どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

文字の大きさ
上 下
85 / 142
第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その85 顧問を探せ!③

しおりを挟む

「その、蒼川先生ってどこにいらっしゃるんですか?」

 二階の廊下を歩きながらちぃが尋ねた。まぁあの人のことだし、どこにいると聞かれても僕もなんとも言えないが。

「昼休みだし、きっと中庭にいるハズだよ。あの人、昼休みの時間はいっつもそこにいるから」

 と、先頭を歩く望子先輩がそう告げた。……なんだ、望子先輩も蒼川先生と面識はあったのか。

「やけにケン後輩も蒼川先生のこと知ってるんだな」
「えぇ……。一度あの先生に授業してもらいましたから……」

 そう遠くないあの日のことを思い出す。それはつい先日、担当の先生が急遽病気で欠席していた時のことだった。
 代わりの先生として、蒼川先生が来ることになったのだ。初めての先生だし、失礼のないようにと思っていたのだが……教室に入ってくるなり、先生は。

「それじゃあ、今日の授業は一時限丸々お昼寝としましょう」

 ……なぁんて言い出したのだ。これにはクラス一同騒然としたものだ。
 勿論、紗琉もしっかり先生に反論した。それでも……。

「まぁいいじゃないですか。先生が許可するので皆さんもどうぞご自由に」

 なんて言ったそばから本人が寝始めるのだ。流石の紗琉もなんとも言えずに自習を始めてしまう始末だった。
 これほどまでマイペースで自由気ままな先生は見たことがなく、僕もどうしていいのか分からずじまいのまま一時限を過ごしたのだ。
 そんな先生に、太鼓部の顧問を頼み込むだなんて……なんだか不安で仕方なかった。

「そんなに凄い先生なんですね……」

 一度も会ったことのないちぃでさえもかなりの引き具合だった。そりゃいきなり『はい、この時間はお昼寝ね』と言われちゃ戸惑うのも無理はないだろう。

「まぁ確かに、あの先生はかなりマイペースだからな。それでも、あの先生だからこそ、この部活の顧問は似合うと思うぞ、俺は」
「確かに、別に練習も試合も来なくていいですから好きにしてもらっても構いませんが……」

 路世先輩の言う通り、僕らの部の顧問としては適任だと思うが……それでもやっぱり何かしら不安要素が僕の中にはあった。
 そんな疑念を抱えながら、僕らは先生のいるであろう中庭へとたどり着く。と、誰かが中庭の芝生に仰向けになって寝ているではないか。

「……まさか」
「……そのまさかだろうな」

 僕と路世先輩はそうすでに察していた。……あれが蒼川先生であると。顔を本で覆っていても確実に理解できた。

「蒼川せんせぇー!」

 望子先輩が芝生の上で寝そべっている人物に近づいていく。と、それと同時に芝生の上で寝そべっていたその人もムクリ、と起き上がる。
 銀色のショートカットの髪をなびかせ、その人は顔を覆っていた本を手に取り、僕らにその顔を見せつけてくる。

「なんでしょうか、望子先輩?」

 ……マイペースな教員、蒼川碧先生の姿がそこにあった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

CROWNの絆

須藤慎弥
青春
【注意】 ※ 当作はBLジャンルの既存作『必然ラヴァーズ』、『狂愛サイリューム』のスピンオフ作となります ※ 今作に限ってはBL要素ではなく、過去の回想や仲間の絆をメインに描いているためジャンルタグを「青春」にしております ※ 狂愛サイリュームのはじまりにあります、聖南の副総長時代のエピソードを読了してからの閲覧を強くオススメいたします ※ 女性が出てきますのでアレルギーをお持ちの方はご注意を ※ 別サイトにて会員限定で連載していたものを少しだけ加筆修正し、2年温めたのでついに公開です 以上、ご理解くださいませ。 〜あらすじとは言えないもの〜  今作は、唐突に思い立って「書きたい!!」となったCROWNの過去編(アキラバージョン)となります。  全編アキラの一人称でお届けします。  必然ラヴァーズ、狂愛サイリュームを読んでくださった読者さまはお分かりかと思いますが、激レアです。  三人はCROWN結成前からの顔見知りではありましたが、特別仲が良かったわけではありません。  会えば話す程度でした。  そこから様々な事があって三人は少しずつ絆を深めていき、現在に至ります。  今回はそのうちの一つ、三人の絆がより強くなったエピソードをアキラ視点で書いてみました。  以前読んでくださった方も、初見の方も、楽しんでいただけますように*(๑¯人¯)✧*

