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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その85 顧問を探せ!③
しおりを挟む「その、蒼川先生ってどこにいらっしゃるんですか?」
二階の廊下を歩きながらちぃが尋ねた。まぁあの人のことだし、どこにいると聞かれても僕もなんとも言えないが。
「昼休みだし、きっと中庭にいるハズだよ。あの人、昼休みの時間はいっつもそこにいるから」
と、先頭を歩く望子先輩がそう告げた。……なんだ、望子先輩も蒼川先生と面識はあったのか。
「やけにケン後輩も蒼川先生のこと知ってるんだな」
「えぇ……。一度あの先生に授業してもらいましたから……」
そう遠くないあの日のことを思い出す。それはつい先日、担当の先生が急遽病気で欠席していた時のことだった。
代わりの先生として、蒼川先生が来ることになったのだ。初めての先生だし、失礼のないようにと思っていたのだが……教室に入ってくるなり、先生は。
「それじゃあ、今日の授業は一時限丸々お昼寝としましょう」
……なぁんて言い出したのだ。これにはクラス一同騒然としたものだ。
勿論、紗琉もしっかり先生に反論した。それでも……。
「まぁいいじゃないですか。先生が許可するので皆さんもどうぞご自由に」
なんて言ったそばから本人が寝始めるのだ。流石の紗琉もなんとも言えずに自習を始めてしまう始末だった。
これほどまでマイペースで自由気ままな先生は見たことがなく、僕もどうしていいのか分からずじまいのまま一時限を過ごしたのだ。
そんな先生に、太鼓部の顧問を頼み込むだなんて……なんだか不安で仕方なかった。
「そんなに凄い先生なんですね……」
一度も会ったことのないちぃでさえもかなりの引き具合だった。そりゃいきなり『はい、この時間はお昼寝ね』と言われちゃ戸惑うのも無理はないだろう。
「まぁ確かに、あの先生はかなりマイペースだからな。それでも、あの先生だからこそ、この部活の顧問は似合うと思うぞ、俺は」
「確かに、別に練習も試合も来なくていいですから好きにしてもらっても構いませんが……」
路世先輩の言う通り、僕らの部の顧問としては適任だと思うが……それでもやっぱり何かしら不安要素が僕の中にはあった。
そんな疑念を抱えながら、僕らは先生のいるであろう中庭へとたどり着く。と、誰かが中庭の芝生に仰向けになって寝ているではないか。
「……まさか」
「……そのまさかだろうな」
僕と路世先輩はそうすでに察していた。……あれが蒼川先生であると。顔を本で覆っていても確実に理解できた。
「蒼川せんせぇー!」
望子先輩が芝生の上で寝そべっている人物に近づいていく。と、それと同時に芝生の上で寝そべっていたその人もムクリ、と起き上がる。
銀色のショートカットの髪をなびかせ、その人は顔を覆っていた本を手に取り、僕らにその顔を見せつけてくる。
「なんでしょうか、望子先輩?」
……マイペースな教員、蒼川碧先生の姿がそこにあった。
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