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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その88 蒼川先生の秘密
しおりを挟む前回、なんとかして僕らは部活動の許可を貰った。
その放課後。僕らは部室にて、蒼川先生を招きいれ、練習をすることになったのだ。
「これが部室ですか……なんだか一つの部屋みたいです」
蒼川先生は部室をぐるりと見渡しながらそう呟く。
確かに、部室と言いつつもソファや冷蔵庫、更にはパソコンまで完備してあるのだ。
これは部室というより、まるでアパートの一部屋みたいな空間だ。
「まぁそうですよね……あはは」
苦笑しながらも僕は先生と話を合わせる。
正直僕も、この部活に入って間もない頃はこうしてこの部室の異様さに戸惑いを隠せなかった。
部室といえば、部活道具などが置いてある場所としか思っていなかったのに……こんなワンルームみたいな部室があるのが驚きだった。
「それじゃ鍵くん、練習を始めるよ」
「あ、はーい」
望子先輩に呼ばれながら、僕は部室に備え付けの「太鼓の鉄人」の前に立つ。
次の予選が近いため、一秒たりとも時間をムダにはできない状況だった。
そのため、先生がいようともしっかり練習はすることになっていた。
「ケン後輩、そこのリズムが間違っているぞ。もっとしっかり曲を聴くんだ!」
「はっ、はいっ!」
路世先輩に注意されながらも、久々の太鼓に戸惑う僕。
あれだけ練習していたのに、少し間を空けただけでこんなに腕が落ちてしまうとは思ってなかった。
「ま、仕方ないよ。今回の指定曲難しいし」
「……そういう望子も、ケン後輩よりもミスが多くなってるぞ」
「え、あ……ホントだ」
望子先輩ですら、僕以上にミスしているほどだ。こりゃ今回間が空いてしまったのは本当にダメだったと思う。
あれだけ練習していたのに、この間のせいですべて水の泡と化していた。
「こりゃまた一から頑張らないといけないようだな」
「そうですね……」
「あはは……」
深いため息を吐く僕と路世先輩に対し、望子先輩は苦笑していた。
と、そこへ近づいてくる一つの人影があった。……蒼川先生だった。
「少し借りますね」
と、僕のバチを取り上げ、僕らが苦戦していた譜面を一から叩き始める。
素早く、そして正確な叩き。華麗なバチ捌き。綺麗なロールを僕らに見せつけ、先生は僕らが苦戦していたその譜面を見事、フルコンボしてみせたのだった。
「……え?」
僕ら部員は全員、驚きを隠せなかった。
……まさか、蒼川先生がそんな難しい譜面を一発でフルコンできたという事実が本当だと信じられなかったからだ。
「……先生、もしかして」
「……えぇ。昔は私もこうして太鼓の鉄人をやったものです」
……どうやら僕らの顧問候補は、太鼓の鉄人上級者のようだった。
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