四条雪乃は結ばれたい。〜深窓令嬢な学園で一番の美少女生徒会長様は、不良な彼に恋してる。〜

八木崎(やぎさき)
青春
「どうしようもないくらいに、私は貴方に惹かれているんですよ?」 「こんなにも私は貴方の事を愛しているのですから。貴方もきっと、私の事を愛してくれるのでしょう?」 「だからこそ、私は貴方と結ばれるべきなんです」 「貴方にとっても、そして私にとっても、お互いが傍にいてこそ、意味のある人生になりますもの」 「……なら、私がこうして行動するのは、当然の事なんですよね」 「だって、貴方を愛しているのですから」  四条雪乃は大企業のご令嬢であり、学園の生徒会長を務める才色兼備の美少女である。  華麗なる美貌と、卓越した才能を持ち、学園中の生徒達から尊敬され、また憧れの人物でもある。  一方、彼女と同じクラスの山田次郎は、彼女とは正反対の存在であり、不良生徒として周囲から浮いた存在である。  彼は学園の象徴とも言える四条雪乃の事を苦手としており、自分が不良だという自己認識と彼女の高嶺の花な存在感によって、彼女とは距離を置くようにしていた。  しかし、ある事件を切っ掛けに彼と彼女は関わりを深める様になっていく。  だが、彼女が見せる積極性、価値観の違いに次郎は呆れ、困り、怒り、そして苦悩する事になる。 「ねぇ、次郎さん。私は貴方の事、大好きですわ」 「そうか。四条、俺はお前の事が嫌いだよ」  一方的な感情を向けてくる雪乃に対して、次郎は拒絶をしたくても彼女は絶対に諦め様とはしない。  彼女の深過ぎる愛情に困惑しながら、彼は今日も身の振り方に苦悩するのであった。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

シチュボの台本詰め合わせ(女性用)

勇射 支夢
恋愛
書いた台本を適当に置いておきます。 フリーなので好きにお使いください。

あの空の向こう

麒麟
青春
母親が死に天涯孤独になった、喘息持ちの蒼が 引き取り先の兄と一緒に日々を過ごしていく物語です。 蒼…日本と外国のハーフ。   髪は艶のある黒髪。目は緑色。   喘息持ち。   病院嫌い。 爽希…蒼の兄。(本当は従兄弟)    職業は呼吸器科の医者。    誰にでも優しい。 健介…蒼の主治医。    職業は小児科の医者。    蒼が泣いても治療は必ずする。 陸斗…小児科の看護師。    とっても優しい。 ※登場人物が増えそうなら、追加で書いていきます。  

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

奏の音楽

0野米類
青春
石田奏はヴァイオリンを始めた頃から天才で数々のコンサートとでも優勝してきた。 奏が10歳の頃お母さんが心臓の病気にかかってしまった。 そんな中、奏が4歳の頃から友達の小山朝陽の父、世界で有名な指揮者小山翔也との共演コンサートがあった。曲は「チャイコフスキー五番」その曲は奏の得意な曲だった。。。 もちろん、ソリストは奏。 奏はお母さんの病気の心配もありつつ演奏することになった。 そして本番当日。。。! コンサート当日でもお母さんの病気は治らなかった。演奏が始まっても奏の頭の中ではお母さんでいっぱいだった。。。 でも演奏中は止められない。奏はお母さんがいっぱいいっぱいで舞台を降りてしまった、 観客もみんなパニックになっていた。。 その観客の中には小山朝陽もいた、朝陽は奏が勝手に舞台を降りたのを見て。。。!?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...