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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その71 テストを越えて
しおりを挟む「で、どうだったんですか? テストのほうは?」
全テストが終了し、僕ら太鼓部員はそれぞれ部室に集まっていた。
テストで誰かが赤点を一つでも取れば、廃部と言われ、僕らは一切の練習を取りやめ、勉学に励んだのだ。
僕は特に赤点を取るような教科もなく、なんなくと平均点を超えるくらいの得点ばかりだった。
「私は特に問題はありませんでした」
「まぁ、そりゃちぃは僕が教えたし、しっかり内容は理解できてたから大丈夫だとは思ってたけどね……」
ちぃはパサリ、とテーブルに自身の解答用紙をすべて広げた。そこにはしっかり五十点以上の点数が赤ペンで書きこまれており、ちぃが赤点を回避したことを雄弁に語っていた。
……それにしても、数学九十六点って、僕は数学のほうはまったくと言っていいほど教えていないのにそこまで取れるとは思ってなかった。
「私、数学は結構できるようで。中学の頃から数学の成績だけはいいんです」
「へぇ……。小学校の頃はあんなに嫌ってたのに?」
まさか数学嫌いのちぃが、ここまで急成長しているとは思ってなくて、僕は唖然とするしかなかった。
これならちぃはそのまま理系に進むこともできるだろうな。
「次は俺かな」
と、さっきまでちぃが解答用紙を置いていたテーブルの上にパッと自分の解答用紙を広げる路世先輩。
やはり路世先輩は見た目通り、成績優秀だった。
赤点どころか、七十点台がなく、すべての教科において八十九十もの高得点を出していたのだ。
「すごいですね……。赤点どころか、ほとんどの教科が八十点越えだなんて……」
「そんなに凄いことでもないさ。しっかり授業を聞いていれば、このくらい取れて当然だろ」
と、さも当たり前かのように路世先輩はそう答えた。どうしてこの先輩はこうも涼しい顔をしていられるのだろうか……。
路世先輩は勉強の時はほとんど望子先輩に教えているばかりで、自分の勉強というものをまったくしていなかったというのに……。
「っと、最後は望子先輩ですよ」
これで残るは望子先輩だけだった。散々路世先輩に教えられながら、なんとかテスト勉強をしていたのできっと大丈夫だとは思うが……。
少し不安が残る中、望子先輩はふふふ……と笑みを浮かべていた。
「この私を誰だと思ってるのよ! 太鼓部部長の赤間望子よ! そんなのが赤点なんか取るわけないじゃない!」
「……前回の二年の最後のテストの点数は?」
「七点!」
「まるっきり赤点じゃないですか!!」
路世先輩に乗せられながら、望子先輩は自信満々にそう赤裸々に点数を喋った。
七点って……逆にどこをどうしたらそんな点数が取れるのか聞きたいほどだった。
「前回は前回よ! 今回の私は違うわ!」
と言って、バン! と解答用紙をテーブルの上に叩きつけた先輩。
そこには赤ペンで「七点」と書き込まれていた。
「今回も同じじゃねぇか!!」
「間違えた。これ、前回の答案だった……」
路世先輩に突っ込まれながら、望子先輩は別の答案をカバンの中から取り出すのだった。
その後、僕らはちゃんと赤点を回避している望子先輩の答案を目の当たりにし、なんとか廃部を阻止したことを心から喜ぶのだった。
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