。
そうこうしているうちに、着々と時間は過ぎていき、選択肢を選ぶ時間が限られていく。……一体、どうすればいいのだろうか。
一体この状態のままでどのくらいの時間が経ったのだろうか? 十分? 二十分? いや、もしかすれば一時間くらいもう経っているのかもしれない。
そうなってしまえば、私たちの番はもう目前ではないだろうか。
「すみませーん。そろそろお時間ですけど、準備は大丈夫でしょうか?」
「紗琉ちゃん……」
「……くそっ」
一体なにが正解なのか、なにが不正解なのか分からない私は――――――――
* * *
「……ちゃん、紗琉ちゃん」
……誰かが私を呼んでいる声がする。でもどうしてだろうか。意識が朦朧としており、返答を返すことができなかった。意識が朦朧としている……? まさか!?
急いで私は意識を覚醒させる。……やはり私は居眠りをしていた様子だった。腕にはなにかしらの型がついており、それが居眠りをしていたという動かざる証拠となっていた。
隣には一夜がおり、生徒会室には私たち二人の姿しかなかった。
「紗琉ちゃん、大丈夫? 疲れてるんじゃないかしら?」
心配そうに顔を覗かせる幼馴染。……そういえば、最近体育大会やその他の仕事が増え、睡眠時間を大幅に削られていたのだった。
「……ごめん。別に疲れてたってワケじゃないの。ただの寝不足よ」
「あんまり変わらないと思うんだけど……」
確かに言い方としてはあまり変わりはしないが、別に疲労のための寝不足ではない。活動時間のせいでの寝不足なのだ。
昨日も睡眠時間は三時間を切っていたハズだ。まぁ殆どが生徒会の仕事のせいで時間を削ってしまったのだが。
「それにしても、随分とうなされていたわよ。まさか……」
「……別に。アンタの思ってるようなこととは違うわ」
嘘だ。私はまた、あの『悪夢』によってうなされていたのだから。
……私は一度、一夜とともに「どん・だー」を目指すために奮闘していた。中学の頃から太鼓の鉄人は嗜んでいたため、自分で言うのもアレだが腕はかなりあった方だと思う。
予選を突破し、とうとう本選へと勝ち進んだまさにその時だった。
一夜がケガを負ったのだ。予選決勝戦にて折れたバチが一夜の手に長い切り傷を負わせたのだ。
その後、一夜のケガは治っていったものの、肝心の本選には出場できずに会場まで行って、その後私たちの出番まで残り一分のところで辞退を選んだのだ。
あの時はどうすればいいのか分からず、私は一夜とともに約束した夢を捨てたのだ。自分の身勝手な決断で。
それ以来、私は太鼓の鉄人で遊ぶことはなく、その話すらしたくなくなった。自分の独断で約束を破ってしまったからだ。
あの出来事を思い出すだけで、「自分はなんて身勝手なのだろうか」と思うようになってしまっていった。
そんな身勝手を治すために、私は生徒会に入ったというのに……未だにこの傷は治らない一方だった。
……きっと一夜もそれに感づいているのだろう。だからこそ、こうして私をいつも気遣ってくれている。
「……いい加減、私も治さないと」
この「身勝手」をいい加減に治すためにも、私は生徒会長として、自分のことよりもみんなのことを優先するようにならないと、と思うのだった。
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