どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その87 太鼓部再開の兆し

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 蒼川先生に相談した後、僕らは生徒会室へと向かっていた。
 理由は明白。蒼川先生を顧問として迎えるためにも、僕らがどんな練習をしているのかを見せるためである。
 先生自体もどんな部活動なのかを知りたいようで、見学を希望していた。しかし、顧問の先生が決まるまでは部活動をしてはいけないと紗琉に言われ、そこで蒼川先生を顧問として迎えられなかったのだ。
 だからこそ、紗琉に蒼川先生を顧問候補とし、部活動の見学をしてもらうべく、部活動の許可を得ようとしていた。

「しかし、なかなか回りくどいよな」

 と、ため息交じりに路世先輩は告げた。
 確かに。今回はかなり回りくどい。顧問を探して部活動を再開しようとしていたのに、顧問候補が部活動を見学して決めると言い出し、今度は顧問を探せと言った本人の下へと戻っていくのだ。
 まるでたらい回しにされてるような感覚で、かなり回りくどかった。

「でもまぁ、紗琉ちゃんが許可してくれたら蒼川先生が顧問になってくれるかもしれないんだし、ここが一番の踏ん張りどころだよ!」

 と、いつになく前向きな望子先輩。
 やはりこの人は、なんでもかんでもポジティヴに変えてしまうから不思議だ。

「そうですね。でも紗琉がそうカンタンに許可をくれるでしょうか……?」

 そもそも太鼓部自体を嫌っている紗琉のことだ。そうカンタンに許可をくれそうにはなかった。
 一夜が会長ならばまだしも可能性はあるけれども、あんなに太鼓部を嫌っている紗琉のことだ。そうカンタンに部活動の許可をくれそうにはなかった。
 そんなことを思いながら歩いていると、生徒会室に辿り着いていた。

「それじゃ、みんな大丈夫?」

 望子先輩の返答に、部員全員頷く。
 一体紗琉にまた何と言われるのか恐れて普通に生徒会室に入ることが出来なくなっており、こうして一々入ることに覚悟が必要なほどだ。
 望子先輩が生徒会室の扉をノックする。すると、直後に「はい」と返答が返ってきた。

「失礼しまーす……」

 望子先輩は生徒会室の扉を開ける。と、そこにいるのは紗琉ではなく一夜だけだった。
 珍しいことに紗琉の姿がなく、なんだか拍子抜けだった。

「あれ、紗琉は?」
「紗琉ちゃんなら、今職員室にいるわよ? 紗琉ちゃんになにか用かしら?」
「いや、用ってほどではないけど……」
「生徒会長がいないなら副会長でもいいからお願い! 太鼓部の活動の許可がほしいです!」

 と、望子先輩は空気も読まずに自分の言いたいことをそのまま直球で告げた。

「あら……。それはどうしてかしら? 紗琉ちゃん曰く、顧問の先生が決まるまで活動は停止って聞いたんだけど?」
「それが、一応顧問の先生の候補は決まったんだけど、その先生は太鼓部がどんな部活動か見学してみないと決められないって言ってたから……。頼むよ、一夜!」

 望子先輩に代わって僕が説明し、一夜に向けて頭を下げる。
 きっと紗琉ならば、許可が下りる可能性は極めて低いだろう。それに僕らは一刻を争う猶予もない状況だ。
 次の予選までもう残り僅かだというのに、こんな顧問の先生を見つけるのに時間をかけたくはなかった。
 一夜はじっ、とこちらを凝視している。……まさか、紗琉もだけど一夜も太鼓部を嫌っているのだろうか?
 やがて一夜の顔がやんわりと和らぐと、

「……いいわ。紗琉ちゃんには内緒だけど、これ渡しておくわ」

 と、僕らの部室の鍵を渡してくれた。望子先輩が鍵を閉めた後、紗琉に盗られていたその鍵を、一夜は僕らに託してきてくれたのだ。

「一夜……」
「このことが紗琉ちゃんに知られたら一大事だから、くれぐれも内緒にね?」
「……あぁ。サンキュー、一夜!」

 これで僕らは蒼川先生を部に招き入れることができる状況になった。
 あとは先生を部に誘い、顧問の先生になってもらうだけだ。これには望子先輩も喜びを隠しきれていなかった。

「それじゃ今日の放課後、早速誘ってみましょ!」
「はいっ!」
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