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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その72 お疲れ様のその後で
しおりを挟むテスト期間も終わり、僕らは「どん・だー」に向けて再出発したワケなのだが……。
「……まさか、こんなことになってるとはな」
路世先輩は部室に入るなり、困った表情で頭を掻いていた。
実際、僕もこうしていつも通りの表情をしているのではあるが、それでも心底この状況はかなり困っていた。
一体誰がこんな状況を望んでいただろうか。いや、誰も望んではいないハズだ。
これから練習だというのに……このままでは練習どころではなかった。
と、そこへ遅れてちぃがやってくる。
「すみません。日直の仕事で遅れて……」
「あぁ、ちぃか。別に構わないが、今は練習どころじゃないぞ」
と、路世先輩が言うと、ちぃもその光景を見て察したのか「あっ…」と声を漏らした。
「まったく……これじゃ、ホントにこのまま時間がただ過ぎていくだけですよ」
そう。みんなが困っていることとは、
「まさか、望子が先に来てそのまま寝落ちしているとはな……」
「まさかですよ。つい昨日までテスト期間だったんですし、その疲れがどっと押し寄せてきたんでしょうね」
そう。望子先輩がすやすやとソファの上で熟睡していたのだ。
その光景は無邪気な子どもが疲れ果てて眠っているかのようで、なかなか起こすにも起こせなかったのだ。
ここで起こしてしまえば練習を始められるのだが……なんだかここで起こしてしまえば謎の罪悪感によって押し潰されそうな予感がして、誰も起こすに起こせなかったのだ。
「にしても、よく寝てるよな」
「ホントですね。まるで人形のようですよ。僕らが近くにいるってのに」
望子先輩はその無防備な状態のまま、ぐっすりと熟睡している。僕らが間近にいるにも関わらず。
この絶対領域を崩すのもアレなので、ちぃより先に来ていた僕らもどうしていいのか分からず、ただ望子先輩が起きるのを待っていたのだ。
「それで、どうするんですか? このまま起こしてもアレですし……」
と、ちぃが告げる。確かに、このまま起こすのもなんだか悪い気はするが、このまま練習しないってのもよくない。
そこは路世先輩が先輩らしく、僕ら後輩を導いてくれた。
「そうだな。俺たちだけで先に練習を始めておこうか。いずれ望子も起きるだろうし」
「そうですね」
と、部長が熟睡中のまま、僕ら太鼓部は部長不在の状態で練習を始めるのだった。
それから数分経ってから、望子先輩が目覚めることはこの時の僕らはまだ知らなかったのだった。
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