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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その77 はじめてのライトノベル
しおりを挟む「なぁ、ケン後輩」
練習の合間の休憩時間。ふと、水分補給をしていた僕に路世先輩が話しかけてきた。
「どうしたんですか、路世先輩」
僕はペットボトルのキャップを閉めながら返事する。
こうして路世先輩が僕を呼ぶのはなんだか、かなり久々な気がした。
最近じゃ、望子先輩が僕に話を吹っかけてきて、その後に路世先輩がフォローを入れるような形ばっかりで、なかなか路世先輩から話しかけてくることはなかったような気がする。
「いや、部室にあるお前たちの本なんだが……」
僕とちぃは部室には沢山の本を持ち込み、読んでは部室にそのまま置いて行っていたのだ。
部室に備え付けられていた本棚は僕らの本でパンパンになり、完全に本棚は僕らの私物置き場と化していたのだ。
まさか、路世先輩は本棚の事物すべてを持ち帰れと言うのだろうか?
「いや違う。あそこの本だが、別に俺が一冊本を持ち出して読んでも構わないか? と聞きたかったのだよ」
「あっ、あー……」
なんだ、そういうことか。僕はてっきりすべて持ち帰れと言いだすかと思ったが……。
しかし、急にどういった風の吹き回しだろうか? 路世先輩が本を読みだすだなんて。
それもそのハズ、僕らが読んでいるライトノベルを持ち出そうだなんて……。
「いや、普段から気にはなっていたんだ。だが、その……ほら、地味に高いし、なんだか買うのに戸惑ってしまってな」
「あはは……」と苦笑しながら路世先輩はそう告げた。
確かに。ライトノベルってのは購入する時が一番緊張してしまう。それも初めて買う時なんて尚更だ。
今になっては平気になってしまっている僕だが、まだまだ読書のどの字もなかった僕にとってライトノベルはなかなか購入するまで勇気が必要だった。
あのレジを通すときの店員の目……。あれが一番気になるものだ。
別に普通の小説なんかはなにも感じないのに、ライトノベルだけはそうはいかない。なんたってあの表紙やタイトルがすべてを物語っているからだ。
完全なるオタク向けの萌え表紙。異様なタイトルの長さ。それらが一般人をドン引きさせる要因なのかもしれない。
ならば普通に小説を買えばいいじゃないか、という考えに至るが……小説とライトノベルは違うのだ。同じ本であっても、決定的になにかが違う。
その違いがいいからこそ、僕は今でもライトノベルを読んでいるのだ。
「分かります! あの店員さんの目が一番怖いですよね!」
「まぁ、そういうワケで……少しの間借りていてもいいか?」
「はい。むしろ、全然オッケーですよ!」
ぐ、と親指を立てる僕。
こうして路世先輩はライトノベルを読み始めることになったのだった。あとで色々と感想を聞いてみたいな、と思うのだった。
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