88 / 142
第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その88 蒼川先生の秘密
しおりを挟む前回、なんとかして僕らは部活動の許可を貰った。
その放課後。僕らは部室にて、蒼川先生を招きいれ、練習をすることになったのだ。
「これが部室ですか……なんだか一つの部屋みたいです」
蒼川先生は部室をぐるりと見渡しながらそう呟く。
確かに、部室と言いつつもソファや冷蔵庫、更にはパソコンまで完備してあるのだ。
これは部室というより、まるでアパートの一部屋みたいな空間だ。
「まぁそうですよね……あはは」
苦笑しながらも僕は先生と話を合わせる。
正直僕も、この部活に入って間もない頃はこうしてこの部室の異様さに戸惑いを隠せなかった。
部室といえば、部活道具などが置いてある場所としか思っていなかったのに……こんなワンルームみたいな部室があるのが驚きだった。
「それじゃ鍵くん、練習を始めるよ」
「あ、はーい」
望子先輩に呼ばれながら、僕は部室に備え付けの「太鼓の鉄人」の前に立つ。
次の予選が近いため、一秒たりとも時間をムダにはできない状況だった。
そのため、先生がいようともしっかり練習はすることになっていた。
「ケン後輩、そこのリズムが間違っているぞ。もっとしっかり曲を聴くんだ!」
「はっ、はいっ!」
路世先輩に注意されながらも、久々の太鼓に戸惑う僕。
あれだけ練習していたのに、少し間を空けただけでこんなに腕が落ちてしまうとは思ってなかった。
「ま、仕方ないよ。今回の指定曲難しいし」
「……そういう望子も、ケン後輩よりもミスが多くなってるぞ」
「え、あ……ホントだ」
望子先輩ですら、僕以上にミスしているほどだ。こりゃ今回間が空いてしまったのは本当にダメだったと思う。
あれだけ練習していたのに、この間のせいですべて水の泡と化していた。
「こりゃまた一から頑張らないといけないようだな」
「そうですね……」
「あはは……」
深いため息を吐く僕と路世先輩に対し、望子先輩は苦笑していた。
と、そこへ近づいてくる一つの人影があった。……蒼川先生だった。
「少し借りますね」
と、僕のバチを取り上げ、僕らが苦戦していた譜面を一から叩き始める。
素早く、そして正確な叩き。華麗なバチ捌き。綺麗なロールを僕らに見せつけ、先生は僕らが苦戦していたその譜面を見事、フルコンボしてみせたのだった。
「……え?」
僕ら部員は全員、驚きを隠せなかった。
……まさか、蒼川先生がそんな難しい譜面を一発でフルコンできたという事実が本当だと信じられなかったからだ。
「……先生、もしかして」
「……えぇ。昔は私もこうして太鼓の鉄人をやったものです」
……どうやら僕らの顧問候補は、太鼓の鉄人上級者のようだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【本当にあった怖い話】
ねこぽて
ホラー
※実話怪談や本当にあった怖い話など、
取材や実体験を元に構成されております。
【ご朗読について】
申請などは特に必要ありませんが、
引用元への記載をお願い致します。

「天気予報は気まぐれガールズ」
トンカツうどん
青春
紹介文:ようこそ、天気が気まぐれな世界へ!この物語の舞台は、普通の日常と非日常が交錯するちょっと不思議な街。そこに住む主人公・白井隼人は、平凡な高校生…だったはず。しかし、ある日突然、彼のクラスにやってきた転校生たちは、なんと天気を擬人化した少女たちだった!台風を擬人化した颶風(サフウ)紗風は、まさに嵐を巻き起こすトラブルメーカー。彼女が現れると、まるで天気が彼女の気分に合わせて荒れ狂うようになる。天真爛漫でいつも元気な陽晴光(ひばり ひかり)は高気圧そのもの。彼女がいると周りが一瞬で明るくなるけれど、ちょっと暑すぎるかも?そして、冷徹で冷静な氷雨冷奈(ひさめ れいな)は寒冷前線の化身。彼女が現れると、瞬く間に周囲の空気が冷え込み、まるで冬が訪れたかのような静寂が広がる。さらに、軽口が得意な偏西風の青年・西風悠(にしかぜ ゆう)も登場し、隼人の平穏な日々は一気にカオスへと変貌する。彼女たちはそれぞれが持つ独特な能力で、隼人の生活に次々と波乱を巻き起こしていく。彼が求めるのは、ただの平凡な日常なのに…!笑いあり、ハラハラドキドキありの気まぐれガールズたちが織りなす異色の天気予報。天気を操る彼女たちとの出会いは、隼人にとって驚きと感動の日々となるのか、それともさらなるトラブルの幕開けなのか?風が吹き、雨が降り、太陽が輝く中で繰り広げられる、ちょっぴり不思議で愉快な学園生活が今、始まる!

桃色DK×4
山本記代 (元:青瀬 理央)
青春
のんびり、時々騒がしい仲良し四人組の男子高校生は、遊びに部活、恋にバイトと大忙し。
大人から見れば正にゆるゆるライフ。
でも、それを送る彼らは必死で真剣。
楽しければそれで良し! 面白ければ尚最高!
足りないものは、笑いとあの子とテストの点数。
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる