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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その93 背後に潜む影
しおりを挟む「……ふぅん。これがあいつらの実力か」
ため息交じりに呟きながら、その光景を見つめる一つの影。
それが見ているものは「どん・だー」予選第二回戦である海老津学園こと、「b's」対桜ケ丘学園の試合である。
序盤は桜ケ丘学園が優勢であったものの、後半戦で海老津学園が一気に追い上げ、すでに結果は見なくても分かる程度だった。
「……でもまぁ、このままじゃ本戦になんか行けるわけないか」
ふん、と鼻をならしながら踵を返す。彼女もまた、彼らの実力を十二分に知っているものの、彼ら海老津学園太鼓部を認められなかった。
それはかつての自分たちの影を照らし合わせているかのような……。
「……ち。なんでこんなところまで来て、大嫌いな太鼓の鉄人の試合なんか見ないといけないのか」
自分から足を運んだのに、こんなことを言うのもアレだが……正直自分は「太鼓の鉄人」が大嫌いだ。
イヤな過去を思い出し、自分の不甲斐なさを感じさせるからだ。 以前は沼にハマっていたかのようにやっていたのに、あの事件以来嫌いになってしまったのだ。
だからこそ、自分の学校に太鼓部なんて必要ないと思ったし、何度も潰してやろうかと思った。でも、彼らはその障害をなんとも思わずに乗り越えていったのだ。
……あいつは言っていた。「今の太鼓部こそ、これからの希望になる」と。だが、私はそうは思えなかった。
私たちの時と同じ二番煎じになるとしか思えない。このままいけば、確実に本戦一回戦で潰れてしまうだろう。
そんなことにならないためにも、私は何度も忠告したハズ。それなのに彼らは私の話に耳を傾けることはなかった。
「……まったくね」
試合の結果はもちろんのこと、彼ら「b's」の勝利となっていた。「b's」のメンバーは勝利したことをチームで喜んでいた。
……その笑顔がいつまで続くのか。そんなことを思いながら会場を後にする。
「……これが『希望』だなんて、笑わせてくれるわね……一夜」
こんなのは『希望』でもなく、『絶望』だ。そう思うのははたして、私だけなのだろうか……?
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